高市早苗首相への支持は依然として高い。だが、その政権の先行きに対する不安が、静かに広がり始めている。
震源地は日本ではない。遠く離れた中東――アメリカによるイラン攻撃である。
いま日本の世論には、奇妙な「ねじれ」が生じている。
高市内閣は支持する。しかし、アメリカのイラン攻撃は支持しない。この二つの感情が同時に存在しているのだ。
このねじれた世論が、政権の足元を揺らし始めている。
内閣支持とイラン攻撃評価の乖離
朝日新聞が3月15日に報じた世論調査は、その実態を鮮明に示している。内閣支持率は61%と、前月の63%からほぼ横ばいで、高市人気に陰りは見えない。
しかし、アメリカのイラン攻撃については「支持しない」が82%に達し、「支持する」はわずか9%にとどまった。さらに、高市首相が「法的に評価することは困難」として態度を曖昧にしている点についても、「評価しない」が51%と、「評価する」の34%を上回った。
永田町や霞が関では、トランプ関税をめぐる日米経済協議や日中関係の緊張を背景に、アメリカへの配慮はやむを得ないとの見方が強い。だが、国内世論は違う。「国際法違反は許されない」という一貫した価値観が、アメリカにも向けられている。
ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮の核開発を強く批判してきた日本社会にとって、今回だけ例外扱いすることへの違和感は大きい。とりわけ無党派層では、高市首相の対応を「評価する」は22%にとどまり、支持層の中にも不安が広がっている。
物価高への不満と政策の遅れ
不安は外交だけにとどまらない。中東情勢の悪化は、日本経済に直結する物価高問題を一段と深刻化させている。
同じ調査で、イラン攻撃による影響に「大いに不安を感じる」は53%、「ある程度感じる」は37%にのぼり、合わせて90%が不安を抱いている。
一方で、高市政権の物価高対策を「評価する」は38%、「評価しない」は43%と逆転した。
昨年11月、12月には評価が上回っていたことを考えると、明らかな変化である。
高市首相は国民民主党と「年収の壁の引き上げ」や「ガソリン税の暫定税率廃止」で合意していたが、現在審議中の予算案には中東危機による物価高対策は盛り込まれていない。
野党は、年度内成立にこだわらず、物価高対策を盛り込んだ暫定予算の編成を提案したが、高市首相はこれを拒否し、衆院での強行採決に踏み切った。
世論の目には、「スピードよりもメンツを優先している」と映りかねない。
ガソリン価格と異例の備蓄放出
エネルギー価格の上昇は、さらに政権を追い込む。
中東情勢の泥沼化を受け、日本のガソリン価格は1リットル200円を突破する可能性が指摘されている。これに対し高市首相は3月11日、石油元売りへの補助金投入により価格を170円程度に抑える方針を打ち出した。財源は燃料補助基金の残高2800億円である。
しかし、仮に200円水準が続けば、この基金は1か月程度で枯渇する可能性がある。政府は予備費の活用も検討するが、長期化すれば限界は避けられない。
さらに高市首相は、日本単独で石油備蓄を放出する方針を決めた。日本の備蓄は254日分と世界トップレベルだが、今回の放出規模は東日本大震災時の25日分を大きく上回る異例の措置である。
通常、備蓄放出は国際協調のもとで行うが、今回は先行実施に踏み切った。そこには、ガソリン価格対策の遅れによる世論の反発を恐れる強い危機感がにじむ。
だが、戦争が長期化すれば、補助金も備蓄もいずれ限界を迎える。高市政権は出口の見えない持久戦に足を踏み入れたと言える。
国民民主との距離と政局の行方
こうした中、国民民主党は予算審議の最終局面で、採決の先送りや暫定予算編成を提案した。しかし高市首相はこれを拒否し、13日の強行採決に踏み切った。
玉木雄一郎代表は「提案が一切受け入れられなかった」として反対に転じ、政権批判を強めている。さらに、アメリカが求めるホルムズ海峡への自衛隊派遣についても、「自衛隊を危険にさらす」と明確に反対を表明した。
国民民主党が中東対応をめぐって政権と決別すれば、参院で過半数を欠く与党は一気に苦境に立たされる。すでに中道、参政、みらい、共産の野党各党は対決姿勢を強めており、野党主導の展開も現実味を帯びる。
自民党内でも不満はくすぶる。高市人気の高さゆえ表面化していないだけで、無条件に支える空気は強くない。
日米首脳会談が試金石
物価高と安全保障――二つの難題が同時に政権を襲っている。
そして3月19日、ワシントンでの日米首脳会談。ここでイラン攻撃への支持や自衛隊派遣を求められれば、国内世論との乖離は一気に拡大する可能性がある。
高市首相にとって初の訪米は、単なる外交イベントではない。
政権の命運を左右する試金石である。
支持率は高い。だが、その土台は決して盤石ではない。
「ねじれた世論」が、いま静かに政局を動かし始めている。