きょうは「選挙ドットコム」の世論調査を紹介したい。テレビ新聞の世論調査と同様、月1回のペースで内閣支持率や政党支持率の経緯を伝えているのだが、いちばんの違いは、電話調査とネット調査で同じ質問をし、両方を並べて報じていることである。
かつてはネット調査の信憑性は低いと言われた。その「常識」を覆したのが昨年秋の衆院選だった。マスコミ各社は電話調査を根拠に「自民、大幅議席減」「立憲、議席増」と予測したのだが、蓋を開けてみると、自民党は圧勝し、現有議席を減らして惨敗したのは立憲民主党だった。
この結果を当てたのは、国政選挙で初めて本格的なネット調査を実施した朝日新聞だけだったのである。
一般に電話調査は高齢世代、ネット調査は現役・若年世代の意向が強く出ると言われる。高齢者はネットを利用する割合が高くなく、若者は電話を利用する機会が少ないからだ(いきなり電話がかかってきても答えない人は多いし、そもそも電話に出ない人が増えている)。もはや電話調査は偏った層の意見しか反映しておらず、それだけでは世論全体の動向をつかめない。
世論調査の世界も揺れ動いている。電話とネットを組み合わせた新たな調査手法の確立が急務だ。その意味で選挙ドットコムの試みに私は注目している。
選挙ドットコムが4月16〜17日に実施した世論調査の政党支持率は以下のとおりだ。
ひと目見ておわかりいただけるだろう。電話調査とネット調査の結果はまったく違うのである。
両方とも自民党の支持率が飛び抜けて高いことに変わりはない(電話35.1%、ネット12.8%)。自民党が他党を圧倒している現状においてはどんな調査手法でも同様の結果がでるのであろう。裏を返せば、それほど自民党は一人勝ちなのだ。
圧倒的に目を引くのは、立憲民主党の電話調査(11.9%)とネット調査(1.7%)の落差である。この桁違いの落差は何を意味するのか。
電話調査とネット調査の支持率がこれほど掛け離れていることは、立憲支持層が相当高齢化しており、現役・若年世代に支持が広がっていない現実をくっきりと浮き彫りにしている。
共産党も同様だ(電話5.5%、ネット1.3%)。立憲ほどでないにせよ、やはり支持層が高齢者層に偏っている現実がうかがえる。
自民党も一人勝ちではあるにせよ、やはり支持層は高齢者層の支持が全体を下支えしているといえるだろう。公明党は良くも悪くも強固な組織政党である。電話もネットも安定的な数字を弾き出している。
これに対し、日本維新の会は電話(6.5%)とネット(5.9%)の支持率のバランスがいい。
維新は大阪を中心に関西圏では高齢者層に影響力のあるテレビでの露出度が高いうえ、自民党顔負けのドブ板選挙を展開しており、関西圏の高齢者層を中心に安定的な支持基盤を持っている。そのうえに全国に向けて吉村洋文・大阪府知事を全面に打ち出すネットでのイメージ戦略にも力を入れていることが、立憲の3倍以上のネット支持率をはじきだしている理由とみられる。
さらに電話よりネットの方が支持率が高いのは、新興勢力であるれいわ新選組だ(電話1.4%、ネット2.0%)。電話では立憲や共産に大きく水を開けられているが、ネットでは立憲や共産を上回っている。
れいわはテレビへの出演が圧倒的に少なく、高齢者層にはそもそも存在を知られていない可能性が高い。一方で、SNS戦略は既存政党よりもはるかに充実しており、政党としての体力(議席数や資金力)を大きく超える支持率をネットでは弾き出しているといえるだろう。
さらに注目すべきは「支持なし」(無党派層)の数字である。電話の34.3%に対し、ネットでは70.7%へ倍増しているのだ。
電話調査に応じる高齢者層を中心とした人々は、そもそも政治への関心が高い。長い人生経験のなかで政治と接した経験も多く、支持政党が決まっている人の割合が高いのであろう。さらに一度決めた政党支持を変えにくい傾向もある。
