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オーストラリアから日本を思って(24)混乱する国々、すでに西側は敗北したのか? 日本の選択は?~今滝美紀

ここ数週間で、さらに目を覚まさせられるような出来事が、世界各地で起こっています。

気づかないうちに、急速に進み混乱し崩壊しそうな国々。自由や民主主義の仮面を被り、全体主義/共産主義的な制度を次々と確立しているような民主主義と呼ばれる国々。次々と起こる、起こるはずがないと思っていたこと。このひび割れて、崩壊しそうなビルの一隅から抜け出し、日本を建て直し、未来をつくることができるかどうかは、次の国政選挙にかかっていると思う人は多いと思います。

世界の流れに興味をもったのは、日本が、その歯車の一部、その流れの一部となり、動き流されているのではないか? なぜ不思議な棄民政治が続くのか? という疑問を解くカギ、そこから抜け出すためのヒントがそこにあると思えてきたからです。

オーウェルは小説「1984」で、国は存在しないといいます。そのかわり、支配者たちに自治を認められた地域が存在する、と説明しています。

確かに、EU(ヨーロッパ共同体)+NATO(軍事同盟/北大西洋条約機構)の枠組みに入っているヨーロッパの国々は、自国の民意に関係なくその決定に従わなければ、制裁され、排除されるでしょう。NATOの加盟を、ヨーロッパ・米国の圧力で余儀なくされたという国があるとも聞きます。日本は、これらに加盟していませんが、NATOパートナーとして参加し、米国・西側諸国と多くの条約や密約が結ばれて、政治や政策はそれらに縛られているようです。

世界各地での混乱

ヨーロッパの国々では、戦争への抗議に加え、収入低下や困難な農作業で生活が難しくなった農民の人々の不満が爆発し、EU(ヨーロッパ共同体)や自国政府に対し一斉に、過激なプロテスト/デモを起しました。ウクライナでの戦争による、農業にかかる燃料の高騰・ウクライナからの制限のない安い農産物の流入・高い税金・過剰な環境保護のための農業規制が原因です。この大きな抗議が各国政府やEUに制度の改正を起させました。

オーストラリアでの報道では、抗議に参加した農民の方の声が紹介されていました。「これは、ヨーロッパの人々ではない。ヨーロッパで働く人々でもない。それは、多国籍企業がヨーロッパを支配している。だから私たちは道路の真ん中で居るんだ」 ウクライナの土地も米国の多国籍企業に売られている報道を以前紹介しました。

連日、報道されていたのは、パキスタンの国政選挙と機密情報を漏らしたとして逮捕されているカーン元首相をめぐる様子でした。カーン元首相は、今も多くの国民に支持され、この逮捕を反対する抗議が行われ、一層強くなっています。選挙結果はカーン元首相の政党が一番支持され、カーン元首相は自身のXで勝利のスピーチを伝えました。「政治家はどうせ、自分のポケットに金を入れたいだけだ」「選挙をしても結果が尊重されない。形だけの選挙だ」「腐敗した政治で、良くなると期待していない」という政治に不満やあきらめの声が伝えられました。人々の怒りと抗議に大差はありますが、日本の様子と重なります。(こちら参照

アフリカのブルキナファソの報道もよく目にしました。ロシアのプーチン大統領が数百人のロシア兵をブルキナファソに派遣しました。フランス軍撤退後のトラオレ政権を支援し、NATOからトラオレ政権を守るためだそうです。(こちら参照

オーストラリアで、イスラエルによるガザの攻撃が始まる前に毎日のように取り上げられていたのは、大量にヨーロッパやアメリカに押し寄せる難民の人々のニュースでした。南米から危険な熱帯林を徒歩で横断し、アメリカに入国しようとする人々。命を失う危険性を顧みず、アフリカから地中海を小さな船でイタリアに渡る人々。このEUの違法移民受け入れに反対する国々が声を上げるようになりました。

アメリカでは、バイデン政権になり800万人以上(大阪府人口相当)の不法移民が入国し、バイデン政権はその人々に携帯電話をあたえ、政府から資金を受けるNGOが不法移民の人々の支援をしていることが問題になっています。(こちら参照

不法移民の人々が、犯罪を犯したり、米国民の仕事を奪ったり、社会の不安定化を生み、先日は、不法移民を防ごうとするテキサス州の軍とそれを阻止する国軍の衝突に発展しました。不法移民を防ごうとするトランプ前大統領が多くから支持される一つの理由です。

これは、民主党が不法移民を増やし、その支持者を増やすことで、実質一党独裁制をつくるためだと言われています。共和党議員はこれを議会でも追及していますが、治まるように見えません。アメリカの混乱を招いている大きな原因のようです。

西側の敗北か…

フランスで今ベストセラーを競う本は、ベテランで定評のある社会科学者エマニュエル・トッドの「西側の敗北/La Défaite de L’Occident  」という本だそうです。仏語のみでしか見つかりませんでしたが、e-bookで購入可能で、無料のネット翻訳機能を使えば、日本でも読むことができると思います。


