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「山尾ショック」が政局を変える──国民民主の急落と浮上する立憲、再編の地殻変動が始まった

2025年春、政界に激震が走っている。きっかけは、国民民主党が発表した夏の参院選比例代表候補の一人──山尾志桜里氏だ。

玉木雄一郎代表のもと、昨年の総選挙で「減税旋風」を巻き起こして大躍進を遂げた国民民主党。しかし、5月の各社世論調査では支持率が軒並み下落し、立憲民主党に再び追い抜かれる結果となった。

国民民主の最大の失速要因と目されるのが、この「山尾ショック」である。山尾氏の擁立を含む元議員4人の候補発表に対し、ネット上では批判が噴出。中でも山尾氏に関しては、過去の不倫問題や女系天皇容認発言などが蒸し返され、党内の女性議員や保守層から強い反発が起こった。

不倫スキャンダルが再燃したことで、「不倫容認政党」とのレッテルを貼られ、減税によって獲得した女性票や保守票が一気に離反したとの見方も強い。支持率の急落は、党の看板政策や指導部の人選をめぐる戦略の不一致を露呈したともいえる。

玉木代表は「一人の候補で政党が揺らぐことはない」と語っているが、政界における“人”の持つ影響力を改めて浮き彫りにした事件となった。

一方で、立憲民主党は沈黙の中で反転攻勢を見せている。NHKの5月調査では立憲が国民民主を逆転し、じわじわと支持を回復中だ。

ここで重要なのは、単なる支持率の変動ではない。これは、「政権批判票」をめぐる争奪戦の構図が変わりつつあるという兆候である。

本来、政権批判の受け皿としての役割は、野党第一党である立憲にあるはずだった。しかし立憲は長らく、「増税政党」というイメージや、70歳以上の高齢層に偏った支持基盤が仇となり、現役世代や若年層からの支持を集められてこなかった。

その受け皿となっていたのが「身を切る改革」を掲げた維新、そして昨年の総選挙で減税を訴えた国民民主やれいわ新選組だったのだ。だが大阪万博に象徴される維新の失速、そして「山尾ショック」による国民の急降下を受けて、政権批判票の行方は再び立憲に戻りつつある。

この動きは、今後の政界再編の構図にも影響を与える。

実は国民民主党は、石破総理と距離を置きつつ、立憲とも候補者調整を行わない「第三極路線」を掲げてきた。そのなかで玉木代表を総理候補とする連立政権構想も自民・野党の一部から浮上していた。

一方、自民党の主流派は立憲民主との連携も模索しており、影の総理と呼ばれる森山幹事長の下で、野田佳彦代表を総理に据える大連立構想さえ囁かれていた。

いまや国会は少数与党状態。衆院の過半数確保には総選挙か野党との連立が不可欠な中、立憲と国民、どちらと手を組むかが最大の焦点だったのだ。

しかし、国民民主が失速したことで、この前提が崩れつつある。立憲にとっては、これまで封印してきた内閣不信任案の提出に、現実的なメリットが生まれてきたのである。

その兆しは、江藤農水相の更迭問題で露呈した。これまで野党共闘に消極的だった国民民主が、立憲や共産、社民などと歩調を合わせ、更迭要求で足並みをそろえたのだ。結果、石破総理はあっさりと江藤氏の更迭に踏み切った。

こうした野党連携の動きが加速すれば、内閣不信任案が可決され、衆参同日選挙や内閣総辞職による首相指名選挙という、かつては非現実的だったシナリオも現実味を帯びてくる。

そして、いま永田町では再び「野田総理」の名前が浮上している。麻生太郎氏と野田代表の会談が報じられたのも、国民民主の失速に備えた布石と見られている。

国民民主の「山尾ショック」は、単なる一政党の失点ではない。立憲の復調、維新の巻き返し、そして自民党内の主流・反主流のパワーバランスまで、すべての再編軸を揺るがせる地殻変動の導火線となったのだ。

このまま国民が沈むのか、再浮上するのか──。6月の世論調査、そして国会会期末の攻防のなかで、政局は新たな局面を迎えるだろう。