これに対し、ネット調査に応じる現役・若年世代は、政治への関心が低い。これまでの人生で政治との交わりもさほど多くはなく、支持政党も固まっていない。文字通り「無党派層」の割合が高いのだ。選挙に行かない人も多く、投票率は高齢者層より大幅に低い。
一方で、支持政党がない分、これからどれかの政党の支持に傾く可能性も高いのである。つまり、政党からすればネット調査に応じる人々は、新規開拓の可能性が大きく広がる「大票田」といっていい。
以上の分析をまとめると、電話調査(高齢者層)に強いのは、既存政党の自民党、立憲民主党、共産党であり、ネット調査(現役・若年世代)に強いのは、新興勢力の維新、れいわといえる。
これは、自民党と民主党が競い合ってきた二大政党政治に対して現役・若年世代は強い不満を感じており、その多くは政治に期待せずに「支持なし」となっているものの、政治への関心を持った場合は維新かれいわの新興勢力に流れることを映し出しているのではないか。
新自由主義を掲げる維新と、「誰一人見捨てない」と訴えるれいわの経済政策は真逆である。しかし両党の支持層は自民党と民主党が仕切ってきた二大政党政治を見限った現役・若年世代という意味では重なり合う。
今夏の参院選で、自公与党は組織票を固めて支持率は安定し、維新は打倒・立憲を掲げて野党第一党の座を奪うことを目標とし、国民民主党は与党入りに猛進している。野党の戦線は崩壊状態だ。
野党が巻き返すには①無党派層を引き寄せ、これまで選挙に行かなかった人々の投票率を引き上げる②ゆるやかに広がる維新支持層を切り崩すーーの2点を追求するしかない。
ここで重要なのは、①の無党派層も、②の緩やかな維新支持層も、ネット調査に応じる現役・若年世代が中心であるということだ。そして、この層に対し、立憲や共産は極めて弱く、れいわは極めて強いという事実である。
データはれいわに大きな伸びしろがあり、大きな躍進の可能性を秘めていることを示している。この世論調査結果を踏まえ、れいわが取るべき参院選戦略について、以下のユーチューブで詳しく解説したので、ぜひご覧いただきたい。
私はこれまで以下のような分析を展開してきた。
①現役・若年世代を中心に二大政党離れは加速し、その受け皿として維新とれいわは台頭していく。
②この結果、二大政党に有利な小選挙区制度のもとでも多党制は進み、政党間協議による合意形成の重要度はますます増してくる。
自民党は野党に転落した期間を含めて20年以上にわたり連立相手の公明党との関係を維持し、さらには維新や国民民主党を野党第一党から引き離して野党分断工作を進めてきたのに対し、民主党は分裂し、現在の立憲民主党は野党のリーダーとして共産党やれいわとの野党共闘さえまとめきれず、戦線崩壊のまま参院選に突入しようとしているーー与党第一党と野党第一党の合意形成力の差が、現在の与野党の落差を生んでいるといえる。
れいわ新選組に対して選挙・国会の双方で冷淡に接してきた立憲民主党のスタンスは、政党戦略としては大失敗だった。
今からでも遅くはない。参院選にむけて独自色を強めるれいわに譲歩し、れいわを野党陣営に迎え入れる最大限の努力をするべきだ。「打倒・立憲」を掲げる維新の支持層を切り崩すことができる野党陣営の最強のカードはれいわであることを自覚したほうがいい。
山本代表が自公維の指定席である大阪選挙区に早くからタレントのやはた愛氏を擁立し、れいわの重要選挙区に位置付けてきたのに、立憲民主党が4月になって議員秘書出身の56歳新人の男性候補を大阪選挙区に擁立したのは、野党共倒れを引き起こす愚策以外の何ものでもない。
まずは大阪選挙区で候補を降ろし、立憲から歩み寄りの姿勢を示すのが、野党第一党として当然の姿勢だ。立憲が昨年の衆院選同様、野党全体のリーダーの立場を放棄し、自分の党のことばかり優先していたら、自公与党に太刀打ちできるはずはなく、ひいては立憲そのものが惨敗して参院選後には解党に追い込まれるだろう。
立憲民主党には野党第一党として「自公維の圧勝」を阻止する戦略を最優先すべき責任がある。