浮かんでは消え、消えては浮かぶ。政界の一寸先は闇である。
連立合意の目玉だった議員定数削減法案は、1月の衆院解散によって廃案となった。これで終わった――多くの関係者がそう考えていたはずだ。ところが総選挙で与党が圧勝すると、消えたはずの法案がゾンビのように復活した。しかも内容は、惨敗した野党に大きな打撃を与える「比例代表だけ削減」という形である。
まさに“敵の身を切る改革”。自民党と日本維新の会、それぞれの狙いはどこにあるのか。
与党圧勝で変わった力関係
問題の法案は昨年12月、自由民主党と日本維新の会が共同提出したものだ。内容は二つ。衆議院の定数を現在の465から45以上削減すること、そして国会での選挙制度改革の結論が1年以内に出なければ、小選挙区25、比例代表20を自動削減するという仕組みである。
当時の国会では野党が強く反発し、審議入りすらできなかった。衆院で継続審議となり、そのまま1月の解散で廃案となった。
その頃の与党は衆院でギリギリ過半数、参院では過半数割れ。維新の顔を立てて法案を提出したものの、野党の賛成が得られなければ成立は難しい。自民党内には「このまま自然消滅でも構わない」という空気もあった。
ところが総選挙で情勢は一変する。自民党は戦後最多の316議席を獲得し、単独で3分の2を超えた。参院で否決されても衆院で再可決できる。つまり、通そうと思えば通せる状況になった。
ここで自民党は逆に困った。通せるのに通さないとなれば、連立関係にひびが入るからだ。
高市総理と麻生副総裁の思惑
実は維新が連立を離脱しても、数の上では自民党は困らない。それでも高市早苗総理は維新との連立維持を望んだ。
理由は党内権力である。自民党本部を強く握る麻生太郎副総裁の影響力を抑え、高市一強体制を固めるには、維新というパートナーがいた方が都合がいい。
そこで今国会で議員定数削減法案を改めて提出する方針が固まった。
もっとも麻生氏は維新との関係が良好とは言えない。むしろ連立が崩れれば、高市政権の求心力を揺さぶる材料になる。麻生氏の義理の弟でもある鈴木俊一自民党幹事長も定数削減には後ろ向きだ。それでも首相が決めた以上、連立合意を覆すわけにはいかない。
高市総理、維新の吉村洋文代表、そして藤田文武共同代表が笑顔で並ぶ党首会談。その横で鈴木幹事長がやや距離を置いて立つ写真は、連立政権の微妙な空気を象徴している。
維新が「比例だけ削減」にこだわる理由
今回、維新は法案の再提出にあたり内容変更を求めた。比例代表だけで45議席削減する案である。
比例ならば全国11ブロックの定数を人口比で減らすだけで済み、法案成立後すぐに実施できる。一方、小選挙区削減は区割りの見直しが必要で、審議会での議論などを含め1年以上かかる可能性が高い。
維新は「身を切る改革」を早く成果として示したい。これが表向きの理由だ。
しかし、もっと重要な背景がある。
自民党の“勝ちすぎ”が生んだ政治計算
今回の総選挙で自民党は小選挙区289のうち249で勝利した。維新も大阪を中心に20議席を獲得し、与党全体では269選挙区を制した。小選挙区勝率は9割を超える。
もし小選挙区を25削減すると、定数は264になる。だが小選挙区で当選した与党議員は269人。単純計算で少なくとも5人、実際にはそれ以上が選挙区を失う。
通常は比例代表の上位で救済する。しかし比例定数も減るとなれば、その余地は小さくなる。つまり自民党は「勝ちすぎて」選挙制度改革が難しくなっているのだ。
維新はそこを見抜いた。小選挙区削減をやめ、比例だけ削減にすれば自民党内の混乱を避けつつ、野党には大きな打撃を与えられる。
比例176が131になれば、比例中心の政党は壊滅的影響を受ける。参政党やチームみらいは議席減が確実で、共産党やれいわ新選組は議席ゼロの可能性も出る。新党「中道」や国民民主党も比例依存度が高く、強く反発するのは間違いない。
だが維新にとってはその方が都合がいい。自民党と他の野党が完全に対立すれば、連立パートナーとしての価値が高まるからだ。
最大の対決は「高市対自民党」
では法案は成立するのか。
自民党は3月前半の提出を目指し党内手続きに入るが、比例削減には党内でも慎重論がある。昨年の臨時国会では「どうせ参院で通らない」という前提だったため簡単に了承されたが、今回は違う。提出すれば成立する可能性があるからだ。
それでも総選挙で圧勝した高市総理に逆らう議員は少ない。最終的には「執行部一任」で了承される可能性が高い。
ただし、世論の慎重論が高まれば強行採決を躊躇する展開もあり得る。一方で、高市総理と吉村代表にとっては再提出した以上、成立できなければ指導力を疑われる。
予算成立後の国会最大の争点は、この議員定数削減法案になるだろう。
衆院で採決されるのか。参院で否決されるのか。そして衆院で再可決されるのか。
焦点は単なる与野党対決ではない。
高市総理と自民党の力関係――すなわち「高市一強体制」が本当に完成するのかどうかを占う、大きな政治決戦なのである。