自民党総裁選の行方を大胆に予測するというテーマでフジテレビ「Mr.サンデー」の取材を受けた。9月5日夜の放送でジャーナリストの鈴木哲夫さん、政治アナリストの大濱崎卓真さんと並んで私のコメントが紹介された。
私は①感染爆発と医療崩壊のさなかに党内権力闘争で政治空白を生じさせた自民党の責任は重い②菅義偉首相の不出馬は岸田文雄前政調会長との「安倍争奪戦」に敗れた結果であり、菅政権は安倍傀儡だった③総裁選に意味があるとすれば「安倍支配からの脱却」ができるかどうかだーーと取材に対して指摘したうえで、総裁選の行方についてコメントした。
総裁選は国会議員票383票(1人1票)と党員票383票(約113万人の党員票を比例配分)の計766票の過半数を取れば勝ち。誰も過半数に届かなければ上位2人による決選投票に持ち込まれる。今回は候補者が乱立して決選投票で決着する可能性が高い。決選投票は国会議員票383票と各都道府県連に1票ずつ配分された党員票47票の計430票で争う。国会議員票の比重が格段に増すので、ここまできたら派閥の力がモノをいう。
現在のところ出馬が見込まれているのは、岸田文雄前政調会長(64)、河野太郎ワクチン担当相(58)、石破茂元幹事長(64)、高市早苗前総務相(60)。このほか野田聖子幹事長代行(61)と下村博文政調会長(67)も出馬に意欲をみせている。共同通信が9月4〜5日に実施した「次の首相に誰がふさわしいか」という世論調査では、河野氏が31.9%、石破氏が26.6%、岸田氏が18.8%だった。
まずは皆さんに予測を聞いてみよう。今回は「あなたが自民党員なら誰に投票するか」ではなく「あなたは誰が勝つと予測するか」である。そのうえで私がコメントした内容を紹介したい。
自民党総裁選を制するのは誰だと思いますか
岸田氏は第5派閥・岸田派(46人)を率いる。国民的人気が低く、派閥の数でも対抗できないため、安倍氏が率いる最大派閥・細田派(96人)と第2派閥・麻生派(53人)の支援が頼みだ。安倍氏と麻生氏にひたすら恭順の意を示し、両氏が求める二階俊博幹事長の交代を真っ先に掲げた。内閣支持率が続落する菅首相よりはマシということで支持を広げ、菅首相を不出馬に追い込んだ。現時点では本命視する識者は多い。決選投票に勝ち残れば安倍氏や麻生氏の派閥の力を後ろ盾に勝利する可能性は高い。
しかし、菅首相の退場で「菅首相よりマシ」という最大の売りは失われ、国民的人気の高い河野氏や石破氏の参戦で一気に失速する恐れも。事前の世論調査で苦戦が伝えられると安倍氏らの支持を得ることができず、総裁レースから早々と脱落する展開もありえる。そのときどきの権力者にすり寄り、何をめざしているのか不明瞭な政治家像が出来上がっていることが最大の弱点だ。
岸田氏については9月7日発売のサンデー毎日に『お公家集団 宏池会の領袖 岸田文雄の弱み』と題して詳細な分析を寄稿したのでご覧になってほしい。
河野氏は世代交代を求める党内若手から支持を集める。「選挙の顔」としての期待も高い。世論調査でトップを走っており、党員投票で優勢が伝えられると「勝ち馬に乗れ」の空気が広がって地滑り的に勝利する可能性もある。河野氏を軸に総裁選が展開されそうだ。
菅内閣の閣僚としてワクチン政策を担当しているため、菅首相が出馬すれば名乗りをあげることは困難とみられていたが、菅首相の不出馬表明をうけて早々に出馬に意欲を見せた。菅首相も河野支持の意向を示している。自らが出馬断念に追い込まれた時は同じ神奈川県選出で気脈を通じる河野氏を担いで安倍・麻生両氏を後ろ盾にする岸田氏に対抗する考えだったようだ。
