ついに誕生した。日本初の女性総理、高市早苗。
日本政治の新しいページが開かれた。だが、その政権基盤はきわめて脆い。
自民党と日本維新の会の連立は、衆参ともに過半数割れ。しかも維新は閣外協力にとどまり、少数与党の不安定な船出となった。
このままでは石破政権以上の“迷走国会”になるのは避けられない。
高市政権にとっての勝負どころは、年明け1月だ。
維新の反対を振り切って解散総選挙を断行できるかどうか――それが長期政権への道を切り開く最大の分岐点となる。
■かろうじて過半数に届いた首班指名
衆院の定数は465。自民党196議席、維新35議席を足しても過半数に2議席足りない。
高市総裁は、維新を離党した無所属3人を取り込むなどして、首班指名では過半数を超える237票を確保。辛うじて第一回投票で総理の座を射止めた。
衆院では、野党が不信任案を出しても否決できる“最低限の安定”を得た格好だ。
だが問題は参議院である。
自民100議席、維新19議席を合わせても過半数に6議席届かない。NHK党の斉藤議員を加えても足りず、参院の第一回投票では高市氏は過半数に届かなかった。
今後は法案ごとに、国民民主や立憲民主の一部議員を個別に引き込まなければならない。参院での多数派工作が、高市政権の初期運営のカギを握る。
最初の試金石は、自民と維新が合意した「議員定数削減法案」だ。これを成立させられるかどうかが、政権の第一関門となる。
■維新のこだわりと“後退した合意”
維新が連立合意で最も強くこだわったのが、衆院議員定数の1割削減だった。
当初は「食料品の消費税ゼロ」や「企業団体献金の廃止」を掲げていたが、自民党が拒否。維新は矛を収め、定数削減に狙いを絞った。
吉村洋文代表は「比例議席を50減らす」と息巻いていたが、最終合意文書にはその数字は見当たらない。
文言は「1割を目標に削減を目指す」と後退し、しかも「臨時国会で成立を目指す」という努力目標にとどまった。
なぜ腰砕けになったのか。答えは簡単だ。
すべての野党が反対し、参院で可決の見通しが立たないからである。
小選挙区を削減すれば区割りの再編が必要となり、時間がかかる。比例を減らせば公明・共産・れいわ・参政など中小政党が猛反発する。
どちらにしても成立は不可能。結局のところ、維新の「定数削減」は、政治とカネの議論をそらすための“見せ玉”と化した。
■国民民主の「変心」で迷走する臨時国会
連立協議の過程で最も割を食ったのは国民民主党だ。
立憲、国民、維新が野党統一候補の擁立を探る裏で、維新は自民と極秘で連立交渉を続けていた。
これを知った玉木雄一郎代表は「二枚舌だ」と激怒したが、当初は「定数削減には賛成」と歩み寄る姿勢を示していた。
ところが最終合意を見て一転、「比例削減の文言がない」「曖昧すぎる」と批判に転じた。
本音をいえば、国民民主も比例削減では痛手を負う。
労組系候補は比例復活で議席を得るケースが多く、削減されれば直撃を受ける。
このため、参院での可決は絶望的だ。臨時国会での成立はまず見込めない。
とはいえ、連立合意を結んだ以上、定数削減法案を成立させぬまま解散に踏み切れば、維新との約束を破ることになる。
つまり高市首相は、連立を解消する覚悟がなければ、解散できない。
維新はその構造を見越して、「定数削減」をあえて合意に盛り込み、総理の解散権を封じたのである。
■維新の本命は「副首都構想」
維新が真に狙っているのは別にある。悲願の「副首都構想」だ。
連立合意では「来年の通常国会で法案を成立させる」と明記された。
大阪に国の機能を分散させ、莫大な予算を呼び込む――維新の屋台骨を支える経済政策である。
この法案が成立するまでは、絶対に解散を許さない。
だから閣僚を出さず、閣外協力にとどめた。
“人質を取られない”立場で、政権をコントロールするためだ。
■「1月解散」こそ最大の勝負
総理の最大の武器は、解散権だ。
安倍晋三氏は二度の解散で政権を盤石にした。
逆に、菅・岸田・石破の3政権は、最後の一手を打てず退陣に追い込まれた。
高市氏も同じ轍を踏むわけにはいかない。
政権の命運を分けるのは、1月通常国会の冒頭。
ここで解散を打って勝てば、長期政権への道が見えてくる。
しかしこの機会を逃せば、その後の通常国会では予算審議や副首都法案に追われ、解散のタイミングを完全に失う。政治の主導権を維新に握られる。内閣支持率が低迷し、解散を断行するタイミングを逸する恐れがある。
高市氏は、連立を維持して延命を図るのか。
それとも、維新を切って1月解散を断行し、「自前の政権」をつくるのか。
その決断のときが、刻一刻と迫ってくる。