財務省が「国の借金は1255兆円に」「国民一人当たり1000万円超」と発表したことを皮切りに、「国債は国の借金なのか?」という論争が繰り広げられている。岸田文雄首相が内閣改造を断行した8月10日にあわせて発表したことからも、この内閣で「財政再建」に取り組む財務省の並々ならぬ決意が読み取れる。
財務省をはじめとする緊縮財政派は、国家の歳出は原則として税収を中心に歳入の範囲内で行う「財政収支の均衡」を重視し、「国債=国の借金」と考えている。税収を超える歳出の財源を国債発行で確保することで「国の借金」が膨れ上がれば国家財政が破綻すると主張。歳出を増やすのならば増税して財源を確保しなければならないという立場だ。
一方、積極財政派は、独自通貨を持つ国家(ドルを持つ米国や円を持つ日本など通貨発行権を持つ国家)は、変動為替相場制においては財政収支の均衡にとらわれることなく、国債を大胆に発行して大規模な財政出動をすることが可能だと主張する。この際、過度なインフレや通貨安には注意する必要があるものの、日本のような人口減社会ではそもそもハイパーインフレは起こりにくく、税収で確保した範囲に歳出を限定する必要はまったくないという考え方だ。この立場からすれば「国債=国の借金」という財務省発表はミスリードとなる。
緊縮財政派のドンは財務省だ。財界は法人税減税と引き換えに消費税増税をずっと訴えており、財政収支の均衡を重視する緊縮財政といえよう。財務省の意向に忠実な朝日新聞をはじめとする大手マスコミも緊縮財政派であり、「国債=国の借金」と当たり前のように報道して財務省の緊縮財政路線に加担してきた。岸田首相が率いる宏池会(岸田派)は、安倍晋三元首相が率いた清和会(安倍派)と違って財務省に極めて近く、伝統的に緊縮財政派である。
野党はどうか。立憲民主党も民主党時代に消費税増税を進めた重鎮たちを中心に本質的に緊縮財政色が強い。泉健太代表は参院選で「消費税の時限的減税」を掲げたが、参院選後の人事では、民主党政権で消費税増税を進めた緊縮財政派のドンである岡田克也氏を幹事長に、財務相経験者の安住淳氏を国対委員長に、岡田氏と並ぶ緊縮財政派のドンで首相・財務相を歴任した野田佳彦氏の側近で財務省出身の大串博志氏を選対委員長に起用。緊縮財政路線に大きく舵を切り、岸田政権との接点を探っていく可能性が極めて高い。
日本政界は緊縮財政派が圧倒的に強い。自民と立憲の二大政党はともに本質的に緊縮財政派なのだ。無駄遣いを厳しく批判する日本維新の会も、財政規律を重視する共産党も、基本的な考え方は緊縮財政である。
これに対し、積極財政を前面に掲げているのはれいわ新選組である。山本太郎代表はれいわを旗揚げした2019年参院選から一貫して「消費税廃止」を訴えてきた。これに対して立憲や共産が現下の不況や物価高を踏まえて「時限的な消費税減税」を訴えながらも、消費税廃止に踏み込まなかったのは、両党が基本的に緊縮財政派であるからといっていい。
日本の政界、財界、官界、マスコミ界は緊縮財政派が圧倒的に強い。日本においてれいわをはじめとする積極財政派はかなりの少数派で、緊縮財政派に包囲されている格好だ。
しかし、世界ではむしろ積極財政派が勢いを増している。EUが迫る緊縮財政で国内経済が破綻したギリシャの悲劇に加え、コロナ対策で大胆な財政出動をした米国が好景気に沸いたことが大きな要因だ。
これをうけて参院選ではれいわの公約作成を主導した長谷川ういこ氏が「れいわの経済政策こそ世界の主流」と主張したことは記憶に新しい。
緊縮財政vs積極財政の経済論争はこれからの世界の政治・経済の大きな対立軸となる。日本政界にもその波は押し寄せてくるだろう。
経済政策に「絶対」はないと私は考えている。それぞれの時代にどちらに軸足を置いて経済政策を展開していくか、それを判断するのが政治の役割だ。私はデフレ不況が長引き、貧富の格差が拡大している今の日本では、庶民の暮らしを守り、経済を底上げするためにも、積極財政に軸足を置くべきだと考えている。そして、政界、財界、官界、マスコミ界が積極財政に対する包囲網を形成している最大の理由は、自分たちの既得権を守るためには緊縮財政の方が都合が良いからだと分析している。
以上の論点について、ユーチューブ動画で解説した。
少なくとも「国債=国の借金」であり「財政破綻につながる」という論理だけで積極財政を否定することはできないと私は思う。そのうえで、緊縮財政は上級国民や富裕層に、積極財政は庶民に有利なのは間違いない。自民党が上級国民や富裕層に味方する経済政策を続ける以上、野党は庶民に寄り添い、積極財政の可能性を徹底的に追求すべきだと私は考えている。詳しくはぜひ動画でご覧ください。