東京都知事選(7月7日投開票)で自公与党のステルス支援を受けた現職の小池百合子知事が当選し、立憲民主党と共産党が全面支援した蓮舫氏が3位に惨敗したことで、自民党の裏金事件後の政治情勢は一変した。4月の衆院3補選と5月の静岡県知事選で4連勝していた立憲民主党の勢いは止まり、政権交代の機運がしぼみ始めたのだ。
自民党は都知事選と同時に行われた都議補選で2勝6敗と惨敗し、裏金事件の逆風はなお収まっていないことを示したが、それでも立憲の勢いが止まったことで、9月の総裁選で岸田文雄首相を交代させて反転攻勢に出る糸口をつかんだといえるだろう。
都知事選後の世論調査は、こうした政局の流れを映し出している。
まずはNHKが都知事選最終盤から投開票日にかけて(7月5日〜7日)実施した世論調査をみてみよう。
内閣支持率は25%で前月から4ポイント上がり、不支持率は57%で3ポイント下がった。岸田内閣の人気は少し回復傾向にあるものの、低迷していることに変わりはない。世論の関心が都知事選に移った結果、岸田内閣への風当たりが弱まったということだろう。
注目すべきは、自民党支持層の内閣支持率だ。これは49%で3ポイント下がったのである。自民党支持層の内閣支持率が5割を割り込むのは、2012年の政権復帰後はじめてだ。自民党支持層では岸田内閣の支持率は落ち続けているのである。
自民党総裁選は国会議員票と党員票で争われる。世論全体の支持率よりも自民党支持層の支持率のほうが勝敗に直結する。内閣支持率はそこで落ちているのだから、岸田首相は相当にピンチだ。
自民党内の大勢は「9月の総裁選で首相を交代させ、新しい首相のもとで内閣支持率を回復させたうえで解散総選挙に臨む」ということなのだ。
続いて各党支持率は以下のとおりである。
自民 28.4%(+2.9)立憲民主 5.2%(-4.3)
維新 3.6%(+-0)
公明 3.1%(+0.7)
共産 2.6%(-0.4)
国民民主 2.1%(+1.0)
れいわ 0.8%(-0.6)
自民党の復調、立憲民主党の失速の傾向がはっきり現れている。とりわけ立憲の失速は顕著だ。都知事選に擁立した蓮舫氏への支持が立憲・共産のコア支持層に限定され、若年現役世代の無党派層にはそっぽを向かれたことの影響がいかに大きかったかがうかがえる。
都知事選を静観した維新は支持率も低迷したままだ。同じく静観したれいわ新選組は世論の話題から外れて埋没したのだろう。全国的な注目を集めた都知事選がいかに政治情勢を大きく変えたかがわかる。
続いて1週間後、ANNが7月13日・14日に実施した世論調査をみてみよう。
まずは岸田首相の総裁選出馬について「出馬するほうがよい」は26%、「出馬しないほうがよい」は57%だった。岸田首相の退陣を求める声は強い。内閣支持率は20.2%、不支持率は61.4%だ。
9月の総裁選は、来年秋の任期満了までに行われる「総選挙の顔」を選ぶ戦いである。これほど世論に不人気の岸田首相が再選を果たすことは絶望的な状況である。
「自公政権の継続」を求める人は38%で4ポイント上がった。「政権交代」を求める人は43%で6ポイント下がった。自公与党への風当たりはなお強いものの、都知事選を境目に政権交代の機運が下降曲線に入ったことがうかがえる。
都知事選で第三極の立場で2位に躍進した石丸伸二氏の国政進出については「期待」が44%、「期待しない」が42%で、真っ二つに割れた。石丸氏の挑発的な言動が警戒感を呼んでいるものの、既存政党への強い不信感から政治の閉塞感を打破してほしいという期待が高まっていることがうかがえる。
「政権交代」を求める世論の半分程度は立憲中心の政権交代ではなく、既存政党の一掃(石丸氏が掲げた「政治屋の一掃」)を期待しているといえそうだ。
こうしてみると、都知事選を経て可視化された世論は、立憲民主中心の政権交代ではなく、既存政党とは別の新興勢力が台頭するかたちでの政治刷新にあるとみたほうがよい。9月の自民党総裁選と立憲民主党代表選で二大政党が信頼を回復できないようなら、1993年の政界再編以来の新党ブームが再来する気配も漂い始めてきたといえるだろう。