七夕の東京都知事選に当選した後、すっかり影が薄くなった小池百合子知事が久々に話題を集めた。8月6日に明治神宮球場で開かれたプロ野球ヤクルト・阪神戦の始球式に登場し、投球の際に膝をひねった。車椅子で球場を後にし、膝関節の剥離骨折と診断された。
全治二ヶ月。再び表舞台から姿を消し、当面はテレワークで公務をこなすという。
思わぬ不運である。
しかし、タダでは転ばないのが小池知事。この雲隠れ、都合がよい側面もあるようだ。
都知事選では明治神宮外苑の再開発をめぐり、開発事業者への大量天下りや政治資金パーティー券の購入を追及された。これをかわすため「公務」を理由にテレビ討論を拒否。一方で奥多摩や八丈島には「公務による視察」でむかい、事実上の「選挙活動」を展開した。
ところが、都知事選後は「公務による視察」はパタリとなくなった。どう考えても「公務による視察という名の選挙活動」だったのだろう。
久しぶりに注目を集めたのが、この始球式。そこで膝を捻り、剥離骨折。
再び表舞台から「雲隠れ」することになった。
都知事選は、裏金自民党からの支援を隠す「ステルス選挙」で逃げ切った。
しかし、選挙後は2位躍進の石丸伸二氏と3位惨敗の蓮舫氏に関心が集中し、勝者であるはずの小池知事の存在感は埋没した。
学歴詐称疑惑で元側近の弁護士から刑事告発されたが、検察当局が強制捜査に動く可能性はほとんどない。小池知事のリコールを目指す動きもあるが、約150万人の署名が必要なうえ、就任から1年はリコールできないため、相当にハードルは高い。都知事の座は守ったといえる。
だが、小池知事にとって「都知事」はもともと、初の女性首相へステップアップするための踏み台だった。
4月の衆院東京15区補選に電撃出馬して国政復帰し、二階俊博元幹事長や萩生田光一都連会長の後押しで自民党に復党、9月の総裁選に出馬して初の女性首相になる野望を描いていたのだ。
ところが、学歴詐称疑惑が再燃して国政復帰を断念。大逆風の都知事瀬選は現職の強みと自公組織票を固めて逃げ切ったものの、初の女性首相への道は見えなくなった。
9月の自民党総裁選にはもちろん出馬できない。そのあと、10月に解散総選挙があっても、知事選に当選したばかりで辞めるわけにはいかない。何よりも都知事選を通じたイメージ悪化で「小池首相待望論」はすっかり影を潜めた。
今回の剥離骨折による全治二ヶ月で、9月〜10月の政局にからむことも物理的に困難になった。
だが、突然の「不運」は、小池知事にとって必ずしも悪いことばかりではない。むしろ都合が良いこともある。
都知事選で自民党の裏金議員として批判を浴びた萩生田氏(衆院東京24区)らからステルス支援を受けたため、自民党総裁選後の10月解散総選挙が行われた場合は「恩返し」で萩生田氏らを応援しなければならない。そうなると再び「裏金自民との一体化」を追及されるのは避けられない。
しかし今回の剥離骨折を理由に総裁選からも総選挙からも距離をおくことができる。全治二ヶ月を口実に、選挙応援を断ることができるのだ。
10月解散総選挙の場合はさすがに小池氏が知事を辞めて総選挙に出馬するのは難しい。しかし総裁選を経て新内閣が誕生しても支持率が上がらず、10月解散が見送りになれば、残る衆院任期は1年。来年夏の衆参ダブル選挙の可能性が出てくる。そこまで解散が先送りされれば、小池知事の総選挙出馬の可能性も出てくるだろう。
しかもそこまで自民党が解散を断行できない場合は、相当に追い込まれているということだ。政局流動化になれば、再び小池待望論が浮上することもありえる。その時に裏金自民と距離を置いておくことは、小池知事にとって必ずしも悪くはない。
思わぬ全治二ヶ月の剥離骨折が怪我の功名となるか。小池知事の野望はまだまだ衰えていないように思う。