岸田文雄首相が新年早々から欧米5カ国を歴訪した。
5月に地元・広島で開催するG7サミットに向けてフランス、イタリア、英国、カナダ、米国の順に参加国を駆け足で回ったものだが、最後の訪問国・米国でバイデン大統領から肩に手をかけられ押さえ込まれながら嬉しそうな表情を浮かべる岸田首相の写真が日本国内を駆け巡り、一連の首脳外交がいかに陳腐なものであるかを私たちはひしひしと感じたのである。
この写真に加えて私が驚愕したのは、バイデン大統領との会談後に岸田首相が記者団の取材に応じたシーンだった。岸田首相は日米首脳会談の成果としてバイデン大統領から「たいへん手厚く親密な対応をしていただいた」として二つのことを挙げ、胸を張ったのだ。
①バイデン大統領自らホワイトハウスの南正面玄関に出迎えていただいたこと
②会談の途中に二人だけで話をする時間を設けてもらったこと
たったこれだけのために岸田首相はバイデン大統領に対し、米国製の巡航ミサイル・トマホーク(時代遅れの旧式ミサイルの在庫処分とも言われる)を大量購入することを約束し、そのための財源として私たち日本国民に防衛増税と歳出カットを求めているのである。
これほど陳腐な首脳会合も珍しい。
さらにこの場で首相側近として外遊に同行した木原誠二官房副長官がポケットに手を突っ込んでいる姿勢が「総理より偉そうだ」として炎上した。
木原氏は財務省出身の衆院議員で、岸田派(宏池会)での若手ホープだ。岸田首相の次の派閥会長はナンバー2の林芳正外相が有力視されるが、木原氏はその次の派閥会長の最有力候補である。
岸田官邸では清和会(安倍派)の松野博一官房長官の影が薄く、与党や政府内の調整を一手に担っているのは木原氏だ。岸田首相も木原氏を最も信頼しているといわれ、「総理よりも偉そう」という指摘はあながち的外れとはいえない。「首相官邸を仕切っているのは俺だ」という自信が、首相の背後でポケットに手を突っ込むというしぐさに現れてしまったのかもしれない。
それでも政権運営が順調で、内閣支持率も堅調なら、問題はないだろう。しかし、自民党内では菅義偉前首相から岸田降ろしの狼煙があがり、政府内でも官邸内の調整力に疑問符がついている。木原氏の古巣である財務省からも「おもったほど木原氏が機能していない。自民党内の空気をみながら『これはできない』と拒否するばかりで、自ら主導して政策を動かすということがまったくない」(幹部)という声が聞こえてくる。
ワシントンから届いた岸田首相と木原副長官の映像は、本人たちの思いとは裏腹に、彼らの高慢さばかりを印象づけ、日本国内での人気をさらに落とすことになっただろう。この分だと広島サミットで内閣支持率がV字回復するとは思えず、岸田政権に再浮上の展望はない。