政治を斬る!

国民と維新──「犬猿の仲」が急接近する政界の不思議

政界の地殻変動は、いつも静かに、しかし確実に進む。
石破政権の終焉がカウントダウンに入った今、永田町の空気はざわめきを増している。
そして、そのざわめきの中心にいるのが、これまで犬猿の仲とされた二つの政党──そして、石破退陣後の自公連立入りが取り沙汰される国民民主党と日本維新の会だ。


関西テレビで生まれた「化学反応」

8月6日、関西テレビのスタジオに現れたのは、国民民主党の玉木雄一郎代表(56)と、日本維新の会の吉村洋文共同代表(50)。
これまでの距離感からすれば、やや異様なツーショットだ。

番組では、国民が主張する「年収の壁」178万円への引き上げに吉村氏が即座に賛同。
逆に維新の社会保険料引き下げ案に玉木氏が「喜んでやりたい」と応じた。
「玉木さんとできることは協力してやっていく」という吉村氏の言葉に、「現役世代を応援する方向性は一致している」と玉木氏が答える──。
呼吸がピタリと合う様子に、司会者も視聴者も少なからず驚いたはずだ。

極めつけは「副首都構想」のやり取りだ。
吉村氏が「玉木さんとも話を…」と水を向けると、玉木氏は賛意を示しつつ、「大阪ではなく京都や福岡も検討すべき」と逆提案。
本来なら“大阪命”の維新が受け入れがたい話だが、吉村氏は「東京一極集中を変えるという意味では一致」と譲歩してみせた。

この瞬間、永田町では「国民と維新、何かあるのか?」という噂が一気に広がった。


アンチ石破・アンチ野田で一致

両党の急接近の背景には、共通の敵がいる。
石破茂首相、そして立憲民主党の野田佳彦代表だ。

これまで国民と維新は「第三極」の座を奪い合ってきた。
参院選前の国会では、自公政権に自党の政策を飲ませるべく、ほぼ真っ向勝負。
だが、石破政権が維新寄りの姿勢を見せたことで国民との協議は破綻。
国民は反石破色を鮮明にし、参院選では躍進。逆に維新は埋没し、参政党にも抜かれるという屈辱を味わった。

一方、野田代表は参院選敗北後、石破首相に歩み寄りを見せる。
「石破・野田大連立」の可能性が永田町で囁かれるなか、玉木・吉村両氏は「それだけは御免」という思いで完全一致しているのだ。

条件はシンプル。
石破退陣後、新総裁のもとであれば、自公との連立も視野に入れる。
だが、石破や野田とは一線を画す──これが二人の暗黙の了解である。


参政党台頭と“前原リスク”消滅

さらに、両党を接近させたのは参政党の存在だ。
反グローバリズムを掲げる同党は、都市部でも地方でも支持を広げ、国民・維新双方の票田を侵食。
放置すれば第三極の看板を奪われかねない状況になっている。

ここで重要なのは、玉木氏も吉村氏も筋金入りの“グローバリスト”であることだ。
玉木氏は大企業系労組の支援を受け、吉村氏は大阪万博やIR誘致を推進。参政党の立ち位置とは水と油だ。
となれば、共闘の方が得策──という計算が働く。

そしてもう一つ、大きな障害が消えた。
維新の前原誠司共同代表が参院選敗北の責任を取って辞任したことだ。
前原氏は玉木氏との代表選で袂を分かち、国民民主党を離党。維新入り後は石破氏と近い関係を維持してきた。
両党関係の潤滑油どころか摩擦の原因だった人物が維新執行部から退き、一気に和解ムードが高まった。


連立を争うか、タッグを組むか

最大の問題は、両党が同じ“出口”──自公連立入り──を目指す可能性があることだ。
玉木氏は吉村氏に「安易な連立は避けるべき」と釘を刺したが、裏を返せば「安易でなければ良い」とも取れる。

維新と自民をつなぐのは菅義偉元首相、国民と自民をつなぐのは麻生太郎副総裁や茂木敏充前幹事長。
自民党総裁選の結果次第で、どちらが先にゴールテープを切るかが決まる。

だが、二人の距離感を見ていると、別の可能性も浮かぶ。
総裁選の行方に左右されず、しばらくはタッグを組んで自公政権に政策を呑ませる──。
その延長線上で、両党そろって連立入りし、自公国維の“四党連立”が誕生する未来図も描けなくはない。


終わりなき駆け引き

「立憲や共産とは絶対に組まない」
「参政党とは距離を置く」
「まずは自公政権との協議を優先」

この三原則が、玉木・吉村ラインの共通戦略だ。
互いに利害が一致している限り、国民と維新の急接近は続くだろう。

もっとも、永田町の関係は潮目一つで変わる。今日の握手が、明日の決裂に変わることも珍しくない。
それでも今、二人が歩み寄っているという事実は、政界再編のプロローグかもしれない。

政治の季節は、すでに次の章へと移りつつある。