河野氏の弱点は、菅内閣が支持率を落とす主因となったコロナ政策に直接かかわったことであり、国民的不人気の菅首相の「後継者」と位置付けられる点だろう。河野氏が首相になっても、無為無策のコロナ対策は変わらないのではないか。総裁選でそこを追及されたときにどう応じるかが焦点となる。また、河野氏は安倍内閣でも外相や防衛相などの主要閣僚を務めた。安倍政権の疑惑解明に前向きな姿勢をみせるのか否かも注目だ。
河野氏のアキレス腱は所属派閥・麻生派との関係。麻生氏は世代交代を嫌って昨年秋の総裁選で河野氏の出馬に反対した。今回は出馬自体は認めるものの、派閥としては支援しない見通しだ。麻生氏との決別覚悟で出馬に踏み切れるか、出馬しても麻生氏の影響力を払拭できるかも課題となろう。
石破氏は昨年秋の総裁選では岸田氏にも敗れ最下位に沈んだ。石破派からは離脱が相次ぎ、出馬に必要な推薦人数の20人を割り込んだ。存在感はすっかり陰り、今回の総裁選への出馬にも消極的だった。ところが、菅首相の不出馬をうけて一転して意欲をみせている。今回がラストチャンスという思いがあるだろう。安倍・麻生両氏と対立し、河野氏ともそりのあわない二階幹事長の支援を受ける可能性が高い。
過去4回も総裁選に出馬しており、党員への知名度は抜群だ。安倍内閣の閣僚を2016年に退いた後は安倍首相に干され続けた。その結果、安倍首相をめぐる数々の疑惑や無為無策のコロナ対策には直接関与せず、自由に批判できる立場にある。自民党は政権が行き詰まった時は「振り子の原理」で非主流派に首相を移して国民世論を引き寄せてきた歴史がある。衆院選を間近に控え、安倍・菅政権からの刷新を求めて石破政権の誕生に期待する声がベテラン党員を中心に広がる可能性がある。総裁選の候補者のなかでは政治キャリアは最も充実しており、質疑も安定している。総裁選の討論を通じて支持を拡大する展開もありえる。
高市氏は安倍氏に近い右派政治家である。無派閥でありながら、今回の総裁選では誰よりも早く8月上旬に菅首相の対抗馬として名乗りをあげた。当初は安倍氏が①総裁選無投票の流れをとめて菅首相を牽制するため②二階氏が野田聖子幹事長代行を擁立するのを牽制するために出馬表明させたとみられていたが、菅首相が不出馬を決めると安倍氏は真っ先に高市支持を表明。極右言論界や安倍氏に近い若手議員から高市支持の声が相次いでいる。
安倍氏の本命は自らの従順な岸田氏とみられてきた。高市氏の出馬を支援するのは、候補者を乱立させて岸田氏に不利な党員投票を分散させて決選投票に持ち込み、最後は派閥の票を岸田氏に結集させて河野氏や石破氏に競り勝つという戦略の可能性はある。とはいえ、安倍氏の「高市支持」は岸田氏の失速を誘発する可能性もある。安倍氏は岸田氏失速を気配を感じ取り、本命を高市氏に変えたのかもしれない。高市氏の得票は自民党のキングメーカーとして君臨する安倍氏の本当の実力を測るバロメーターとなるだろう。
このほか、野田氏と下村氏は出馬に必要な推薦人20人を集めることができるかが焦点だ。野田氏は二階氏頼みだが、二階氏が石破支持に全力を上げる場合、野田氏の出馬で党員投票が分散するのは不利とみられ、野田氏が協力を得られるかは不透明だ。下村氏は安倍氏率いる清和会のメンバーだが、安倍氏は足元の清和会が割れることを嫌って下村氏の出馬に否定的。推薦人確保は容易ではないだろう。
以上の考察からすると、総裁選の焦点である「安倍支配からの脱却」の可能性が高いのは①石破氏②河野氏③岸田氏④高市氏の順となる。私は自民党が安倍支配からの脱却をめざす期待を込めて「本命は石破氏、対抗は河野氏」とコメントした。そのうえで、誰が自民党総裁選に勝っても、私たち有権者が自民党政権に審判を下すのはその後の衆院選であること、その際は新総裁の背後にいる「ほんとうの権力者」をよく見定めて投票する必要があると訴えた。
それでは、改めて皆さんの予測を聞いてみよう。ご意見・ご提言は政治倶楽部に無料会員登録し、以下のコメント欄から投稿してほしい。
自民党総裁選を制するのは誰だと思いますか