岸田内閣の支持率が続落し、早期解散論はすっかり萎んでいる。岸田文雄首相が解散総選挙に勝利して来年秋の自民党総裁選で再選を果たすには、内閣支持率を回復させることが不可欠だ。
昨年秋の閣僚辞任ドミノで支持率が急落した後、岸田首相はキーウ電撃訪問や広島サミットで支持率を取り戻すことに成功した。だが、岸田外交でそれらを上回る成果をあげることは容易ではない。
そこで新たな支持率回復の切り札として取り沙汰されているのは、旧統一教会に対する解散命令請求だ。
旧統一教会問題を長く追ってきたジャーナリストの鈴木エイト氏は「文科省は8月もしくは9月に裁判所に教団の解散命令を請求する準備をほぼ整えたと見ています。これまでに6回、宗教法人法の質問権を行使して教団に資料を提出させ、現在は独自に集めた資料と合わせて解散命令の要件となる悪質性、継続性、組織性に該当するかの詰めの作業を行なっている。 最終的に裁判所に解散命令を申し立てるかどうかは岸田首相の判断になるが、首相は自ら解散命令の要件に『民法の不法行為も入り得る』と解釈を広げて本気度を示した以上、やらないという選択肢はないでしょう」との見方を示している(NEWSポストセブン)。
閣僚辞任に追い込まれた山際大志郎氏やマザームーン発言で有名になった山本朋広氏ら旧統一教会関係議員を次の衆院選に向けて次々に公認決定する一方で、旧統一教会の解散命令請求に踏み切ったところで、どれほど支持率回復効果があり、衆院選での支持獲得につながるのか、私はやや疑問である。
とはいえ、旧統一教会問題に対する世論の根強い批判をやわらげるには、解散命令請求に踏み切って「やるべきことはやった」とアピールすることは、解散総選挙への障壁をひとつ取り払うという効果はあるだろう。
首相がいつ解散総選挙に踏み切るのかということを含め、政局分析に不可欠な視点は、①首相が自ら主導して動いていること、②与党幹部や各省庁が首相から評価されるため、首相の意向を忖度して動いていること、③与党幹部や各省庁が自らの利益を優先し、首相の意向に反して動いていることーーを見極めることだ。
仮に岸田首相が旧統一教会の解散命令請求で支持率を回復させ、その勢いで早期解散に打って出る戦略を描いているとしたら、文科省に解散命令請求の準備を急ぐことを命じる一方、自民党執行部に対して山際氏や山本氏ら旧統一教会関連議員の公認を見送り、「脱・統一協会」の旗を鮮明に掲げるよう指示しなければ、効果を相殺してしまう。
その視点から考慮すると、文科省が解散請求命令の準備を急いでいるのは、岸田首相から強い指示を受けたからではなく、文科省独自の判断として、岸田首相がいつでも早期解散に踏み切れる環境を整備し、岸田首相に評価されることを狙った結果だと考えるほうが筋が通る。だから、山際氏や山本氏を公認決定した自民党執行部とはチグハグな動きになっているのだろう。
さらに深読みすると、永岡桂子文科相は麻生派に所属し、麻生太郎副総裁の影響を強く受けている。文科相ポストは長らく清和会と濃密な関係にある安倍派がほぼ独占してきたが、麻生派が岸田政権下で奪取した。麻生氏は旧統一教会問題で批判を浴びた安倍派の萩生田光一政調会長らと8〜9月の内閣改造・党役員人事に向けてポスト争いを激化させており、文科省の解散命令請求への動きを強めることで萩生田氏らを強く牽制しているとの見方も浮かんでくる。
衆院解散や内閣改造人事が近づくと、政治家たちはそれぞれの思惑からさまざまな情報を流し、さらには自らの影響下にある省庁を動して政敵を揺さぶっていく。ひとつひとつの動きの背景にある大物政治家たちの思惑を十分に検証したうえで、それぞれの動きの行方を見定めていくことが、政局を先読みする秘訣だ。