政治を斬る!

自衛隊はホルムズへ向かうのか 高市政権を揺さぶる米中と中東危機

ミサイルが飛び交う海へ、自衛隊を送るのか――。いま、日本の総理である高市早苗氏は、戦後日本の安全保障を大きく左右しかねない重大な決断を迫られている。

舞台は中東の要衝、ホルムズ海峡。アメリカのドナルド・トランプ大統領は、軍艦派遣を名指しで要請した国として、イギリス、フランス、日本、韓国、中国の5か国を挙げた。中国を除く4か国はいずれもアメリカの同盟国だが、トランプ氏が最も強く意識しているのは、むしろ中国である。

中国を巻き込み、イランを一気に追い詰める――。それは軍事作戦であると同時に、国際政治の駆け引きでもある。もし中国が参加すれば、米中関係は一転して接近し、日本は外交的に取り残されかねない。高市首相が最も恐れているのは、このシナリオだろう。

だからこそ、日本が中国より先に自衛隊派遣を決断する可能性が取り沙汰されている。


トランプの狙いと米中接近の可能性

アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は長期戦の様相を強めている。イランはホルムズ海峡の封鎖に動き、湾岸諸国の原油輸送を事実上人質に取る構えを見せている。

原油価格は急騰し、株価は下落。世界経済は大きく揺らいでいる。軍事的には優位に立つアメリカも、原油高と株安による国内経済への打撃で、戦略的に追い詰められつつある。

トランプ大統領は3月14日、「多くの国がアメリカと連携して艦船を派遣することになる」と発言し、5か国に協力を求めた。翌15日には、約7か国に打診し、すでに前向きな反応と後ろ向きな反応に分かれたことを明らかにしている。

とりわけ強調しているのが中国の参加だ。応じなければ月末に予定される訪中を延期する可能性にまで言及し、強い圧力をかけている。

トランプ外交の特徴は明確だ。「同盟関係」よりも「実際に動いたかどうか」で評価する。中国を引き込めば、米中関係は一気に改善し、日本の存在感は相対的に低下する。日本のタンカーを中国海軍が護衛するという、これまで想像しにくかった光景すら現実になりかねない。

日本と中国を競わせ、双方を軍事行動に引き込む――。その意味で、日本はトランプ流ディール外交の渦中に置かれている。


同盟国の温度差

一方で、アメリカの同盟国の足並みはそろっていない。イギリスやフランスは、バイデン政権とは緊密だったが、トランプ政権とは距離がある。イラン攻撃についても、国際法違反の疑いが強いとして慎重な姿勢を崩していない。

イタリアのジョルジャ・メローニ首相でさえ、「国際法の範囲外」と批判し、軍事介入への不参加を明言している。

同じ同盟国でも、韓国はやや異なる。革新系の李在明政権のもとでも、トランプ政権との関係維持を優先し、協力に前向きとみられている。

欧州が距離を置くなか、アメリカが日本や韓国、さらには中国に期待を寄せる構図が浮かび上がる。


高市首相の「対中焦り」

こうした国際環境の中で、高市首相は3月19日にワシントンでトランプ大統領との首脳会談に臨む。この日程設定には、月末に予定されるトランプ大統領の初訪中を意識し、それに先んじて日米関係の結束を示す狙いがあった。

裏を返せば、訪中による米中接近で日本が取り残されることへの強い警戒心である。

高市首相は国会で「護衛艦の派遣はまだ一切決めていない」と述べているが、その言い回しは含みを残すものだ。政府与党内では、首脳会談の場でトランプ大統領から直接要請されれば、その場で踏み込んだ約束をするのではないかとの懸念が広がっている。

小泉進次郎防衛大臣が「現時点で自衛隊派遣は考えていない」と明言した背景にも、首相の前のめり姿勢への警戒があるとみられる。実際、ミサイルが飛び交う海域への派遣は、自衛隊員の安全を大きく脅かす。防衛省が慎重になるのは当然だ。

自民党の小林鷹之政調会長も「法理上の可能性は排除しないが、紛争下では慎重に判断すべきだ」と釘を刺している。


法的制約と「現実的な落としどころ」

自衛隊派遣の根拠となるのは、安倍晋三政権下で成立した安全保障関連法である。最も踏み込んだケースは「存立危機事態」と認定し、米軍とともに行動する形だが、これは極めてリスクが高く、政府内でも可能性は低いとみられている。

次に想定されるのが「重要影響事態」としての後方支援だが、これではトランプ大統領が求める直接的な艦船派遣には応えられない。

さらに問題なのは、いずれの枠組みでもアメリカのイラン攻撃を合法と評価する必要がある点だ。高市首相は「法的評価は困難」としており、このままでは法的整合性が取れない。

そこで浮上しているのが「調査・研究」目的での派遣である。これは過去にも前例があり、武器使用が厳しく制限される。実質的には戦闘に関与せず、遠方で活動する「政治的アリバイ」に近い。

しかし、それでトランプ大統領が満足する保証はない。もし中国や韓国がより踏み込んだ形で艦船を派遣すれば、日本も対応を迫られる可能性がある。


試される首脳会談

3月19日(日本時間20日)の日米首脳会談は、シナリオの定まらない緊迫した場となる。高市首相にとって初の訪米は、単なる外交儀礼ではない。

その場での一言が、自衛隊の派遣、ひいては日本の安全保障政策の方向性を決定づける可能性がある。

中国を意識した焦り、トランプ外交の圧力、そして国内の慎重論。
そのすべてが交錯するなかで、高市首相はどのような判断を下すのか。

ホルムズ海峡の緊張は、日本の政局と直結し始めている。