政治を斬る!

福祉・介護のある風景(27)老健てどういうところ?~橘 世理

高齢者が入所する施設には、いくつかの種類がある。

今回は、その中でも特別養護老人ホームと介護老人保健施設を取り上げる。両者の違いを比べて目的に合わせた選び方を考えてみたい。

読者の中にも、家族・親族が特養に入っている、老健に入っているという方もいるだろう。

今、検討している最中という人もいるかもしれない。

私は、以前に父が特養に入所し、叔父がつい最近まで老健に入っていた。

だが、特養と老健を論ずるには経験が乏しいので、特養、老健に入所した家族・親族を持ち、尚且つ、キーパーソンの方や介護職経験者に聞いた話も盛り込みながら記述したい。

※介護におけるキーパーソンとは、要介護者のケアプラン作成や病院・施設との連絡・相談、重要事項の意思決定を代表して行う被介護者側の親族や知人等の「相談・調整の中心人物」を指す。


1️⃣ 老健と特養の違い

介護老人保健施設を略して「老健」と呼んでいる。特別養護老人ホームは「特養」という。

老健は、要介護1から入所できるが、特養は、要介護3以上でなければ入所できない。

老健が要介護1以上としているのは、在宅復帰を目指したリハビリ施設のためだ。

病院に入院後、退院計画の中で自宅へ戻るか、それとも集中的にリハビリを行うかを決めることがある。

自宅の形状、仕事の内容などを検討し、リハビリを行った方が良いと判断されると老健へ入所することがある。

要介護3以上が条件の特養は、「終の棲家」という位置づけになる。

特養は、長時間介護が必要になってきた場合、自宅での生活が難しい高齢者が、次のステップとして長期的に生活する施設となる。リハビリよりも介護に軸を置いている。

上述したように「終の棲家」とする場合がほとんどなので、看取りも行っている。

※看取り(みとり)とは、病気や老衰で死期が迫った人の心身の苦痛を緩和し、穏やかな最期を迎えられるよう家族や専門職が寄り添い、最期まで尊厳ある生活をサポートすること。延命治療よりも自然な経過を重視し、自宅や施設、緩和ケア病棟などでその人らしい最期を見届けること。

74歳になる私の叔父は、昨年の秋、2カ月の入院を経て老健へ入所した。

自宅復帰は勿論だが、彼の一番の希望は仕事復帰だった。

金属加工の職人で、彼の使う機械には『日本一』のシールが貼られている。

自他ともに認める腕の良い職人は、3月の初めに自宅へ生還した。


2️⃣ 老健はどうやって運営されているのか

老健は、介護保険法に基づき、介護保険サービスとして運用されている。

地方公共団体や医療法人が主な設置主体であり、医療法人の運営が多く見られる。

利用料は自己負担割合で算出され、費用の内訳は、居住費、食費、生活費などとなっている。

医療費については、施設に所属する医師と看護師が行うため、費用は施設が負担する。

ここで医療について特養と老健の違いを挙げておく。

これは重要事項なので老健を選ぶ際には、よくよく検討して欲しい。

特養は、外部の医療機関と提携し受診が可能だ。

ところが老健では、施設内の医師が医療管理、医療行為を行うため、外部の医療機関への通院は制限される。

緊急を要する、専門的治療が必要、その場合を除いては原則外部医療機関で受診はできない。

老健へ入所する際は、これらの事を事前にしっかり確認した方が賢明だ。

このような話を聞いたことがある。

老健入所中に腰痛に見舞われたので、入所者本人が整形外科を受診したいと訴えた。

それを聞いた家族も施設側へそうするように頼んだのだ。

ところが施設内にいる医師は、隣接する系列病院に検査機器が無いにも関わらず外部医療機関への受診を拒んだ。

受診をしたければ施設から退所してくださいと言ったという。

要は、外の病院へ行きたければ、施設を出て行けというのだ。

この施設のホームページには、近隣の連携病院の名がいくつか明記されていたという。

老健の制度上の決まりではあるとはいえ、適切な医療への妨げになる言動や制約は、あってはならないのではないか。

この話を聞いて、あまりの人命軽視だと私は憤りを覚えた。

もしその腰痛が慢性化したり、悪化したりしたら、どう責任を取るのか。制度上の限界を超えて、先ずは入所者の健康回復に向けて、他の医療機関も利用できるように最善を尽くすのが福祉施設の職員のあるべき姿だと思うのだ。


