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大阪ダブル選挙は野党再編の好機!共産党参院議員だった辰巳孝太郎氏が知事選へ!れいわは市長選に八幡愛氏を擁立して共闘を呼びかけては?

今春の大阪府知事選に、共産党の参院議員だった辰巳孝太郎氏(46)が無所属で立候補する意向を表明した。大阪維新の会の代表を務める現職の吉村洋文知事に「カジノ反対」を掲げて挑む(こちら参照)。

辰巳氏は共産党若手ホープの一人だ。参院議員時代から国会で鋭い質問をし、なかでも貧困問題に熱心に取り込んでいた。ラジオパーソナリティの経験もある爽やかな印象の政治家で、共産党に限らず野党支持層での好感度は高い。

2013年参院選大阪選挙区(定数4)から共産党公認で出馬し、「自民と対決、維新に痛打」を掲げて初当選を果たした。共産党にとっては大阪選挙区での勝利は15年ぶりだった。

2019年参院選大阪選挙区で再選を目指したものの、立憲民主党など野党共闘は実現せずに共倒れに(辰巳氏は立憲新人を上回り次点)。4議席を「維新2、自民1、公明1」が独占する結果に終わった。

2022年参院選大阪選挙区で再起を期したが、またしても野党共闘は実現せず、「維新2、自民1、公明1」の指定席を崩すことができなかった。辰巳氏は立憲新人とれいわ新人を大きく上回る票を獲得して次点だったため、野党支持層からは「辰巳氏に一本化していれば1議席は取れた」との恨み節も聞かれた。

今回の知事選では共産党の推薦を受けるものの、無所属で立つ。現職の吉村知事に対して野党がバラバラでは太刀打ちできないのは明らかで、野党共闘を呼びかける狙いがあるのは明らかだ。辰巳氏を超える強力な候補は野党陣営では現在のところ見あたらず、野党共闘候補としては最もふさわしいといえるのではないか。

ただ、共産党は21年衆院選、22年参院選で野党共闘を前面に掲げて選挙区調整で立憲民主党に大幅に譲歩した結果、議席を減らした経緯がある。

にもかかわらず立憲は参院選後、「自公の補完勢力」と批判してきた日本維新の会と和解して国会共闘に踏み切った。枝野幸男前代表が「野党共闘で消費税減税を主張したのは間違いだった」と明言し、野田佳彦元首相が安倍国葬に参列し、ついには敵基地攻撃能力の保有に一部容認する姿勢をみせて自民党に急接近し、野党共闘路線との決別に向かっている。大阪府知事選で立憲との共闘が実現する見込みはなく、独自候補を擁立するしかないという現実的判断も働いたに違いない。

さて、これに対して各党がどう対応するか。これは見ものである。じっくり分析してみよう。

大阪ではこれまで「維新vsその他の政党」という対決構図が続いてきた。大阪府知事と大阪市長を独占する大阪維新の会に対抗して、自民、公明、立憲、共産が与野党を超えて「維新包囲網」で連携してきた。しかし、維新の牙城である大阪では歯が立たなかった経緯がある。

一方、隣の兵庫県の市長選では維新が与野党連合に5連敗している。維新は大阪では圧倒的な強さを誇るものの、全国政党への脱皮は進まず、京都や兵庫など関西圏でも勢いを欠く。

国政でも日本維新の会は昨年夏の参院選後、打倒・立憲を掲げて野党第一党に取って代わることを目指した勢いが陰り、橋下徹氏とともに維新旗揚げから党運営を主導してきた松井一郎氏は今春の大阪市長の任期満了で政界引退を表明。後任の馬場伸幸代表は立憲との国会共闘に転じた。

そのなかで最後の切り札は知名度抜群の吉村知事だ。今春の大阪府知事選・市長選のどちらか一方でも落とせば屋台骨が崩れて瞬く間に解党の危機に直面する恐れさえあり、絶対に落とせない選挙である。

共産党参院議員だった辰巳氏に自公が乗るのは考えにくい。維新包囲網が崩れるのは必至で、維新にとっては辰巳氏の出馬は追い風となる。自公にとっては維新を倒すのはこれまで以上に厳しくなり、国政と同様、協力を探る動きが出てくるかもしれない。

最大の焦点は立憲の動向だ。かつては「自公の補完勢力」と酷評していた維新と和解して国会共闘に転じ、選挙協力も視野に入れている。一方、立憲の国会議員のなかでは共産党との共闘は失敗だったという声が広がっており、維新の本拠地・大阪で辰巳氏を支援して維新と激突する可能性は極めて低い。むしろ対抗馬擁立を見送って吉村知事の再選を事実上容認する可能性のほうが高いのではないか。そうなると、この大阪府知事選は「維新と連携・共産と決別」という路線を加速させ、「野党共闘の終焉」を決定づける選挙となるかもしれない。

この場合、参院選で維新を新自由主義として徹底的に批判して大阪選挙区での新人擁立を主導した菅直人元首相や、地元・大阪で維新としのぎを削ってきた辻元清美氏はどうするのか。共産と決別し、野党共闘を否定し、維新との共闘を深める立憲民主党に身を置き続けるのなら、政治信念を根底から疑われることになる。

もうひとつの注目はれいわ新選組の対応だ。

昨年夏の参院選大阪選挙区には早々に新人の八幡愛氏を擁立し、共産や立憲との選挙区調整で譲歩しない姿勢を鮮明にしたが、得票数では共産、立憲に続く7位に終わった経緯がある。

私は当時、八幡氏の取材で大阪入りしたが、彼女の街頭演説は山本太郎代表や大石あきこ氏に劣らぬ迫力があった。組織票がないなかで11万票以上を集めたのは八幡氏の政治家としての潜在力を示したといえ、今回の大阪知事選で野党共闘候補になればかなり健闘する資質を兼ね備えていると感じていた。

しかし辰巳氏が出馬する以上、八幡氏が出馬しても、維新批判票は割れ、吉村知事には勝てない。むしろ今回の大阪府知事選は共産と立憲の決裂が決定的になる機会ととらえてしたたかに立ち回り、辰巳氏への推薦をいち早く打ち出したらどうだろうか。

そのうえで、共産とれいわが主導して立憲の菅氏や辻元氏ら維新との共闘に抵抗を感じている個別の議員に向かって「まさかカジノ推進の吉村知事に対して不戦敗なんてことはないですよね」と呼びかけ、辰巳氏支持の輪へ引きずり込む。彼らが歩み寄ってこなければ「本気で維新と戦い、カジノを食い止める覚悟はないのか」と突き放せばよい。

そのうえで共産党に対しては、大阪府知事選で辰巳氏を推薦するかわりに、維新が松井氏後継として新人の横山英幸府議を擁立する大阪市長選にれいわの八幡氏を擁立するので推薦してほしいと打診したらどうか。

知事選と市長選のバーターである。大阪ダブル選挙で共産とれいわの共闘の枠組みが出来れば、国政での野党再編の起爆剤になるかもしれない。

維新に挑む大阪ダブル選挙で、共産党とれいわ新選組が連携して立憲の分裂を誘発し、野党再編が動き出すーー自公の補完勢力になった立憲に代わる野党勢力の再結集を視野に手を握りあえるか。結党100年を超えた共産党も、新興勢力のれいわも、政治手腕が問われる局面である。

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