東京都知事選の投開票日(七夕の7月7日)が近づいてきた。6月29日(土曜日)に主要3候補の演説を見に行った。
最初はJR蒲田駅西口へ。午後2時から前安芸高田市長で人気ユーチューバーの石丸伸二氏の街頭演説が公開されていた。15分前に到着するとすでにひとだかりができていた。石丸氏のSNSでの予告をみて集まった人々だ。老若男女の姿が見え、石丸氏への期待感がうかがえる。
とくにスマホを構える人の姿が目立った。その多くは手慣れた手つきである。石丸氏の切り抜き動画を配信して再生回数を獲得している「切り抜きユーチューバー」たちではなかろうか。
会場にはのぼりや看板はなく、ビラもほとんど配られていない。SNSをみていない人々は今からここで何が始まるのかわからないわからない様子だった。「誰か有名人がくるんですか」「小池さんですか、蓮舫ですか」とスタッフに声をかける人もいた。
そこで石丸氏が乗った街宣車が到着した。いきなり石丸氏の演説が始まった。大きな歓声があがる。
ふつうは候補者本人が到着する前に他の政治家や著名人らがマイクを握り、会場のボルテージをあげていく。そうした前座は一切なし。石丸一本勝負という感じだ。マイクを握る応援団もなかなかいないというのが実態なのだろう。
石丸氏の演説は15分ほど。連日の街頭演説と暑さでお疲れなのか、声に張りはなかった。本人も選挙戦最終日まで声が枯れないか心配していると漏らした。体力的にも精神的にも限界ギリギリで、全力を振り絞って戦っている様子だった。演説内容もユーチューブで話していることを表面的になぞっただけで、私がたくさんみてきた政治家たちの街頭演説と比べると、大衆を奮い立たせる迫力を感じなかった。
まさに「ユーチューバーが街頭に立ったかこのような演説になるのかな」という感じだった。石丸氏は群衆の前に立つ政治家というより、やはりカメラに向かって話すユーチューバーなのだと思った。
良くも悪くも石丸氏の個性が前面に出る街頭演説だったと思う。
銀行員から政治家に転身して4年。国会議員なら駆け出し議員だ。しかも安芸高田市長しか経験していない。永田町の強者どもと一対一で対決すると、やや押し負けそうな気もした。都知事になっても、海千山千の都議会議員たちの対峙するのは大変だろう。小池百合子知事の図太さとは対照的だ。
もちろんその素人さが、腐り切った玄人政治家たちとはまるで違うという印象を広め、期待を集めいている一因なのかもしれない。政治家としてのキャリアをつめば飛躍する素質も感じた。ユーチューバーとして人気なのも一種のカリスマ性を秘めているからだろう。連日のようにが群衆に囲まれる選挙活動を通じて、政治家として一段ステージがあがるかもしれないと思った。
続いては午後5時からJR北千住駅西口であった小池百合子知事の街頭演説へ向かった。
小池知事は告示後、選挙情勢調査での優勢を受け、「公務」を口実に他候補との公開討論会は極力避け、街頭演説も控える「逃げの選挙戦」を進めてきた。学歴詐称疑惑の再燃や明治神宮外苑の再開発をめぐる政官業の癒着への批判を避ける狙いはありありだ。
これまで訪れたのも八丈島や奥多摩など大群衆がいない場所だった。この日の北千住駅西口は告示後、初の23区内での街頭演説である。
翌30日はJR蒲田駅西口での街頭演説を発表していた。北千住も蒲田も公明党が強い下町である。裏金批判が強い自民党とは表向き一線を画する選挙。いちばんの頼みは公明党であり、公明党支持層の期待に応えるには北千住と蒲田での街頭演説は避けて通れなかったのだろう。
私はさぞかし公明党支持層が大量動員された街頭演説になるに違いないと思って北千住へ向かった。ところが現地の様子はまったく違った。警察による物々しい警備体制と「天下り百合子」「伐採」などネガティブプラカードを掲げたアンチ小池派がひしめくカオスの世界だった。
