東京都知事選は、裏金自民党との関係を隠した現職の小池百合子氏が逃げ切り、既存政党と一線を画した石丸伸二氏が2位に大躍進した。一方、立憲民主党と共産党が前面に出て支援した蓮舫氏は惨敗。自民党も同時に行われた都議補選で2勝6敗と惨敗し、既存政党への不信感がくっきり出た結果となった。
この選挙結果が国政にどんな影響を与えるのか。9月の自民党総裁選、立憲民主党代表選、そして解散総選挙の行方を分析してみよう。
自民党にとっては、裏金事件以降に勢いづいていた立憲民主党の勢いが止まったことが最大の成果だ。
立憲は4月の衆院3補選と5月の静岡県知事選で4連勝し、政権交代の機運も高まっていた。ところが、党の顔である蓮舫氏を擁立し、共産党と共闘して惨敗した結果、立憲には大逆風が吹いている。政権交代の機運は一気にしぼみそうで、自民党は一息ついた格好だ。
とはいえ、都議補選で惨敗したことは、裏金事件に対する自民党批判がまったく弱まっていないことを示している。小池知事が3選を果たしたのは、自民党との連携を隠す「ステルス選挙」に徹したからであって、自民党の看板では選挙を戦えないという状況に大きな変化はない。
実際、内閣支持率は都知事選後も10〜20%台に低迷しており、都知事選の勝利が自民党の党勢回復にはまったくつながっていないのは明らかだ。やはり9月の総裁選で岸田首相を交代させ、新しい首相を誕生させたうえで解散総選挙に突入するしかないとの空気が自民党内では強まっている。
それでは、都知事選の結果は総裁レースにどんな影響を与えるのか。
政権交代への危機感が高まれば、国民人気トップの石破茂元幹事長に追い風となるのは間違いない。石破氏は安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁に毛嫌いされ、党内人気は低い。石破派も解散に追いこまれ、総裁選に必要な推薦人20人を確保するにも非主流派のドンである菅義偉前首相の力が必要な状況だ。
とはいえ、政権交代の危機感が高まれば「石破は嫌いだけれども、ここは石破を担がないと総選挙は乗り切れない」という空気が広がるだろう。野党転落を阻止するためなら、好き嫌いを乗り終えて「選挙に勝てる首相」を選び出すのが、自民党の底力でもある。
しかし、都知事選で立憲が惨敗して失速し、政権交代への危機感が薄まれば、「大嫌いな石破をわざわざ担ぐ必要はない」という空気が広がるのは間違いない。つまり、石破氏の命運は、立憲民主党の勢いにかかっているともいえる。その意味で、都知事選で立憲が惨敗したことは、実は石破氏にとっては痛手なのだ。
逆に、立憲の失速で好機が巡ってきたのが、麻生氏が擁立を検討している茂木敏充幹事長だ。
茂木氏は世論調査の次の首相では有力者のなかで最下位の水準である。立憲が勢いづいて政権交代の機運が高まれば、「とても茂木では総裁選は戦えない」という空気が強まり、茂木氏は劣勢となる。
しかし、政権交代の危機感が薄まれば、派閥間の貸し借りなど党内力学で総裁選の勝敗が左右されることとなろう。そうなればキングメーカーの麻生氏の後ろ盾を得て、茂木氏にも十分に勝機が出てくるというわけだ。
菅氏が担ぐ石破氏と、麻生氏が担ぐ茂木氏の激突になった場合、どちらも決め手を欠き、候補者が乱立して決選投票になだれ込む公算が高い。右派に人気の高市早苗経済安保担当相や、若手代表の小林鷹之・前経済安保担当相らの出馬が取り沙汰されている。決選投票を視野に、各陣営の多数派工作合戦が水面化で繰り広げられることになるだろう。
一方、勢いの止まった立憲民主党も、9月の代表選にむけて「泉健太おろし」の動きが出始めた。
先頭を切って重鎮の小沢一郎氏が「泉代表のままでは沈没する」と狼煙をあげた。党内では、野田佳彦元首相や枝野幸男前代表を担ぐ動きも出ている。自民党総裁選と同時期に行われる立憲代表選も要注目だ。
都知事選に擁立した蓮舫氏は、立憲と共産のコア支持層を固めただけで、若年現役世代を中心とした無党派層にはそっぽを向かれ、第三極の石丸伸二氏に抜かれて3位に転落した。
早くも連合や国民民主党からは「立憲共産党の時代は終わった」として共産党と手を切り、連合中心に立憲と国民が結束することを求める声が強まっている。共産党との共闘のあり方が大きな焦点となりそうだ。
そのうえに、そもそも泉健太代表の「党首力」のなさを指摘する声が出ていた。自民党が首相を代えるのに、立憲が代わり映えしない体制を維持したらとても選挙は戦えないとの悲鳴も聞こえてくる。そこで野田氏や枝野氏の待望論がじわりと広がっている。
一方で、都知事選で惨敗した蓮舫氏は野田氏の「子分」であり、枝野氏も積極的に選挙支援したことから、両氏の責任論もくすぶっている。野田氏や枝野氏ら「民主党政権の指導者」が復活すれば、さらに逆風が強まるとの懸念も根強い。
とはいえ、新たな顔が台頭していないのも事実だ。代表選の行方は不透明を増している。