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れいわ新選組の「積極財政」こそ世界の主流〜自民党や民主党や財務省やマスコミが唱えてきた「国債=国の借金」の常識を覆す新理論

れいわ新選組の浮沈の鍵を握るのは、山本太郎代表が基幹政策に掲げる「積極財政」が日本社会に受け入れられるかどうかだろう。与野党を含め「積極財政」を提唱している国政政党はれいわだけである。

国債発行は国家の「借金」であり、発行すればするほど国家財政の「赤字」は膨らみ、最後は財政が破綻してしまう。国債発行は必要最小限にとどめ、国民への課税によって必要な財源を十分に確保し、財政収支を均衡させなければならないーーこの国の財政学者、財務省、与野党、マスコミが当たり前のこととして主張してきた「通説」に真っ向から異議を唱えるのが「積極財政」である。

自民党や公明党の与党ばかりではなく、立憲民主党や共産党などの野党も財務省と歩調をあわせて「積極財政」には否定的だ。

民主党政権末期の2012年、自民、公明、民主3党が社会保障の財源を確保するとして消費税増税に合意したのは「財政の収支均衡」を重視するという、伝統的な財政観を共有していたからだった。もちろんこの3党合意のお膳立てをしたのは、財務省である。

当時の民主党幹部として消費税増税を進めた菅直人元首相、野田佳彦元首相、枝野幸男元官房長官、福山哲郎元官房副長官、蓮舫元行革相ら現在の立憲民主党の重鎮たちが、れいわの「消費税廃止」を突き放し、「時限的な減税」にとどまっているのは、彼らが基本的には財政の収支均衡のため消費税増税が必要だったという認識を変えていないからである。

日本で「積極財政」が注目されるのは2019年に米国から「MMT」という新理論が紹介された後だった。

しかし、山本太郎代表とれいわ新選組の積極財政政策づくりを主導してきた経済学者の松尾匡立命館大教授や朴勝俊関西学院大教授、緑の党の共同代表を務めてきた京都在住の長谷川ういこさん(今回の参院選比例区にれいわから出馬)、消費税増税に反対して民主党を離党した後に経済政策を研究してきた奈良在住の中村哲治・元衆院議員らはそれ以前から諸外国で成功を収めてきた「積極財政」に着目してきた。その研究の歩みが「消費税廃止」や「奨学金チャラ」を柱とする今のれいわ新選組の経済政策として結実している。

れいわの積極財政を練り上げたのは彼ら関西人である。山本太郎代表も兵庫県出身だ。山本代表はれいわ旗揚げ前に京都へ通い、松尾教授らと積極財政の研究を重ねてきた。私は今回の参院選最中に関西へ出張し、キーパーソンである長谷川さんと中村さんにインタビューをした。

私は経済学の専門家ではないが、積極財政を勉強していると、この新理論には世界の政治経済社会を大きく変える可能性を感じている。固く信じられてきた天動説が地動説に取って代わられるような衝撃的な転換が、経済財政政策の世界で進行しつつあるという気もしている。

まだ不勉強なところあり、詰めが甘いところもあることを承知の上で、現時点における私なりの理解で語弊を恐れず、できる限りわかりやすく「積極財政」を解説してみたい。

1971年に米国のニクソン政権が米ドル紙幣と金の兌換停止を突然宣言した時、「お金のルール」は根底から変わった。それまで通貨は金(ゴールド)に紐づいており、金への交換を求められたら応じなければならなかった(金本位制)。ところが、世界の基軸通貨を持つ米国がそれを放棄したことで、通貨と金の直結した関係は遮断されたのだ。

これに伴い、各国通貨の価値を固定していた「固定為替相場制」も崩壊した。当然である。金に対してドルなどの通貨の価値が決定されていたわけだから、金本位制が崩れると、それぞれの国の通貨のレートはその時々の通貨の売り買いに基づいて移り変わる「変動為替相場制」に移行するのは必然であった。固定為替相場制では「1ドル=360円」と固定されていたレートが、変動為替相場制では刻一刻と上下することになったのである。

ここまでは世界の経済学者や経済人はすぐに理解できた。だが、もうひとつ、金本位制の終焉は財政政策上の重大な変化を及ぼしたのである。

有限の資源である金に通貨が紐づいている時、通貨を野放図に発行したら「金に変えろ」と迫られた時に応じられなくなり、財政が破綻してしまう。ところが、通貨が金から解き放たれた途端、通貨発行権を持つ国家は「返済」というしがらみからも解放されたのだ。なぜなら、自ら通貨を発行(印刷)すれば、いくらでも通貨を生み出すことができ、返済に困らなくなったからである。「国債発行=国の借金」という常識は崩れたのだ。自国通貨だての国債発行では財政は破綻しないと言われるゆえんである。

この変化に、世界中の経済財政学者や官僚ら行政当局者のほとんどは気づかなかった。そして長らく「国債発行=国の借金」という旧来の教科書を信じて経済財政運営を続けてきたのである。

いや、彼らはこのカラクリに気づいていたかもしれない。気づかないフリをしていた方が自分たちには得だったのだ。

財務省は予算に限りがあるからこそ「予算配分権」を振りかざして支配力を増す。積極財政を認めたら財務省の政治権力は大きく失墜するだろう。経営者や資産家ら上級国民たちも積極財政による社会保障の充実によって貧しい人々が救われ、貧富の格差が是正されれば、相対的に自分達の優位は失われるのだ。緊縮財政はエリートや上級国民が既得権を維持するのに好都合なのである。