鉄柵に囲まれた会場に入るには手荷物検査を通らなけれならない。私はこのような街頭演説会場では荷物検査を受けて鉄柵のなかには入らないことにしている。中に入ると身動きできず、会場全体の空気がわからなくなるからだ。やはり街頭演説はあちこち歩き回りながら聞いて、聴衆の反応をきたほうがよい。今回も鉄柵の外から聞くことにした。
小池知事が登場した。肉眼では豆粒に見える。カメラのズーム機能に期待するしかない。演説が始まった。
ところが、警察官やスタッフが「立ち止まらないでください」とあちこちで声を張り上げていて、小池知事が何を話しているのか、まったくわからない。おまけにスマホを構える聴衆の前に「立ち止まらないでください」とプラカードをあえてかざし、撮影できないようにするスタッフもいた。
せっかく演説を聞きにきても不快な思いをして帰った人も多いだろう。無党派層に支持を広げるという効果はほとんどなく、むしろ逆効果だったのではないか。まさに「警察に守られた女帝」の印象しか与えなかったのだ。
さらに気になったのは、鉄柵の中に入った人々の熱気のなさだった。小池知事の演説に沸き立つこともなく、どこかしらけムードが漂っている。ほんとうに大量動員されたのだろうか、そんな疑問もわいた。
演説会場付近でビラを受け取る人も姿はまれだった。「小池知事、人気ないぞ」というのが私の実感だ。
最後に午後6時から明治神宮外苑で開催された「再開発」に反対するイベントに向かった。蓮舫氏も参加するからだ。
蓮舫氏はこの日、「明治神宮再開発の賛否を問う都民投票」を追加公約として発表していた。選挙情勢調査での劣勢を受け、新たな公約で挽回を目指す狙いだ。
明治神宮外苑の再開発を主導する三井不動産には都庁職員が大量に天下っている。さらに都知事選の公開討論会では、小池知事が再開発業者からパーティー券を購入してもらっている疑惑が浮上した。蓮舫氏が「まさか購入してもらってませんよね」と口火を切り、石丸氏が「イエスかノーかで答えていただきたい」と二の矢を放っても、小池知事は「さまざまな方にご協力いただいている」とはぐらかし、否定しなかったのだ。司会者が「今の強えはイエスですか」と確認しても明言を避けた。ほとんどの視聴者が「イエス」と受け取っただろう。
政治家がカネを受け取り、官僚は天下って、業者が規制緩和のもとで巨大再開発を進める。まさに政官業癒着の構造である。
蓮舫氏の追加公約は明治神宮外苑の再開発に象徴される「小池都政の利権体質」を攻め立てるには格好の提案といえる。
私はこの日のイベントで、これまで小池知事に弱腰で疑惑追及に及び腰だった蓮舫氏がスタンスを一変させ、自らのイメージアップよりも小池批判色を強めるのではないかと期待して会場に向かった。一部支持層の蓮舫人気だけではとても女帝は倒せない。「小池都政を倒せ」「裏金自民党との結託を許すな」という批判を結集させなければ逆転は不可能だからだ。
しかし蓮舫氏の演説はやや拍子抜けだった。都民投票を打ち上げたものの、小池都政の政官業の癒着には触れずじまい。やはり小池知事との全面対決を避けているように見えた。「批判ばかりの蓮舫」という批判をあまりに気にして、批判よりも提案に重きをおく姿は、この数年の立憲民主党の迷走とまさに重なる。
誰も立憲や蓮舫氏のイメージアップに興味はない。みんな裏金自民党や小池都政を倒して欲しいだけなのだ。
翌日の日曜日、銀座4丁目交差点での蓮舫氏の街頭演説も見に行った。こちらは小池批判のボルテージをかなり上げていた。小池批判を控えた結果、小池知事に逃げ切り作戦を展開され、やや伸び悩んでいるという自覚が蓮舫陣営にも広がり始めたのかもしれない。
この銀座演説を含め、ルポの詳細をユーチューブ動画にまとめました。ぜひご覧ください。