日本の政治を動かす永田町・霞が関。実は、非常に狭い村社会だ。
同期のライバルへの対抗心のような、小さな動機で、大きな政治の流れが決まることもある。
今、特に注目すべきは、財務省出身の三人の男たちだ。
- 総理候補として注目を浴びる玉木雄一郎(国民民主党代表)
- 影の総理から転落し嫉妬に燃える木原誠二(自民党選対委員長)
- 石破総理を裏で操る超実力者・中島朗洋(総理秘書官)
実はこの3人、財務省に1993年に入った同期組。彼らの熾烈なライバル関係が、石破政権だけではなく、日本政治の未来を左右しようとしている。
①玉木雄一郎の躍進と財務省の反発
まず最初に取り上げるのは、現在、政界で最も注目される政治家の一人、国民民主党の玉木雄一郎代表だ。
大蔵省(現財務省)に入省し、エリート官僚としてキャリアをスタートさせた玉木氏。だが、財務省内ではそれほど評価は高くはなく、傍流だったと言われている。
ところが民主党から政界入りした後は、あれよあれよという間に国民民主党の代表となり、昨年の総選挙では減税政策を掲げて大躍進。野党第一党の立憲民主党の支持率を追い抜いて、いまや「時の人」となった。
玉木氏は「ポスト石破」の有力候補に浮上。石破内閣が総辞職した場合、自公与党が過半数を割るなかで、首相指名選挙では自民党からも野党からも担がれる可能性がある。
自民党の麻生太郎元総理は、石破おろしを画策しているものの、後継首相候補が決まらず頭を悩ませている。茂木敏充氏は人気がなく、高市早苗氏や小林鷹之氏は右寄りすぎる。そこで「玉木氏を担ぐ」というウルトラC構想が浮上している。
一方、立憲民主党の小川淳也幹事長も「玉木氏を担ぐ可能性を排除しない」と発言。国民民主党の躍進で埋没している立憲民主党としては、自民党に玉木氏を取られたら大変だ。
こうして、玉木氏は「与野党双方から求められる存在」となった。
しかし財務省の内部では「裏切り者」と見なされている。財務省は「増税派」の本丸であり、玉木氏の減税路線は許しがたい「変節」なのだ。
財務省関係者の間では、玉木氏に対する不満の声が強まっている。
②嫉妬に燃える木原誠二
そんな玉木氏を最も意識しているのが、木原誠二・自民党選対委員長だ。
木原氏もまた1993年に財務省に入省し、エリート官僚としてキャリアを積んだ。周囲からの評価も高く、玉木氏よりもはるかに将来を嘱望する声が強かった。財務省では「エース」として期待されていた。兄はみずほフィナンシャルグループのトップを務めるなど、家柄も申し分ない。
前の岸田政権では首相最側近として官房副長官に就任。米国のエマニュエル駐日大使と親密な関係を持ち、日米首脳会談にも同席して「岸田外交を牛耳る影の総理」と呼ばれた。
ところが「週刊文春」によるスキャンダル報道で大きなダメージを受けた。木原氏の妻が殺人事件の重要参考人として警視庁に事情聴取されたものの、なぜか捜査が不自然なかたちで打ち切られたという疑惑。この報道により、木原氏は官房副長官を退くことになったのだ。
しばらくは水面下に潜っていた。石破政権が誕生し、総選挙が終わった後、木原氏は自民党4役のひとりである選対委員長として表舞台に返り咲いたが、その間に格下と思っていた玉木氏は総理候補に急浮上したのである。
最近、自民党内で「木原がすねている」という話が出ている。木原氏は岸田文雄前総理の再登板を狙って動いているという噂もある。玉木氏への対抗心を燃やしているに違いない。
③石破政権の黒幕・中島朗洋
玉木氏や木原氏と比べて、ほとんど知名度がないものの、実は今、権力に最も近いところにいるのが、石破内閣の総理秘書官である中島朗洋氏だ。
財務省では、歴代事務次官のほとんどが東京大学法学部出身者。しかし、中島氏は一橋大学経済学部出身という異色の存在だ。しかし、その秀才ぶりは財務省内でも広く知られている。
同じく一橋大経済学部出身で、財務省内では傍流とみられていた矢野康治氏は、菅義偉官房長官(のちの総理)の秘書官を務め、菅氏の後押しで一橋卒では初の事務次官となった。矢野氏は強烈な財政再建論者としても有名だったが、中島氏も矢野氏に劣らぬ財政再建論者と言われている。
玉木氏はおろか、木原氏以上に、財務省内では「エース」と位置付けられてきた。
石破氏は、政治家としては珍しいほどの「緊縮財政派」。総理就任後も、財務省と足並みを揃え、国民民主党の減税政策を切り捨てた。その背景には、中島秘書官の強い影響があるのは間違いない。
玉木氏の減税路線は、財務省にとっては脅威だ。玉木氏が次期総理に就任し、減税政策を実行することは、何としても阻止しなければならない。
中島氏は石破総理を通じて、玉木氏の動きを封じ込めようとしている。もちろん、財務省の傍流だった玉木氏への強烈な対抗心を抱えているのは想像に難くはない。
財務省という同じ出発点を持ちながら、まったく異なる道を歩んだ玉木雄一郎、木原誠二、中島朗洋。
- 玉木は「モテモテ総理候補」として躍進
- 木原は「嫉妬と屈辱」をバネに、復権を狙う
- 中島は「石破政権の黒幕」として、密かに政界を操る
彼らの対立が、日本の政局を大きく動かすことになる。
今後の政治ニュースを見る際には、この財務省同期3人の関係性を意識すると、より深く、面白く理解できるはずだ。