もちろん、青天井に通貨を発行(印刷)できるということはない。商品を生産しすぎたら大量に余って価格が暴落するのと同じように、通貨を発行しすぎたら通貨の価値が暴落する(そして物価がはねあがるインフレが発生する)。その場合、国民生活は大混乱に陥り、国民経済は大打撃を受けるだろう。

だから、通貨発行はインフレ状況を見極めながら行う必要がある。だが、日本のように人口減社会に突入して20〜30年もデフレが続いた社会は、そう簡単にハイパーインフレが発生することはない。もし、インフレの予兆が見えはじめたら消費税減税などで物価を押し下げる政策を打つこともできる。

積極財政ができるのは、自国通貨を持つ国家だけだ。EUに参加して自国通貨を持たないギリシャは財政危機に陥った時、EUから徹底的に予算を削減する緊縮財政を迫られ、さらに経済破綻が進んだ。一方、自国通貨(クローナ)を持つアイスランドは経済危機に陥った時、逆に通貨発行を拡大して社会保障制度を充実させ、その結果として経済はV字回復した。この二国の対比は、経済学者の間で、緊縮財政よりも積極財政のほうが勝るという認識を一挙に広めたのだった。

それでもギリシャやアイスランドのような小国で通用したことが大国で通用する保証はないという慎重論は根強かった。それを吹き飛ばしたのがコロナだ。米国のバイデン政権はコロナ危機を理由に800兆円という巨額の財政出動に踏み切り、弱い立場の人々を救済することにしたのである。その結果、ドルの価値は暴落して国家財政が破綻するどころか、逆に米国景気は上昇し、ドルはより強くなっていったのである。

日本は逆だった。アベノミクスで金融緩和を進めて株価や不動産価格は上昇したものの、財政出動は中途半端に終わり、庶民の生活は疲弊した。そこへコロナ禍が直撃。それでも自公政権は企業支援策ばかりに傾注し、庶民の暮らしはますます悪化。国内需要は低迷し、日本経済はやせ細った。米国は巨額の財政出動がもたらした好調な国内景気を背景にドル金利を上げたため、円はどんどん売られて安くなった。そこへウクライナ戦争が勃発してエネルギーや食糧などの輸入品目は高騰し、物価高が国民生活に襲いかかってきたのである。悪循環だ。

米国ばかりではなくコロナ禍で欧米先進国の多くは巨額の財政出動に踏み切り、国民生活を守ることを優先した。この結果、積極財政は国家財政を破綻させるのではなく、逆に国内景気を押し上げると考える人々が世界では増えている。コロナ禍が積極財政の信用を引き上げたのだ。

ところが、日本はいまだに旧来の「国債発行=国の借金」という発想にとらわれている。自国通貨・円を持つ日本がなぜ積極財政に踏み出さないのか。長谷川さんも中村さんも首を傾げるばかりである。

財務省や経済学者、与野党、マスコミら上級国民たちは従来の「常識」を手放さない。まさにガラパゴスだ。

以上が、私なりの解説である。理解不足による多少の齟齬がありうることを承知の上、大胆に解説してみたことはご了解いただきたい。

そのうえで、この積極財政は単に経済学・財政学の学説論争にとどまらず、私たち人類のあり方を大きく変える可能性を秘めていることを指摘したい。

この世の中はたくさんの不条理、不平等に溢れている。障害を抱えて生まれてくる人、極貧のなかで生まれてくる人、不当な差別を受ける環境で生まれてくる人。それら自力ではどうしようもない現実を乗り越えていく可能性が積極財政にはあるのだ。

れいわが提唱する「誰一人見捨てない社会」には巨額の予算が必要となる。「国債発行=国の借金」という従来の財政学からすると、「誰一人見捨てない社会」を実現する巨額予算を確保するのは、至難の業だ。しかし「積極財政」が可能だとしたら、どのような境遇の人もすくいあげる社会保障は実現可能になる。「誰一人見捨てない」という政治信念とひとつになって「積極財政」は輝きを増すのである。

長谷川さんや中村さんらとの議論を通じて、私は現時点でこのような見解にたどりついた。もちろんこれから軌道修正する必要はあるだろう。だが、参院選の期間中に、現時点での見解をまとめ、日本の有権者の皆さんに提示する必要を痛感した。それが以下のユーチューブ動画である。長谷川さんや中村さんのインタビューも盛り込んでいるのでぜひご覧いただきたい。

この動画中の長谷川さんのインタビューは6月27日、彼女が兵庫県尼崎市で街頭演説する前にアポなしで駆けつけ、ドーナツ店で休憩していた長谷川さんにいきなり取材を申し込んで快諾していただいたものである。その際に改めてじっくり対談しましょうと約束していた。

この動画をユーチューブで公開した7月3日夜、長谷川さんは山本代表らとともに東京・錦糸町の街頭演説を終えた後に東京・高円寺の事務所に帰り、私と面会してくれた。午後10時からこの動画を一緒に見ながらふたりでチャットで参加した後、終電時間ギリギリまで1時間半にわたり、積極財政やれいわ新選組のこれからについて突っ込んだ議論をした。

長谷川さんは京都人のやわらかい物腰から想像できないくらい、ものすごいバイタリティーだ。とても興味深い対談だったので、改めて整理してさまざまなかたちで紹介していきたいと思っている。

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