日本政治の命運を左右する重大局面が、日米関税交渉を巡って迫っている。焦点は、6月に予定される石破総理とトランプ前大統領(事実上の次期大統領候補)による首脳会談だ。
ここで日本が“敗北”すれば、7月の参議院選挙は惨敗、石破退陣、さらには政界再編へと政局が大きく動き出す可能性がある。
その前哨戦となったのが、5月2日の赤沢一郎経済再生担当大臣による訪米だった。アメリカ財務長官や商務長官と130分に及ぶ協議を行い、日米間の主張の隔たりが鮮明になった。
アメリカは、世界各国に一律10%の関税を課す方針に加え、日本にはさらに14%を上乗せし、合計24%の関税を7月中旬から実施する構えだ。これとは別に、自動車やアルミニウムには25%の追加関税も課されている。
赤沢大臣は、日本側の譲歩として、安全基準の緩和や農産物の輸入拡大を提示し、関税の全面見直しを求めた。しかし、アメリカ側は「交渉の対象は日本の上乗せ分14%だけ」と主張し、他の関税措置については協議の余地すら認めない構えを見せている。実質的な交渉はまだスタート地点にある。
さらに懸念されるのは、為替や安全保障といった「本丸」が議題に上がっていないことだ。トランプは、円安誘導に強い不満を持ち、在日米軍の駐留経費やウクライナ支援の負担増、米国製兵器の購入など、日本に対し次々と譲歩を迫る構えだ。
歴代米政権は、貿易と安全保障を切り離してきたが、トランプにはそのタブーは通用しない。まさに「直接ディール」を仕掛けてくる恐れがある。
そして最大の山場が、6月に予定される石破・トランプ会談だ。日本としては、7月中旬に予定される関税実施を回避するため、6月中の交渉決着を目指している。タイミング的には参院選の真っ只中であり、関税が完全実施されれば、自民党は選挙で大打撃を受けることになる。
ところが、外交の場で「政治日程」を理由に妥協する姿勢は、逆にアメリカ側に足元を見られる結果を招きかねない。特にトランプは、下からの積み上げを平気で覆す“トップダウン型”の交渉スタイルで知られる。ゼレンスキー大統領との会談が物別れに終わった過去を思い出す人も少なくないだろう。
今回も、最終決着は石破総理とトランプによる首脳会談の場に委ねられることになる。通常、首脳会談は事務方の合意にサインする儀式に過ぎないが、トランプはその常識を覆す。彼を“勝った気”にさせつつ、日本にとっては痛みの少ない妥協案を導き出せるかどうか――それは、石破総理の交渉力にかかっている。
しかし、誠実さと忍耐を美徳とする石破総理が、トランプ流の押しの強いディール外交に即応・即断で対応できるのか。その見通しは心許ない。
交渉に失敗すれば、日本は巨額の財政負担を背負うことになる一方、拒否すれば選挙直前に関税全面発動という最悪のタイミングで痛手を被る。
政権延命の観点からみれば、この交渉が不信任案を回避する“盾”となっていることも事実だ。6月22日の国会会期末には、例年通り野党第一党が内閣不信任案を提出するタイミングがある。
だが、立憲民主党の野田佳彦代表は、日米交渉の最中に政局を動かすことへの慎重姿勢を示しており、不信任案提出を見送る公算が高まっている。党勢が伸び悩む中で、国民民主党の躍進を利するだけの動きは避けたいという判断が透けて見える。
こうして石破総理は、6月末までの政権維持には目途を立てつつあるが、真の危機はその先に待っている。万が一、トランプとの会談が決裂し、参院選で惨敗すれば、退陣は避けられない。自民党総裁選の行方は、与野党再編の起爆剤となるだろう。
注目されるのは、自公与党が過半数を割る中、どの野党と連携して政権を維持するかという点だ。
一つは、立憲民主党との“大連立”構想。財政規律を重視する野田代表を首相に担ぎ、自民党の森山幹事長らが橋渡し役となる可能性がある。成立すれば、衆議院で8割の議席を占める巨大与党が誕生する。
もう一つは、減税政策を掲げる国民民主党との連携だ。玉木雄一郎代表が総理の座に就くシナリオもささやかれる。自民党内では麻生派が軸となり、「減税による経済再生」を旗印に政権の延命を図る構えだ。
いずれにせよ、6月の日米首脳会談は、単なる通商交渉を超えた、政局の分水嶺となる。石破総理は、この「トランプ試練」を乗り越えられるか。あるいは、それが最後の仕事となるのか――。