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崖っぷちの石破首相──「続投」への三つのナローパス

自民党総裁選の前倒し論が現実味を帯び、石破茂首相はいま、総理の座をめぐる断崖絶壁に立たされている。常識的にみれば退陣は不可避。しかし当の本人は、韓国やインド首脳との会談、さらには国連総会への出席と、外交日程を次々に入れ、1日でも長く「居座る」構えだ。

石破氏はこの国を突き動かすのか、それとも破綻へ導くのか──。

ここでは「石破続投」へ残された三つのシナリオを検証してみたい。


森山シナリオ──穏やかな退陣を阻む居座り戦術

8月8日、自民党は両院議員総会で総裁選前倒しの手続きに入ることを決定した。総裁選管理委員会が議員と都道府県連代表計342人に賛否を問う「意思確認」で、過半数が賛成すれば総裁選実施が確定する。党則6条に基づく、いわば「総裁リコール規定」である。

参院選敗北の総括を機に、森山裕幹事長ら党執行部が一斉に辞任し、石破首相に自発的な退陣を促す。これが麻生・菅・岸田の元総理にも説明された「ソフトランディング案」だった。

だが、石破氏は意に介さない。支持率が微増し「続投賛成」が「反対」を上回った世論調査に後押しされ、外交日程を盾に居座り戦術を展開する。森山氏は「総理が何を考えているのかわからない」と嘆き、総括発表を9月に先送りせざるを得なかった。森山シナリオは、石破氏の強情によって行き詰まりつつある。


総裁選阻止──信任を演出できるか

続投の第一の道は「総裁選そのものを阻止する」ことだ。

総括後も退陣を拒めば意思確認に入るが、党内では「賛成が過半数」を占める見通しが強い。石破氏に残された望みは、これを逆転させることにある。

その切り札が「記名式・結果公表」の意思確認案だ。世論調査では自民支持層の7割が石破続投を容認しており、議員たちに「国民の目」を意識させる狙いがある。さらに大臣や党役職を担う議員に「クーデター参加」のレッテルを貼り、プレッシャーをかける算段だ。

もし阻止に成功すれば「党内信任」を得たことになり、残りの任期2年をまっとうできるかもしれない。

だが、参院選惨敗後に退陣論を唱えた議員たちが「ゾンビ政権」に復活の機会を与えるとは考えにくい。むしろ「続けたいなら堂々と総裁選に出ろ」という空気が広がる可能性が高い。


総裁選再選──推薦人20人の壁

第二の道は総裁選での再選だ。しかし、ハードルは極めて高い。

まずは推薦人20人の確保。昨年も苦労した石破氏にとって、今回の状況はさらに厳しい。最側近の赤沢亮正大臣は「大将軍を支えたい」と公言しているが、彼に続く議員がどれほどいるのか疑問だ。

さらに、党員投票を伴うフルスペック方式か、国会議員と都道府県連代表だけの簡略方式か。鍵を握るのは森山幹事長である。フルスペックなら「国民人気」で勝機があるが、簡略方式では党内基盤の薄さが致命傷になる。

仮に出馬できても、今回は「石破続投の是非」が争点。昨年のように「高市阻止」の消去法で選ばれる余地はない。アンチ石破の結束が固まれば、党員票で大勝しない限り再選は望めない。すべては世論の風次第だ。


総理居座り──究極の禁じ手

最後に残るのは、総裁を降りても「総理大臣は辞めない」という究極の禁じ手である。党則にはその場合の規定がなく、唯一の手段は国会の内閣不信任案だ。

しかし、提出できるのは立憲民主党か自民党のみ。だが、立憲の野田佳彦代表は石破氏の事実上の応援団で、不信任案提出に消極的だ。

となれば、自民党が石破氏を除名し、閣僚が一斉辞任するしかない。政界は大混乱に陥り、公明党や国民民主、維新なども離反するだろう。

最後に残るのは、立憲との「負け組連合」で解散総選挙を断行する道だ。石破・野田連合が過半数を取れば石破政権は延命するが、博打色が強く、現実味は薄い。


おわりに

外交日程を駆使し、森山シナリオを翻弄する石破首相。だが「続投への道」は、総裁選阻止・再選・禁じ手居座りの三つしか残されていない。いずれも茨の道であり、成功の確率は限りなく低い。

とはいえ、石破氏の「粘り腰」が日本政治を予測不能な局面に追い込んでいることは確かだ。

崖っぷちの首相が選ぶ一手は、停滞した政局を動かすのか、それとも混乱を極めさせるのか。9月、自民党の選択がこの国の行方を左右する。