自公与党が国民民主党に対して冷淡な提案を行った。年収が103万円を超えると税金がかかる「年収の壁」の引き上げ問題について、自公与党は、国民民主党の要求する178万円案には程遠い修正案を提示した。政治的には国民民主党を切り捨てたといっていい。
自公与党と国民民主党の間で繰り広げられている年収引き上げ問題は、単なる税制改正にとどまらず、政治的な力学をも左右する重要な案件となっている。
今後、国民民主党がどのような判断を下すのか、そしてその結果がどのように次の選挙に影響を与えるのか、目が離せない。
自公与党案の概要
年収の壁とは、年収が103万円を超えると所得税が課せられる仕組みのこと。
昨年10月の衆院選で自公与党は惨敗して過半数を割った。そこで年収の壁の引き上げ(所得税減税)を掲げて躍進した国民民主党の主張を一部受け入れ、昨年末の予算編成でこの壁を年収123万円に引き上げる方針を決定した。国民民主党はさらに引き上げて、178万円にすることを提案していた。
しかし、自公与党が示した修正案は、国民民主党の要求に大きく背離するものだった。
提案内容は、所得制限を設け、年収500万円までの場合は123万円を引き上げるものの、それ以上は123万円に据え置く。さらに年収200万円までは引き上げ幅を大きくするというものだ。
これでは年収500万円以上の人は減税額が数万円程度にとどまり、減税効果をさほど感じられない。低所得者向け政策の側面が強まり、「中間層」への影響が小さい。
国民民主党が賛成できない理由
国民民主党は、「低所得者」よりも「中間層」の支持拡大を重視した政策を掲げてきた。特に大企業の労働組合や中間層サラリーマン世代、若年層に向けた減税政策に力を入れている。
自公与党案では、「中間層」の恩恵が少ないため、国民民主党が賛成に転じるのは非常に難しい。
一方、立憲民主党は高齢者層や社会保障を重視しており、減税政策に消極的な姿勢を見せている。特に財務省に近い立場の野田義彦代表は増税派とされ、党内減税派の江田憲司氏らが唱える「食料品の消費税率ゼロ案」にも否定的だ。
自公与党の狙いと政治戦略
自公与党は、国民民主党の反発を見越してこの提案を行ったとみて間違いない。
自公与党は、維新が唱える高校無償化には大幅に譲歩する一方、国民民主党が唱える所得税減税には冷淡な回答を突きつけた。維新の共同代表に就任した前原誠司氏が石破茂首相とは防衛族議員として盟友関係を続けている一方、国民民主党の玉木雄一郎代表や榛葉賀津也幹事長は石破首相の政敵である麻生太郎元首相と親密であることが大きな要因であろう。
さらには国民民主党の年収の壁引き上げに満額回答すれば7〜8兆円の財源が必要とされる一方、維新の高校無償化なら6000億円程度で済むと試算されていることから、財務省も「維新のほうが安くつく」とみている。
さらには自公与党の本命は立憲民主党との大連立にあり、参議院選後には消費税増税を旗印にした大連立を目指す戦略が練られている。国民民主党は立憲民主党との連携には後ろ向きであることから、自公与党が国民民主党に対して冷淡な態度をみせるのは、立憲民主党への配慮の側面も強いだろう。
国民民主党の進むべき道
国民民主党は、今後の政局で重大な決断を迫られる立場にある。
自公与党の提案を受け入れて予算案に賛成すれば、「中間層」を支持基盤に持つ同党は、支持者を裏切る形になり、参院選に向けて失速する恐れがある。
しかし、自公与党案を拒否しても、維新の賛成により予算案は成立し、国民民主党の存在価値はさらに薄れてしまう可能性がある。
玉木代表は、3月3日に代表の任期停止期間が終了するが、その後すぐに政局判断を迫られることになる。自公与党との妥協を選ぶのか、それとも麻生氏ら非主流派と結託し、石破降ろしに加担するのか、国民民主党の今後の動きが注目される。