3️⃣ リハビリ施設だと思っていたが

叔父がリハビリ目的で入所した老健には、認知症の人たちや車椅子利用者の人たちも多くいた。

そのためか、歳も若く、認知の衰えが特段なく、少なくとも上半身は自由に動かせる叔父は目立ったようだ。

「あんた、何しに来たの?」と叔父は他の入所者たちからそう声をかけられた。

そのおばあさん(叔父がそう呼んだ)は、主のような人で、この施設に何年いるのか叔父は気になったが、訊けなかった。

「あんたみたいな若い人が来るところじゃないのに」

「早く治して二度とここへ戻って来るんじゃないよ」

おばあさんは、叔父と顔を合わす度にひと言ふた言、声をかけたそうだ。

おばあさんの言うように、自宅へ戻っても転倒事故などでこの老健に戻って来る人もいた。戻ると今度は二度と自宅復帰はかなわない。

おばあさんは、そういう人たちを見てきたのだった。

表向きは自宅復帰を目指す施設と謳われてはいるが、その実態は特養待機組が入所者のほとんどを占めていた。

「1️⃣老健と特養の違い」で記したように、待機組は、「終の棲家」への入所を待っている。

だが、老健でも看取りを行う場合もある。

特養へ入所せずに、老健で亡くなる人も少なくはないのだ。

以前に私が仕事で会った老健のケア・マネージャーは、「自宅復帰は数年に一度しかない。多くが特養へ転所か、冷たくなって帰宅する」と言っていた。

その時は、リハビリ施設なのに帰宅支援はないのかと半信半疑だったのだが、その後に老健へ入った方々の家族の話を聞いたり、実際に叔父が入った老健の内情を見聞きするとその通りのようだった。

今回は、介護老人保健施設、通称「老健」をテーマにした。

私は、リハビリに力を入れる施設という認識だったが、特別養護老人ホーム(特養)への入所待ち場所の意味合いの方が強いという印象を持った。

ただし、それはそれぞれの老健の運営管理側の方針や施設長の考え方によっても異なるので断定はできない。

実際に自宅復帰支援をしっかりやっている老健もあれば、そうでない老健もあるということだ。

どちらが良いか悪いかという話ではなく、それぞれの老健施設のやり方があるということだと大学病院の相談員から聞いたことがある。

これから老健を検討しているという方は、ケア・マネージャーを通して、またはご自身で老健施設に様々な質問をぶつけ、その対応で判断するのが良いのではないだろうか。

上述したように、とくに医療のことは、疑問や不安を残さないようにしておきたいものだ。

この施設に「命」を預けても良いのか?

入所前にこの質問がクリアになるか、否か。私ならそこが決め手だ。


追記

老健から退所し帰宅した叔父が、心ゆくまでテレビを観ていた。施設では、テレビもゆっくり観られなかった。世界情勢、日本国内のニュースを観ながら、「施設は外国人スタッフが多かった。夜勤は、インドの人かな。ほかにネパール、ウズベキスタンの人もいたよ。みんな遠い所から来てるのに、日本語も上手で、丁寧に接してくれて本当にありがたかった。俺には、天使に見えたよ」と言った。

写真:橘 世理

【参考サイト】

公益社団法人全国老人保健施設協会

橘 世理(たちばなせり)

神奈川県生まれ。東京農業大学短期大学部醸造科卒。職業ライター。日本動物児童文学賞優秀賞受賞。児童書、児童向け学習書の執筆。女性誌、在日外国人向けの生活雑誌の取材記事、記事広告の執筆。福祉の分野では介護士として高齢者施設に勤務。高齢者向け公共施設にて施設管理、生活相談を行なう。父親の看護・介護は38年間に及んだ。

筆者同盟の最新記事8件