全国各地で財務省の解体を求めるデモが広がっている。減税に反対し続ける財務省に対し、多くの国民が声を上げ始めた。SNSでの拡散も加速し、参加者は日々増加。しかし、驚くべきことに、こうした動きはマスコミではほとんど報じられていない。
私のもとにも「なぜマスコミはこのデモを報じないのか?」という疑問が多く寄せられている。その理由を解説しよう。
① マスコミは究極の縦割り組織
まず理解すべきは、テレビや新聞の取材体制が究極の縦割りであるという事実だ。
- 政治部 … 首相官邸を担当
- 社会部 … 検察や警察を担当
- 経済部 … 財務省を担当
財務省には「財研」(財政研究会)という記者クラブがあり、各社の経済部記者が常駐。朝日新聞の場合、4〜5人の記者が配属されている。この財研のキャップ(リーダー)は、将来的に経済部長、さらには役員へと出世するエリートコースに乗る。
財務省と良好な関係を築くことが、財研キャップの出世の道。したがって、財務省を厳しく批判する記事を書くことはほとんどない。財務省の考え方、すなわち「財政の収支は均衡させるべき」「減税には代替財源が必要」という論理がそのまま報道に反映される。これはまさに財務省とマスコミが一体化している証拠だ。
政治部と首相官邸、社会部と検察・警察も同じ構図である。記者たちは視聴者や読者ではなく、取材先の政治家や官僚の顔色をうかがいながら記事を書いている。すべては自らの出世のため。彼らはジャーナリストである前に、会社員なのだ。
私が27年間、朝日新聞の記者として働いた経験から言って、これは間違いなく真実である。私たちはこうした会社員記者たちの記事を日々読まされている。
② 私が体験したマスコミの内部事情
さらに問題なのは、マスコミ内部では「他の領域に口を出してはいけない」という暗黙のルールがあることだ。
私は朝日新聞の政治部記者時代、小泉純一郎政権で首相官邸記者クラブに所属した。当時、小泉首相は経済政策の司令塔として竹中平蔵大臣を起用し、財務省から予算編成や税制改正の主導権を奪おうとした。財務省は激しく抵抗し、竹中氏とのバトルが繰り広げられた。
私は政治部記者として竹中大臣を担当し、他社の記者よりも深く食い込んだ。竹中氏やその周辺から得た情報をもとに、いわゆる「特ダネ」を連発したが、そのたびに財研キャップが横やりを入れてきた。首相官邸クラブのキャップに「財務省幹部が否定しているから、これは誤報だ」と抗議し、記事の撤回・修正を公然と求めてきたのである。財研キャップは財務省の代弁者にすぎなかった。
しかし、私は竹中大臣から小泉首相の了解も得ていることも確認しており、最終決定は竹中氏の案が通ると確信していた。案の定、そうなった。当時の朝日新聞社内では、政治部は経済部より社内的影響力が強いことも、財研キャップの意見が退けられ、私の記事が掲載される大きな要因であった。とはいえ、政治部と経済部の関係は日々悪化していったのである。
そこで驚くべきことが起きる。この対立を収めるために、私はある日突然、竹中大臣の担当を外されたのだ。当時の政治部長が経済部長と和解し、自らの出世のために私を配置換えにしたのだった。
この政治部長は社内政治にたけていた。のちに編集局長となり、最終的には社長に上り詰めている。社内出世競争を勝ち抜くためには、経済部長と和解して私の配置を換えたのは、正しい選択だったのだろう。
このように、新聞社の取材体制は「読者のため」や「いい記事を書くため」という以上に、社内政治の事情によって決まっている。
③ 財務省解体デモが報じられない理由
話を財務省解体デモに戻そう。
財務省の記事はすべて財研キャップの手を通る。財研キャップは財務省の言いなりになることで、出世の道が開ける。何しろ、経済部長ら経済部系の上層部はほとんど「元財研キャップ」であり、財務省との良好な関係を維持することこそ、社内で最も求められているからだ。財務省に不都合なニュースを報じるはずがない。
財務省解体デモは、財務省の権力を脅かす。経済部長や財研キャップは、財務省の意向に逆らってまでこれを報じるメリットはない。むしろ、財務省を擁護する報道をしたほうが、自らのキャリアに有利なのだ。
この取材体制の結果、財務省解体デモはマスコミでは黙殺されていく。
それだけならまだマシだ。マスコミは財務省の世論操作に積極的に加担している。
最たる例が、「財政の収支は均衡させなければならない」「減税には代替財源が必要」という緊縮財政論の流布だ。石破茂首相や野田佳彦立憲民主党代表がこれを信じ込んでいるのも、マスコミがこれを唯一の真実のように報じ続けているからだ。有識者を名乗るコメンテーターたちも、財務省の世論誘導に乗せられている。
財務省解体デモが報じられないのは、単なる「報道し忘れ」ではなく、財務省とマスコミが一体となった情報操作の結果なのだ。
財務省解体デモが全国に広がる中、マスコミはこの動きをほとんど報じない。その背景には、財務省とマスコミの癒着、そして社内での出世競争に明け暮れる会社員記者たちの姿がある。
私たちは、財務省の意向をそのまま伝える記事ではなく、本当に国民のための報道を見極めるしかない。財務省の世論操作に乗せられず、自らの目で真実を見極めることが、これからますます重要になっていく。