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予算案強行採決の裏側 高市政権が仕掛けた「麻生支配からの独立」

新年度予算案をめぐり、永田町の空気が一変している。
高市早苗首相は衆院での強行採決に踏み切った。その判断には大きな疑問がつきまとう。

通常、国会対策の常識からすれば、この局面での強行採決は得策ではない。衆院では自民党が多数を握っているものの、参院では過半数を割っている。衆院で数の力で押し切れば、野党の反発は必至であり、参院での審議はむしろ停滞する。結果として「年度内成立」は遠のく可能性が高いからだ。

実際、野党は猛反発した。予算成立への協力姿勢を示していた国民民主党まで反対に回った。それでも高市首相は突き進んだ。この強行採決の目的は、もはや「予算の年度内成立」ではない。永田町の権力構図を塗り替える、別の狙いがある。


麻生副総裁との決裂

発端は昨年末の予算編成にさかのぼる。高市首相は「年度内成立」を最優先と表明し、国民民主党の玉木雄一郎代表と「年収の壁」引き上げで合意。その見返りとして予算成立への協力を取り付けていた。

当時の自民党は、衆院では過半数ぎりぎり、参院では過半数割れ。国民民主党を連立に取り込む構想が急速に広がっていた。キングメーカーと呼ばれる麻生太郎副総裁は、国民民主党の榛葉賀津也幹事長と連携し、連立拡大シナリオを描いていた。

シナリオはこうだ。3月末に予算を成立させ、6月の国会会期末に衆院を解散。総選挙後に自民党・日本維新の会・国民民主党の三党連立政権を誕生させる――。

しかし、この構想を根底から覆したのが高市首相の「1月解散」だった。
麻生副総裁に相談もなく解散に踏み切り、さらに麻生氏が強く反対していた消費税減税を公約に盛り込んだ。

高市首相が仕掛けたのは「麻生支配からの独立」だった。

結果は圧勝だった。自民党は戦後最多となる316議席を獲得し、衆院で3分の2を超えた。参院で否決されても、衆院で再可決すれば法案を成立させることができる。もはや国民民主党を連立に加える必要もなければ、麻生副総裁に配慮する必要もない。

総選挙の翌日、2月9日。高市首相はさらに踏み込んだ。麻生副総裁に衆院議長就任を打診したのだ。党本部に陣取る副総裁ポストから外し、名誉職に移す――いわば「麻生外し」である。
麻生氏はこれを拒否し、両者の関係は決定的に悪化した。


国対トップとの衝突

次に亀裂が走ったのが国会運営だ。

予算案は衆院で可決してから30日で自然成立する。2月末までに衆院を通過すれば、参院で過半数を割っていても年度内成立は可能だ。そのため、自民党国会対策委員長の梶山弘志氏にとって、2月中の衆院通過は至上命題だった。

ところが、高市首相の1月解散によって政治空白が生まれ、衆院の予算審議は例年より1か月遅れの2月27日に始まった。

梶山氏は国会開幕前、「年度内成立は無理です」と首相に伝えた。だが高市首相は「絶対に年度内成立を」と譲らなかった。
「年度内成立を最優先すると言いながら1月に解散したため年度内に成立できなかった」と批判されることを避けたかったのだろう。

しかし、国会運営の常識から見れば強行採決の連発は危険だ。衆院で押し切れても、参院で審議が止まれば意味がない。梶山氏は反対した。

高市首相はこの進言を受け入れなかった。それどころか梶山氏の更迭まで検討し、後任に旧安倍派の萩生田光一幹事長代行を据える構想まで浮上した。

麻生氏の義弟でもある鈴木俊一幹事長が強く反対し、この人事は実現しなかった。しかし高市首相と梶山国対委員長の信頼関係は完全に崩れた。


国民民主党との決別

そんな中、国際情勢が急変する。
2月28日、アメリカとイスラエルがイランを攻撃した。

トランプ大統領は短期作戦を想定していたが、イランは激しく反撃し、中東情勢は泥沼化の様相を見せている。原油価格は高騰し、日本経済を苦しめてきた物価高がさらに加速する可能性が高い。

しかもアメリカの先制攻撃は国際法違反の疑いが強い。日米同盟と国際法を重視する日本外交は難しい立場に置かれた。

さらに高市首相は3月19日にワシントンでトランプ大統領と会談する予定だ。イラン攻撃への支持や自衛隊派遣を迫られる可能性もある。

本来なら、国内政局を安定させる局面だ。麻生副総裁と和解し、国民民主党の協力を得て予算を成立させるという選択肢もあった。

しかし高市首相は、麻生氏だけでなく国民民主党とも距離を置いた。
国会答弁では「壁を取っ払うのがお好きな御党に巻き込まれた」と揶揄し、玉木代表は「壁を守る側になられたのですか」と反発した。


最後の和解提案

国民民主党は土壇場で最後の和解案を出した。
3月10日、榛葉賀津也幹事長が自民党の鈴木俊一幹事長と会談し、三つの提案を示した。

①13日に採決すれば反対する
②週明け16日に先送りすれば賛成する
③年度内成立をあきらめ、物価高対策を盛り込んだ暫定予算を編成する

実務的な意味はほとんどない。審議時間は例年80時間程度だが、16日に延ばしても60時間を超えるのがやっとだ。
要するに「国民民主党が賛成できる環境を作ってほしい」という政治的メッセージだった。

しかし高市首相は応じなかった。坂本哲志予算委員長は13日の採決を職権で決定。中道、参政、みらい、共産の野党4党は解任決議案を提出した。

国民民主党はそこに加わらず、ぎりぎりまで歩み寄りを期待していた。だが玉木代表は12日夜、「我々の提案が一切受け入れられず、13日に強行採決されるのは二重、三重に残念だ」と述べ、参院で厳しく対峙する姿勢を示した。


強行採決の本当の意味

強行採決をすれば、予算の年度内成立はむしろ遠のく。それでも高市首相は突き進んだ。

そこには「成立できなかったのは野党のせいだ」という政治的構図を作る狙いがあるとみられる。内閣支持率はなお高く、世論は自分を支持している――。そんな確信もあるのだろう。

麻生支配からの卒業。
国民民主党との決別。

今回の強行採決は、高市首相による明確なメッセージだ。

「総理は、この私だ」。

永田町の権力地図は、いま大きく塗り替えられようとしている。