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前代未聞「定数削減、1年後に強制発動」法案は成立するのか―維新の焦りと自民の引き延ばし

維新が掲げてきた「衆院比例50削減」は姿を消した。代わって浮上したのは「小選挙区25、比例20」、あわせて45の削減案だ。自民党と維新はこの案で合意したが、本当の驚きはその中身ではない。

今臨時国会に提出する法案に、「1年以内に与野党協議がまとまらなければ、定数削減を自動的に発動する」という条文を盛り込むという。期限を切り、合意できなければ強制発動する。事実上、野党に突きつける脅しだ。そんな立法例は、これまで聞いたことがない。

「比例狙い撃ち」を断念した維新

そもそも、この話の出発点は、維新が連立政権入りを模索する際の“看板政策”だった。自民党の裏金事件を受け、維新は企業団体献金の禁止を強く訴えてきたが、自民党はこれを完全に拒否した。

このままでは折り合えない。そこで維新がかわりに持ち出したのが「身を切る改革」としての衆院定数1割削減だった。当初案は比例代表を50削減するという、極めて偏った内容である。

大阪の小選挙区で圧倒的な強さを誇る維新にとって、比例削減は痛くもかゆくもない。打撃を受けるのは比例中心の他党だ。まさに「他党の身を切る改革」だった。

当然、野党は猛反発した。立憲や公明は定数削減そのものには反対しないが、比例狙い撃ちは受け入れられない。自民党もまた、この案をそのままの形で通すことは困難だと分かっていた。

参院では自民党は単独過半数を持たない。須らく野党すべてを敵に回す戦略をとれば、国会運営は完全に行き詰まる。そこで自民党が示した妥協案が、「小選挙区と比例をあわせて45削減」だった。これを維新も呑み、比例50削減は撤回されたのである。

「プログラム法」に仕込まれた異例の条文

しかし、話はそれで終わらない。今回の定数削減法案は、いわゆる「プログラム法」だ。大枠の方針だけを書き込み、具体的な削減方法は今後の与野党協議に委ねる。その協議期間が「1年以内」とされた。

永田町の常識では、これは「必ず実現する」という意味ではない。むしろ「結論を先送りし、棚上げする」というニュアンスが強い。1年後の政局がどうなっているかは、誰にも分からない。解散があるかもしれない。政権が変わっているかもしれない。そんな不確実な先送り条項に、担保はほとんどない。

これでは維新は納得しない。企業団体献金禁止を諦め、定数削減も先送りでは、連立入りは「成果ゼロ」と批判されかねない。そこで吉村代表が持ち出したのが、「1年以内に結論が出なければ、自動的に削減する」という前代未聞の条文だった。

協議が不調に終われば、追加の法案も国会審議も要らず、定数削減が強制発動される。その仕組み自体が、野党への強烈な圧力である。法技術的に可能なのか、可能であっても野党が受け入れるのか、疑問は尽きない。

自民と維新の微妙なズレ

今回の合意は、高市総理と吉村代表の党首会談で交わされた。ところが、異例なことに、その後の記者会見に高市総理は姿を見せなかった。対応したのは自民の鈴木幹事長と、維新の吉村代表だった。この時点で、自民党の腰の引けた姿勢は見えている。

鈴木幹事長の説明は抽象的だった。「約1割」「基本的に合意」「成立を期す」と曖昧な言葉が並ぶだけで、削減の具体像はぼやけたままだ。一方、吉村代表は「小選挙区25、比例20」を法案に書き込むと明言した。

このズレを象徴するように、記者の質問に対し、鈴木幹事長は「最終的な法案の姿は党内手続きを経ないと分からない」と釘を刺した。早くも足並みの乱れが露呈したのである。

解散は打てるのか、封じられるのか

公明党はこの「脅し条文」に真っ向から反発した。斉藤代表は「議論の否定だ。脅しのようなやり方だ」と切って捨てた。野党の賛同を得るのは極めて難しいだろう。

では、否決された場合、それを理由に解散総選挙を打てるのか。争点は政策ではなく、「脅し条文の是非」になる。これは国民に訴えにくい。

維新との交渉にあたった萩生田幹事長代行は、早期解散に慎重だと明言している。定数削減も「与党だけで決めてはならない」と語り、維新案には距離を置いた。自民党内でも、高市総理が早期解散で圧勝し、権力を強めすぎることを警戒する声は根強い。

結局、与野党協議を理由に解散を先送りし、定数削減そのものも引き延ばす――それは、いかにも自民党が得意とする戦術だ。

高市総理は、支持率が高いうちに解散に踏み切れるのか。それとも、党内と維新、そして野党の包囲網に阻まれるのか。衆院定数削減をめぐる攻防は、そのまま高市政権の命運を映し出している。

読者のみなさんは、この駆け引きの行き着く先を、どう見るだろうか。