政治を斬る!

高市内閣、積極財政派の片山さつきの財務相起用で宣戦布告──麻生支配との危うい共存

高市早苗新総理が打ち上げた初の閣僚人事は、まさにド派手だった。
最大のサプライズは、財務省出身でありながら“積極財政”の急先鋒である片山さつき参院議員の財務大臣起用だ。女性初の総理に続き、女性初の財務大臣。だが、この人事の本質は“女性登用”ではない。財務省への宣戦布告にほかならない。

片山氏は東大法卒、財務省初の女性主計官という経歴を誇るエリート官僚だったが、積極財政論を掲げたことで旧職場と決裂。以降、政治家としては干され続けた。

そんな片山氏が、高市陣営の推薦人に名を連ね、勝負に出た。その報いが“宿敵”財務省のトップ就任という形で返ってきたのだ。

財務省は総裁選で「高市だけは阻止」と構え、小泉進次郎氏や林芳正氏に肩入れしていた。高市氏の逆転勝利の後も、減税を掲げる国民民主党と連立し、玉木雄一郎代表(財務省OB)が財務大臣に座る展開を最も恐れていた。

維新との連立でようやく胸をなで下ろした矢先の片山起用。霞が関の衝撃は計り知れない。

さらに経済財政担当大臣には、同じく積極財政派の城内実氏。
郵政選挙で造反組と刺客として戦った因縁の2人が、今や「反財務省」の旗印のもとに再結集した。官邸の副長官ポストにも積極財政派を据え、「財務省には取り込まれない」という高市総理の意思がにじむ。


しかし、高市氏の思惑がすべて通ったわけではない。
最大の誤算は“女性登用”だった。
高市氏は過去最多を更新する6人以上の女性閣僚を起用する方針だったが、実現したのはたった2人。片山氏に続き、経済安保担当大臣に保守派の小野田紀美氏を登用しただけである。

麻生太郎副総裁の壁は厚かった。
松島みどり氏ら女性閣僚候補が次々に外され、松島氏は総理補佐官に回された。維新が閣僚ポストを辞退したことで枠は十分にあったはずだが、麻生氏は「高市の思うようにはさせねえ」という姿勢を崩さなかった。
党役員人事でも、政調会長や選対委員長への女性起用案は麻生氏に一蹴されたという。

小野田氏は過去、公明党と衝突し、参院選では唯一公明推薦を得ずに当選した経歴を持つ。公明嫌いの麻生氏が“お気に入り”にしたのも納得だ。


今回の人事で最も勢いづいたのは、旧茂木派である。
18人中6人が入閣し、「内閣は茂木、党は麻生」という二重支配体制が出来上がった。
茂木敏充氏は外務大臣として政権の外交を掌握。麻生氏は副総裁として党に君臨し、幹事長と総務会長も麻生派で独占した。官房長官には旧茂木派の木原稔氏が就任。保守派のホープとされる木原氏だが、実態は“麻生・茂木ラインの番人”という位置づけだ。

麻生派からの入閣はわずか1人。あえて内閣と党を棲み分け、麻生が二重の統制構造を設計したことが見て取れる。木原氏は今後、高市総理と麻生・茂木連合の板挟みになる可能性が高い。


そしてもう一つの焦点、小泉進次郎氏と林芳正氏の処遇。
小泉氏は農水相から防衛相へ、林氏は官房長官から総務相へ。それぞれ“横滑り”という形で政権に取り込まれた。麻生氏は、彼らを推した菅義偉・石破茂・岸田文雄ら旧勢力を封じ込める狙いだ。

菅氏は維新を連立にねじ込み、反撃の足場を得た。これに対し麻生氏は、小泉・林を閣内に囲い込んで動きを封じる戦略に出たのである。
旧岸田派からは3人が入閣。林氏が入閣を受け入れ、麻生・高市ラインとの激突を回避したことで、それなりに処遇された。林氏を抑え込んで総理再登板を狙う岸田氏への牽制でもある。石破側近の赤沢亮正氏は経産相に横滑りし、石破派の動きを縛った。

旧安倍派からの起用は、片山さつき氏と若手の松本尚氏の2人のみ。裏金問題の余波を考慮し、萩生田光一氏の幹事長代行就任を除けば、最小限に抑えた格好だ。

高市内閣の人事は、財務省への挑戦と麻生支配の共存という矛盾を抱える。
真価が問われるのは、ここからだ。