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危機一髪だったトランプ銃撃事件と自民党総裁選の行方〜バイデン失速なら岸田首相は万事休す トランプ勝勢で浮かび上がるのは麻生副総裁と茂木幹事長

米国のトランプ前大統領が大統領選の演説中に銃撃された。銃弾が右耳を貫通したものの、命に別状はなく、トランプ氏はその場で立ち上げって拳を高く掲げた。この衝撃の写真が世界中を駆け巡り、トランプ氏の大統領選勝利は決定的になったとの見方が広がっている。トランプ銃撃事件は、9月の自民党総裁選にも大きな影響を与えそうだ。

トランプ銃撃事件は、11月の大統領選にむけて、バイデン大統領の撤退論が強まる最中に起きた。

バイデン氏は81歳。このところ人物の名前を言い間違え、外交舞台でも誰もいない方向にむかって親指を立てるなど奇怪な行動が相次ぎ、健康不安説が高まっている。

テレビ討論でも精彩を欠き、世論調査ではトランプ氏にリードを許している。NYタイムズはバイデン氏ではトランプ氏に勝てないとして撤退論を主張。民主党議員や民主党支持のハリウッド俳優らが相次いで撤退を求める事態となっていた。

バイデン氏にさらに致命的なミスが起きた。ウクライナのゼレンスキー大統領をロシアのプーチン大統領と言い間違え、さらには米国のハリス副大統領を「トランプ副大統領」と言い間違えたのだ。

民主党内では、トランプ氏と戦う大統領候補をバイデン氏からハリス氏に差し替えるしかないとの声が広がっていた。バイデン氏は、トランプ氏もハリス氏も自らの存在を脅かす存在を感じており、両者の区別がつかなくなっていたのかもしれない。

さすがにもうダメだという空気が高まっている矢先に発生したのが、トランプ銃撃事件だった。

銃撃事件はペンシルバニア州での演説中に起きた。容疑者は20歳の男。共和党員の登録をしている一方、民主党系の団体に献金していたとも報じられている。

会場では、ライフルを持って屋根に登る男の姿を見つけた人が警察に訴えたものの、応対しなかったとの証言も報じられている。警備体制の不備も問題化しそうだ。

トランプ演説はカメラがとらえていた。銃声が相次ぎ、トランプ氏は右耳に違和感を感じたのか、手を耳にやったあと、演台に身を隠した。

警護員たちに囲まれた後、その場で立ち上がり、耳から流血しながらも、拳を高く突き上げた。この瞬間をとらえた写真が衝撃の一枚となった。トランプ氏の背後には星条旗がなびき、青空が広がっている。トランプ氏の強運と気迫に満ちたこの一枚で、大統領選の勝利は確実になったとも味方も広がっている。

一方、バイデン氏の撤退論はこれで沈静化する可能性がある。本人が撤退を拒んでいるうえ、いまさら差し替えても勝てそうにないからだ。

大統領選はトランプ圧勝の可能性がさらに強まってくるかもしれない。「もしトラ」どころか、トランプ勝利はほぼ固まった「ほぼトラ」という情勢だ。

この状況に日本政界でいちばん困惑しているのは、岸田文雄首相だろう。

バイデン政権に追従し、バイデン大統領の後ろ盾を最大の政権基盤としてきた。内閣支持率が低迷し、自民党内から退陣論が相次いでいるにもかかわらず、9月の総裁選出馬をあきらめていないのは、バイデン政権の後ろ盾があってこそだ。

そのバイデン氏の再選が困難になってきた。もはや岸田首相が頼るものはない。ますます求心力は落ち、8月中に不出馬表明に追い込まれる可能性がいよいよ強まってきたのではないか。
逆に勢いづくのは、岸田首相との距離が広がっている麻生太郎副総裁だ。「もしトラ」に備えて、4月には真っ先にニューヨークへ飛び、トランプタワーでトランプと会談した。トランプ勝利が濃厚になると、麻生氏の発言力が増す可能性がある。

9月の総裁選は、麻生氏と菅義偉氏のふたりの元総理によるキングメーカー争いだ。菅氏は国民人気トップの石破茂元幹事長の擁立を検討している。麻生氏は立場上、岸田再選を否定していないものの、内心では岸田首相では勝てないと判断し、茂木敏充幹事長の擁立を検討している。

実は茂木氏もトランプ政権時代、経済再生担当相と外相を務め、トランプ政権と経済協議を重ねた。当時のトランプ政権の覚えはめでたく、トランプ氏が覚えている日本の政治家は「シンゾー(安倍晋三元首相)とモテギ」だけだともいわれている。

麻生氏は4月のトランプ氏との会談で「バイデン政権が終焉したら岸田政権も終わり、あなたのカウンターパートは私とモテギだ」というニュアンスを伝えているかもしれない。
9月の総裁選時点でトランプ勝利が確実に情勢になっていれば、岸田政権から茂木政権へバトンタッチする流れが強まってくるだろう。自民党内は対米関係を重視する向きが強い。

立憲民主党が勢いづいて、政権交代の危機感が高まれば、国民人気トップの石破氏を担ぐしかないという空気が広がるが、都知事選で立憲の勢いはとまり、政権交代の機運はしぼみつつある。それなら対米関係を重視して茂木氏でまとまろう…そんな麻生シナリオに多くの自民党議員が「勝ち馬に乗れ」といわんばかりに便乗してくる展開は十分あり得る。

銃撃事件はいまのところ麻生氏と茂木氏に有利に働きそうだ。

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