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国民民主党はどこへ向かうのか――玉木代表が見据える「第三極」の新ステージ

国民民主党が補正予算案に賛成した。
玉木雄一郎代表は衆院予算委員会で質問に立ち、高市早苗総理、片山さつき財務大臣と次々に意気投合。その直後、賛成に回る方針を表明した。

この展開をめぐり、マスコミは「ガソリン税の暫定税率廃止が実現したからだ」と解説している。
だが、これは大きくピントが外れている。

いま国民民主党は、「家計」を直接支援する減税から、「企業の投資」を後押しする減税へ、目玉政策の重心を移し、新しいステージへ進みつつある。補正予算賛成の背景にあるのは、ガソリン税でも年収の壁でもなく「投資減税」だ。
玉木代表と高市・片山コンビが予算委員会で示した蜜月ぶりは、その象徴である。

■玉木代表と高市・片山コンビ、投資減税で急接近

12月10日の衆院予算委員会。
玉木代表はまず、日本経済が抱える本質的課題として「潜在成長率の低迷」を取り上げた。アメリカが2.4%あるのに対し、日本は0.3%。とくに「労働」と「資本」の生産性が低いと指摘し、働き控えを解消するため「年収の壁」引き上げも訴えた。高市総理も前向きな姿勢を示したものの、確約するには至らなかった。

しかしこの日、玉木代表と高市総理が最も意気投合したのは「資本」の生産性向上をめぐる議論だった。
玉木代表は「高市内閣の経済政策で一番大事なのは投資拡充だ」と切り込み、「ハイパー償却税制」を提案。投資額以上の償却を認め、企業に思い切った投資を促す大胆な政策だ。「投資しないと損」という状況をつくるべきだと身振り手振りを交えて訴えた。

高市総理はこれに満額回答した。「大胆な国内投資減税を進めていく覚悟だ」「確実に対応する」。
片山財務大臣までもが「減税を含めた財政出動はマクロにプラス」「将来の増減収も踏まえ戦略的に行う」と前向き姿勢を見せ、従来の財務省路線から大きく踏み出した。

玉木代表は満面の笑みで「今日の片山大臣は前向きでいいですね」と応じ、質疑を締めくくった。

■補正賛成の本当の理由は「ガソリン税」ではない

質疑後、玉木代表は記者団に「前向きな対応が見えた。補正予算に賛成で臨みたい」と明言した。
これに対し各社は「ガソリン税の暫定税率廃止が実現したため」と分析するが、流れをきちんと追えば、それは見当違いだとわかる。

ガソリン税と年収の壁は、国民民主党の看板政策だった。昨年の衆院選で石破政権が過半数割れとなり、補正予算協力と引き換えに暫定税率廃止を政府側が受け入れた経緯はある。しかし石破政権はその約束を棚上げし、国民民主党は強く反発。参院選での躍進につながった。

高市政権はその遺恨を修復しようと歩み寄り、暫定税率の廃止を受け入れたものの、今やガソリン税は他党も同じように求める争点になり、国民民主党だけのものではなくなった。

こうした流れを見ても、今回の補正賛成の主因はガソリン税ではない。
玉木代表自身、私も出演したABEMAプライムでの議論で、この点を示唆していた。他党に横取りされようが構わない、それで実現するなら歓迎する――そう語り、むしろ「次の政策」を先取りする姿勢を強調した。

その「次」が、投資減税だった。

■家計から企業へ――軸足の移動は吉か凶か

国民民主党は、家計支援のガソリン税・年収の壁から、企業支援の投資減税へ、看板政策の重心を移している。
これは政治的に大きな転換だ。

投資減税が実現すれば、企業の投資が増え、賃上げにつながる可能性はある。
しかし「家計」と「企業」のどちらを軸に据えるかは、政治姿勢そのものを左右する問題だ。

自民党は一貫して企業寄りである。
そこに寄り添えば、国民民主党の「家計最優先」という独自色が薄まる懸念もある。

ただ玉木代表は、高市政権が受け入れやすい政策を次々に投げ込み、スピード感を持って成果を積み上げることで、若者・現役世代の支持を維持しようとしているように見える。ここに玉木代表の政治的感度の高さがある。

問題は、軸足の移動をどこまで許容し、どこで踏みとどまるのかだ。
家計重視路線を本当に維持できるのか――これが今後の最大の焦点になる。

■二大政党制の終わり、「多党制」へ舵を切った国民民主党

予算案に賛成するか否かは、長らく「与党か野党か」の境界線だった。
野党である限り、予算案に賛成してはならない。それが日本政治を縛り続けた二大政党制の常識だ。

その常識を最初に破ったのが国民民主党である。
立憲との合流を拒否し、「対決より解決」を掲げ、多党制の時代を切り開く旗を立てた。

岸田政権のときに補正予算へ賛成した際は批判されたが、連立には加わらず、政策実現のために賛否を柔軟に使い分ける姿勢を貫いた。その結果、若者・現役世代の支持を獲得し、選挙で躍進した。

今回の補正予算賛成も、その延長線上にある。
維新が連立入りで先に動いたなか、国民民主党は政権に入らず、しかし政策は通すという道を選んだ。これは「多党制」の時代を前提とした決断である。

もっとも、今後もこの立ち位置を続けられる保証はない。
少数与党の国会状況がいつまで続くかによって、国民民主党の選択肢は大きく変わる。

連立に入るのか、距離を保ち続けるのか。
玉木代表自身も、まだ最終決断を下していないように見える。