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与野党「4党合意」で進む統一教会の被害者救済の先にある「消費税増税」の大政翼賛政治

自民党、公明党、立憲民主党、日本維新の会の4党は、統一教会問題を受け、霊感商法や高額寄付をめぐる被害を防止・救済する仕組みをつくる与野党協議会を設置することで合意した。被害者救済法案を今国会に提出して成立させることをめざすという。

統一教会問題の被害者救済が進むことはよいことだ。与野党が合意すれば法案成立も迅速に進むだろう。それに異議はない。

ただし、この動きを政局的にみると、当面は与野党が対決する国政選挙が予定されていないなかで、①内閣支持率の続落で苦しむ岸田政権②世代交代が進まず組織力の衰えが著しい公明党③支持率低迷にあえぎ野党第一党の座を脅かされている立憲民主党④衆参選挙で躍進したものの国政政党への脱皮は進まず野党第一党を奪う展望が開けない日本維新の会ーーの低迷4勢力が「統一教会」という国民の大関心事をきっかけに連携を強める「大政翼賛体制」への入口にも見える。

実際、与党第一党の自民党(岸田総裁)と、野党第一党の立憲民主党(泉健太代表)は、今夏の参院選が終わり、安倍晋三元首相が凶弾に倒れた後、にわかに接近してきた。立憲は安倍国葬に反対しつつも、参列するかどうかの判断は個々の議員に委ね、その結果として最高顧問の野田佳彦元首相は参列。野田氏は国会での安倍追悼演説も引き受け、双方に融和ムードが一気に広がったのである。

泉代表は、政治家を国葬にすること自体に反対したのではなく、国会が関与しないで実施を決めた手続きに不備があったから反対したとし、与野党で国葬のあり方を決めるルールづくりを今国会の代表質問で提案。自民党は国葬決定過程の検証や国葬のルールづくりを議論する場を国会に設置することを衆院議院運営委員会に提案して応じ、泉代表の顔を立てた。

こうした流れで統一教会問題の被害者救済法案提出への動きを眺めると、岸田政権と立憲民主党の双方がこの問題を契機に歩み寄ろうとしていることがうかがえるだろう。支持率低迷にあえぐ両者が与野党協議を通じて低迷からの脱出を狙っているのだ。

今後、与野党の第一党と第二党の「4党合意」でさまざまな政策が決定されていく可能性が出てきた。

与党第一党と野党第一党が接近して政策を決定した前例としては2012年、民主党政権末期に当時の野田佳彦政権が野党だった自民・公明両党と消費税増税を決めた「3党合意」がある。これを受けて野田政権は衆院を解散して民主党は惨敗し、自民党が政権復帰して安倍長期政権が実現したのだった。

民主党側で3党合意を主導したのは、野田内閣で副総理を務めた岡田克也氏(現・立憲民主党幹事長)と財務相を務めた安住淳氏(現・立憲民主党国対委員長)である。今夏の参院選で立憲が惨敗し、岡田氏と安住氏が復権して党運営の主導権を掌握した。最高顧問の野田元首相とも連携し、自民党との連携〜消費税増税の3党合意の再現を目指す可能性は十分にある。

消費税増税の3党合意が実現した2012年当時の自民党総裁は、宏池会の谷垣禎一氏だった。宏池会は大蔵省(現・財務省)出身の池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら歴代首相を輩出し、財務省と極めて親密な関係にある。宮澤氏以来、約30年ぶりに宏池会の岸田政権が誕生して財務省が復権したのは自然の流れだ。

財務省としては岸田政権で「3党合意」を再現させ、消費税増税をなんとしても進めたい。立憲民主党の主導権を岡田氏と安住氏が握っている今の政治情勢は、またとない好機なのだ。

財務省の強みは予算審議のコントロールを通じて国会運営にも大きな影響力を持っていることだ。歴代の与野党国対委員長は財務省と親密な関係にある。今回の与野党接近でも財務省が背後で動いているのは間違いない。

国葬のルールづくりや統一教会の被害者救済で与野党協議の機運を高め、消費税増税の「4党合意」へつなげていくーー財務省が思い描く国会のシナリオが徐々に現実のものとなりつつある。

2012年の「3党合意」との違いは、日本維新の会が加わって「4党合意」となることだ。

維新は自民党を倒すより立憲を倒して野党第一党になることを目標に掲げ、衆参選挙で躍進した。しかし大阪を中心に関西圏では立憲をしのぐ力をみせる一方、全国政党への脱皮は進まず、野党第一党を奪い取るほどの勢いはない。

しかも維新の後ろ盾だった菅義偉前首相が岸田政権発足後に失脚し、岸田政権は維新に代わって連合に接近したことから、維新は危機感を強めた。ここで立憲に頭ごしに岸田政権と組まれたら、維新は居場所を失ってしまうからだ。

一方、立憲も支持率低迷が続き、維新と対立を重ねていては野党分断のまま自公に太刀打ちできない。維新が立憲よりも自民との連携に軸足を置いている限り、野党は分断され、立憲の勢力拡大は進まない。そこで維新と共闘する方針に転換し、今国会に突入したのである。

立憲も維新も相手が抜けがけして自公と組むことを恐れての「共闘」だ。統一教会の被害者救済をめぐる4党合意の枠組みはそうした思惑を背景に出来たということだ。

ここで忘れてはならないのは「4党合意」から外された他の政党である。

最も外された感が強いのは、国民民主党だ。

国民民主党は参院選前、岸田政権提出の予算案に賛成してまで与党にすり寄っていた。ところが、参院選後に立憲が岸田政権への接近策に転じると、一挙に埋没してしまった格好だ。

民主党政権をともにしながら野党転落後に袂を分かった立憲・国民双方には感情的なしこりが強く残る。今回の「4党合意」にも、立憲は国民を外そうとしただろうし、国民も立憲が入るのなら加わりたくないという思いがあっただろう。いずれにしろ、与党入りに強く傾いた国民民主党は立憲の自民急接近で居場所を失った格好で、今後の動きが注目される。

次に立憲との共闘を掲げ、立憲に冷たくされても後を追ってきた共産党も、これからの立ち入りが難しくなる。統一教会の被害者救済には反対しないまでも、さまざまな政策テーマについて「4党協議」の枠組みが定例化して「4党合意」への流れが強まり、改憲や消費税増税の協議まで始まれば、さすがに立憲との共闘を維持するのは困難になろう。ここ数年の野党共闘路線を大きく見直さざるを得なくなるのではないか。立憲を信じて譲歩を重ねてきた志位体制の根幹が揺らぎかねない。

一足先に立憲との対決姿勢を打ち出していたれいわ新選組には追い風になる。立憲が自民、公明、維新と連携する「4党協議」が本格化してくれば、それに抵抗感を持つ野党勢力が広がり、野党再編への機運が出てくるかもしれない。消費税増税の議論に発展すればなおさらだ。

いずれにしろ、国葬と統一教会をめぐる「4党協議」は、野党再編の引き金を引く可能性が十分にある。今後の政界の動きに注目したい。

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