政治の世界は面白いもので、長年のライバルが突然姿を消すと、自分の影響力も落ちてしまうということがしばしばある。
1955年に誕生した自社体制。万年与党の自民党と万年野党の社会党が国会で裏取引を重ねながら様々な物事を決めてきたこの体制は1993年衆院選で自民党が政権から転落して終焉した。自民党はほどなく社会党と手を結んで政権復帰したものの、社会党は自社さ政権の崩壊とともに長い歴史に幕を閉じたのである。万年与党あってこその、万年野党の社会党だったのだ。
近年の立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組の野党共闘もそうだ。安倍政権が集団的自衛権の行使を認める解釈改憲を強行したことをきっかけに「打倒・安倍」を掲げて始まったのだが、安倍政権が倒れると野党共闘の足並みは乱れ始め、さらにはキングメーカーの安倍晋三元首相が急逝したとたん、一気に崩壊してしまった。立憲創始者として野党共闘の首相候補だったはずの枝野幸男氏が野党共闘の目玉政策である「消費税減税」は間違いだったと公言する事態である。
政治家や政党はライバルと共に消沈していくーーこの政治の大原則は何も日本に限ったことではない。海の向こう、米国でも同じだ。
トランプ前大統領が2024年大統領選への出馬を表明した。しかし共和党内に限らず、トランプ氏を支持してきた右派メディアからも評判は芳しくない。
現職大統領として米社会を大きく分断し、連邦議会占拠まで煽ったトランプ氏も76歳。大統領に復帰すれば任期中に80歳を超えることになる。
大統領退任後も根強い支持を得ていたが、ここにきて人気に翳りがみえていた。このたびの中間選挙で共和党は苦戦し、トランプ神話は大きく崩壊。トランプ氏と同様、移民政策などで強硬姿勢を示して「ミニトランプ」とも言われるデサンティス・フロリダ州知事(44)の大統領選出馬に期待が高まり、「脱トランプ」が一気に進み出したのだ。
共和党内にはトランプ氏に出馬表明を先送りするよう求める声も広がっていた。ここで一歩引けば出馬断念に追い込まれるーーというのがトランプ氏の勝負勘なのだろう。共和党内の反対を振り切って出馬表明を一方的に行ったのだ。
共和党で始まる大統領候補の指名争いの行方は予断を許さないが、トランプ氏が逆風をはねのけて復活を果たすのかどうかは見通せない。少なくともトランプ氏が共和党でただひとり君臨する政治状況は終焉したとみていい。
問題は、これが民主党のバイデン政権に与える影響である。
バイデン大統領は今月、80歳を迎えた。今思うと前回の米大統領選は「トランプか反トランプか」ばかりがクローズアップされたが、実は高齢男性同士の戦いだったのだ。
バイデン氏はワシントン政界に長く身を置く典型的なエスタブリッシュメント(既得権益層)だ。軍事産業や金融業界にも近く、民主党でもサンダース氏やオカシオ・コルテス氏らリベラル派とは距離を置く。むしろクリントン夫妻の弱肉強食・新自由主義路線に近い。
それでもサンダース氏らリベラル派がバイデン支持で固まったのは、トランプ氏を倒すという唯一の目的を最優先したからだった。民主党支持層でもバイデン人気は低い。とはいえ、左派のイメージが強いサンダース氏では中間層がトランプ支持へ流れかねないため、やむを得ずバイデン氏のもとに結集したのだった。
バイデン氏もトランプ復活を阻止するため、「反トランプ」の枠組みを最優先し、サンダース氏らの積極財政も採り入れてきた。しかし、中間選挙で共和党が下院の過半数を奪還し、今後は共和党との協調を進めていく構えをみせている。トランプ氏の共和党内の影響力が低下するなかで、バイデン政権と共和党の反トランプ派が接近し、サンダース氏ら民主党左派を冷遇するという展開も予想される。
トランプ氏の失速は、バイデン政権の権力構造を大きく変えるのだ。
バイデン大統領はこの新たな政治状況を歓迎しているかもしれない。
しかし、私の見立ては別だ。冒頭に示したとおり、政治の世界では、ライバルが姿を消すと、自分の影も薄くなるのである。
バイデン政権はあくまでもアンチ・トランプ勢力が結集して誕生した。トランプ氏が失速すれば、民主党の顔はバイデン氏である必要はなくなる。しかもバイデン氏は80歳を超えた。トランプ失速によってアンチ・トランプの結束も急速に弱まり、バイデン氏の高齢問題や新自由主義的な体質がクローズアップされ、「バイデンでは大統領選に勝てない」という空気が一気に広がってくるのではないか。
トランプとバイデンはワンセットなのである。
サメジマタイムス週末恒例の「ダメダメTOP10」に初めて海外からトランプ氏が登場しました。ぜひご覧ください。