新年度当初予算案が衆院で採決される今月末にむけて、与野党の予算案修正協議が本格化してきた。
自公与党は昨年の総選挙で惨敗して過半数を割り、野党の一部の賛成を取り付けなければ予算案を可決・成立させることができない。野党第三党の国民民主党と野党第二党の日本維新の会を天秤にかけ、少なくともどちらか一方の主張を受け入れて予算案を修正し、可決・成立させる方針だ。
国民民主党は所得税の非課税枠を103万円から178万円に引き上げることを求めている。自公与党は昨年末の予算編成で123万円まで引き上げることを決めたが、国民民主党は納得していない。与党内では150万円くらいまで譲歩する案が有力だが、国民民主党が応じるかどうかは不透明だ。
一方、日本維新の会は12月の代表選で吉村洋文代表(大阪府知事)ー前原誠司共同代表(元外相)の執行部ラインが誕生し、自公与党との政策協議を本格化させた。前原氏は石破茂首相とは防衛族議員として長年の盟友関係にあり、鉄道オタクとしても親しい。前原氏は高校教育無償化を求めており、石破首相も前向きだ。
国民と維新の競争は現時点では維新優位に進んでいる。所得税減税よりも高校教育無償化のほうが実現に近づいている状況だ。
だが、所得税減税も一定程度の進展はするだろう。なぜなら、国民民主党を見捨てれば、立憲民主党との野党共闘を強化したり、場合によっては自民党の非主流派である麻生太郎元首相らと連携して石破おろしに加担する恐れがあるからだ。
国民民主党が拒否しにくい程度の譲歩を示し、妥協を迫る可能性が高いだろう。それが150万円程度への引き上げということになるのではないか。
維新と国民を天秤にかけるだけではなく、二兎を追うことで野党第一党の立憲民主党を孤立化させる狙いもある。その結果、立憲まで予算案に賛成に転じれば、参院選後の立憲との大連立へむけて大きく前進することになる。
野党3党を競わせることで政権基盤を固めていくのが、自公少数与党の国会戦略といっていい。
維新が求める高校無償化が大きな政策争点に浮上してきたので、ここでポイントを整理しておこう。
現在の高校教育支援制度は「公立は年収910万円未満の世帯に11万円」「私立は年収590万円未満に39万円」である。東京都や大阪府は独自政策として所得制限を撤廃している。
維新は今年4月から国策として所得制限の撤廃を求め、さらには私立への支援拡充も主張している。これに対して自公与党は「4月にも所得制限なしで公立・私立とも11万円を支援」を提案。これが実現すれば公立は実質無料化が実現するとしている。他方、私立は2026年度から無償化の方向で議論するとしており、維新はこれでは不十分との立場だ。
維新が強気なのは、前原氏と石破氏の信頼関係があることに加え、国民民主党と自公与党の協議が難航しているため、維新の予算案賛成が絶対に必要な状況だからだ。このまま進めば、自公与党はさらに維新に譲歩する可能性が高い。
ただ、維新の主張に沿って公立と私立の双方で完全無償化が実現すれば、さまざまな弊害も予測される。先行する東京や大阪では受験生が私立に流れ、公立高校の凋落・崩壊が指摘されている。どちらも無償ならば公立よりは私立を選ぶ受験生が多いのだ。私立の完全無償化は、私学救済の側面も強く、高校教育の民営化が加速するという見方もできる。
高校教育のあり方そのものを根底から再考し、公立と私立の役割の違いを明確にする必要があるのではないか。