この夏から秋にかけて、永田町は再び大政局に突入する。次の総理は誰か、新たに連立を組む野党はどこか——そのすべてのシナリオの裏に、財務省の影が見え隠れする。
財務省の悲願はただ一つ。減税を封じ、消費税を引き上げる道筋を固めることだ。
「増税DNA」が刻まれた官庁
財務省にとって消費税増税は使命であり、成功すれば出世街道を駆け上がれる。経済への影響や国民負担への配慮よりも、とにかく増税を前進させることが最優先だ。
そのためには、与野党が伯仲し、双方が歩み寄らざるを得ない政治状況が理想となる。自民党が圧倒的多数を握ると、野党は世論受けを狙って大反対し、与党は選挙を恐れて強行採決を避けるからだ。
実際に2012年、民主党政権末期の野田佳彦内閣の下での消費税率引き上げ(5%→8%、さらに10%への段階的増税)の決定は、衆参ねじれの中で財務省が自公民3党合意を仲介した成果だった。
昨年秋、自公与党が衆院で過半数を割り、野党の協力なしに法案を通せない状況に陥り、財務省にとっては「千載一遇のチャンス」が訪れた。
石破・野田体制という「理想形」
現体制は財務省にとって申し分ない布陣だった。
自民党の石破茂総理と林芳正官房長官はいずれも筋金入りの財政規律派。森山裕幹事長は大物財務族で、野党との人脈も豊富だ。
一方、立憲民主党の野田代表は3党合意を主導した元総理。衆院予算委員長には、やはり財務族の安住淳氏が座り、森山氏とは国対レベルで密な関係を持つ。
さらに、新川浩嗣事務次官と宇波弘貴主計局長のコンビは、2012年当時、与野党調整の最前線にいた当事者だ。
財務省のシナリオはこうだ。
参院選で自公が多少議席を減らしても石破総理は続投、立憲も議席を伸ばして野田代表が続投。国政選挙の空白期に、自民・公明・立憲による「増税大連立」を成立させる——。
参院選で崩れた「ベストシナリオ」
しかし、参院選結果は予想外だった。自公与党は過半数を割り、石破退陣論が噴出。立憲も比例で国民民主党や参政党に抜かれ、野田代表の責任論が浮上した。
両党トップの足元が揺らぎ、大連立の推進力は大きく後退した。それでも財務省は諦めない。むしろ「最悪のケースを避ける」方向に舵を切った。
財務省が恐れる「最悪のケース」
第一に避けたいのは、自民党総裁に高市早苗氏が就くことだ。高市氏は積極財政派で、旧安倍派にも同調者が多く、財務省にとって天敵となる。
第二に避けたいのは、国民民主党との連立だ。玉木雄一郎代表は減税を掲げ、所得税やガソリン税の減免だけでなく、消費税減税も議題に乗せかねない。玉木氏自身は財務省出身だが、省内では主流派ではなく、現幹部にとっては「屈辱の存在」でもある。
高市総裁で自公国連立、あるいは高市総裁・玉木総理という組み合わせは、財務省にとって悪夢だ。岸田文雄前総理や茂木敏充前幹事長でも、国民民主党との接近は警戒対象になる。
「進次郎カード」と維新の存在
そこで浮上するのが、小泉進次郎氏だ。
父・純一郎元総理は増税には否定的だったが財政規律派で、進次郎氏も積極財政には慎重。財務省は彼の農政改革を後押ししてきた経緯がある。
進次郎氏が総裁になれば、菅義偉元総理と近い日本維新の会が連立に加わる可能性が高い。維新は「副首都・大阪」構想を条件にするかもしれないが、減税要求が強い国民民主党よりは財務省にとって扱いやすい。
維新は橋下徹氏や吉村洋文氏が「身を切る改革」「財政再建」を掲げてきた緊縮志向の政党でもある。教育無償化など要求はあるものの、国民民主党の減税案に比べればコストは抑えられる。
財務省にとっての最強カードは依然として立憲との大連立だが、林芳正氏が総裁を勝ち抜ける保証はない。そこで「石破か林で立憲連立」を理想としつつ、「高市・玉木で国民連立」という最悪を避けるために、「進次郎・維新連立」も現実的選択肢として温存している。
財務省の政局方針
財務省は、理想と現実の間で複数のカードを手元に置きながら、政局の波を見極めている。
ベストは石破または林と立憲の大連立で増税路線を固めること。
次善は進次郎と維新の連立で、減税圧力を最小限に抑えること。
そして、絶対に避けたいのは高市や玉木による減税路線だ。
この秋、日本政治は首相交代と連立再編の可能性が高まる。その舞台裏で、財務省がどのカードを切るのか——増税路線の未来は、永田町と霞が関のせめぎ合いにかかっている。