政治を斬る!

読売「1月解散スクープ」の正体―官邸と共作した先行報道の裏側

「読売の解散報道は、また誤報ではないのか」。
1月9日夜に打たれた読売新聞のスクープをめぐり、ネット上ではそんな声が広がっている。確かに、他の主要メディアはすぐに後追いしなかった。だが、結論から言えば、これは誤報ではない。むしろ、官邸と読売が合意したうえで放った「先行報道」と見る方が、つじつまが合う。

読売がスクープを配信したのは、三連休を目前に控えた1月9日午後11時。オンラインでの速報に続き、翌朝の朝刊一面トップで大々的に展開した。内容は、高市総理が1月23日召集の通常国会冒頭で衆院解散を検討していること、そして「1月27日公示ー2月8日投開票、2月3日公示ー15日投開票」という、ふたつの具体的な日程案まで示す踏み込んだものだった。

読売にとって、今回の報道は極めて重い意味を持つ。昨年、読売は二つの大きな「誤報」で厳しい批判を浴びている。ひとつは、政治部による「石破退陣」報道だ。参院選惨敗後に号外まで出したが、結果として石破氏は首相の座に居座り、結果的に「誤報」と受け止められた。もうひとつは、社会部による東京地検特捜部の捜査対象者取り違えという、正真正銘の大誤報である。

今回の解散報道が誤報になれば、読売は「誤報3連発」という致命的な打撃を受けかねない。それでも踏み切ったのは、相当の確信があったからだ。


官邸記者クラブの主要メディアは、解散や退陣を報じる際、必ず総理本人にウラを取る。今回も、高市総理自身に電話などで取材しているのは間違いない。だが、高市総理のニュアンスを感じ取っただけでは、今回の解散報道には踏み切れない。「誤報3連発」だけは絶対に避けなければならないからだ。

私は、今回の報道は、記事表現やタイミング、報道後の官邸の対応まで含め、読売と高市官邸が綿密に打ち合わせたうえで出されたものだと見ている。むしろ、この話を持ちかけたのは官邸側ではないか。

その根拠のひとつが、他社が一斉に追随しない異様な状況だ。解散日程ほど、他社に抜かれて痛いネタはない。通常であれば、各社は必死にウラを取り、後追い報道に走る。NHKも朝日新聞も、総理や官房長官、秘書官と日常的にウラを取れる関係は持っている。それでも今回は、どこもすぐには踏み込まなかった。毎日新聞があわてて「解散案が浮上」といった、極めて抑制的な記事を出した程度だ。

これは、高市官邸が組織的に対応し、各社に対して「何も決まっていない」と歩調を合わせて答え、ウラを取らせなかったからだろう。

一方で、官邸は読売報道を明確に否定するメッセージも出していない。読売報道を打ち消すつもりもないのだ。本気で解散する気がなければ、早々に打ち消した方が、政権にとっても読売にとっても傷は浅くて済む。それをしないということは、①読売にだけ先行報道させる、②他社には後追いさせず、解散が確定した空気はつくらせない、という二段構えの戦略を取っていると考えるのが自然だ。


では、なぜ読売にだけ前打ちさせたのか。最大の理由は、全国の自治体に選挙準備を始めさせる必要があったからだ。1月23日解散となれば、真冬の2月総選挙になる。北国では大雪の季節で、ポスター掲示板の設置すら一苦労だ。正月明けで準備が整っていない自治体も多い。3連休明けから動き出さなければ、最速の日程には間に合わない。

実際、読売が朝刊で報じた10日、総務省は三連休初日にもかかわらず、都道府県の選挙管理委員会に緊急通達を出した。タイトルは「衆議院の解散に伴う総選挙の執行について」。本文では「至急の連絡です」として読売報道を紹介し、「報道以上の情報はありませんが」と前置きしつつ、最速日程を念頭に準備を進めるよう求めている。官邸の了承なしに、こんな通達を出せるはずがない。読売報道は、自治体を一斉に動かすための号砲だったのだ。


さらに、解散機運が高まるのを先送りしたい官邸の思惑も見える。三連休明けは高市総理にとって外交ウイークだ。13日には韓国の李在明大統領が来日して高市総理の地元・奈良で会談。15日にはイタリアのメローニ首相が来日。トランプ大統領に近い日本とイタリアの女性首相同士の会談は国内外の注目を集めている。外交成果をアピールしたい時期に、解散報道一色になるのは避けたい。だから当面は公式に解散を認めず、あいまいにしておく。その間に選挙準備だけは読売報道を口実に着実に進めさせる――この計算だろう。

もし、ここで解散を見送ればどうなるか。読売は解体的危機に直面するため、取材経緯を明らかにし、誤報ではないとアピールするだろう。高市官邸との関係は決定的に悪化する。高市総理も「土壇場で逃げた」との見方が広がり、求心力を失う。それを承知のうえで、官邸は読売に報道させ、読売も引き返せないと覚悟して踏み切った。

読売のスクープは、偶発的ではない。時の権力と巨大メディアの思惑が一致したとき、政治部のスクープは往々にして生まれる。その構図を読み解くことこそ、解散政局の本質を見抜く手がかりなのである。