コーナー氏のこの本の解説を私なりに読み解くと、トッドは、イギリスの鷹派ぶり、フランスとドイツが外交的経済的利益を守ることに失敗したこと、ウクライナ軍の有効性と戦闘意欲を大きく取り上げています。

第一に、ロシア経済はアメリカと西側の激しい制裁にうまく耐えてきました。それどころかロシアはそれをバネに成長し、中国や新興国の国々から広く強い支持を得ました。 

第二に、昨年夏までに、米国と西側諸国にはウクライナに十分な砲弾を供給する能力がないことが明らかになりました。自称「民主主義の武器庫」としてワシントンが率いる西側諸国は、明らかにロシアの総収入の30倍で強化されていましたが、モスクワとその同盟国には及びませんでした。これは、新自由主義世界の経済の怪しさという疑問を引き起こしました。

第三に、そしておそらく最も重要なことは、ウクライナ代理戦争が本格化するにつれて西側諸国のイデオロギー的自己孤立が明らかになったことです。トルコやインドなどの民主主義大国は当初から米国政府の制裁体制を受け入れることができませんでした。戦争が進行するにつれて、イランや北朝鮮の存在感が目立ち始め、アメリカの同盟国と思われる国々からも、ロシアを助けるための個別の世界的支援がますます増えている。 世界の大部分は、ウクライナをアメリカのNATO基地にするというワシントンの長年の主張に無関心か、反対しているかのどちらかです。

西洋のエリート層全体に広がる独断主義が、それが世界をありのままに見ることを妨げています。一種のイデオロギー的な独我論です。これは未だに一方的にウクライナ支援を表明し“ウクライナ善・ロシア悪”を唱えている多くの日本の政治家やメディアにも当てはまることだと思います。この頑固な思い込みと自己正当化の壁が平和を妨げているのでしょう。 

重要な例は、ロシアの経済力の評価です。 2016年、以前大統領候補でもあったジョン・マケインがロシアは「国を装ったガソリンスタンドに過ぎない」と発言したのは有名な話です。このステレオタイプの思い込みに対し、トッドはいくつかの統計を示しています。

プーチン政権のほぼ初期の2000年から2017年にかけて、ロシアのアルコール依存症による死亡率は国民10万人当たり25人から8人に減少しました。自殺は39人から13人へ。殺人は28人から6人に。長い間の国の発展レベルを示す代表的な指標である乳児死亡率については、プーチン政権下では出生1000人当たり19人から4.4人に低下しました。トッド氏はユニセフの言葉を引用し、アメリカでの乳幼児死亡率は現在1000人あたり5.5人であると指摘しています。 

彼は、ロシアが過去20年間に驚くべき進歩を遂げたいくつかの分野(農業、インターネットアクセス)を挙げ、その後、一人当たりの所得統計では米国に比べれば小さく見られるロシアが、なぜこの20年間でどういうわけか歩調を合わせることができているのかについて推測しました。戦時中は米国と同じくらい多くの兵器を生産します。興味深い手がかりは、高等教育を受けているロシア人の23パーセントが工学を学んでいるのに対し、米国では7パーセントであるということです。その結果、人口がはるかに少ないロシアは米国よりも多くの技術者を輩出し、それが巨人ゴリアテと歩調を合わせるのに役立っているのです。 

世界の多くの人々がウクライナとワシントンが自由と進歩、そしてモスクワが専制を代表しているという考えに関心を持たないという事実も同様です。トッドが主張する主な議論の一つは、ワシントン主導の西側諸国は、世界のどの程度が現代のグローバリズム新自由主義を拒否しているのか全く見当もつかないということです。

プーチン大統領は、先日のインタビューで、これを“うぬぼれ”と呼んでいました。

トッドは、工場労働を安い第三世界に外注することで西側諸国での大量消費を可能にする経済モデルは、2008年の経済危機以前のように、もはやグローバル・サウスのエリート層に歓迎されていないと主張します。 西洋の労働者階級の人々にも愛されていません。

 

文化・道徳・価値観の違い

彼は明らかな論争を引き合いに出し、西側で支配的な道徳的勢力としてのキリスト教に決定的な終焉を告げたLGBTQ革命を指摘します。

2005年から2015年にかけて、アメリカの影響下にある事実上すべての国が同性婚を合法化し、ほとんどの国が同性婚の正常化をさらに進めました。トランスジェンダーリズムの加速。トッドはLGBT問題に関しては個人的には保守的ではないようで、インタビューで全ての人に「平等な権利」を望むことを明らかにしています。

しかし、社会学者としての彼の分析は、次のようなものです。

世界のほとんど(イスラム圏など)の家族構造は厳密に家父長制であり、西洋諸国に共通するより平等な母親と父親の存在、急進するジェンダー主義に対して、根強い家父制度で社会が形成されているイラン(伝統的にロシアに対して非常に不信感を抱いている)、トルコ、サウジアラビアの国民と政府が、LGBTQ政策やトランスジェンダー主義の進んでいないロシアと近くなり「免罪符」を与えられ、道徳の問題がおそらく初めて国際関係における重要な要素として浮上したのです。

世界の他の地域での大きな反応は、西側諸国が「おかしくなった」ということでしょう。それは虚偽の肯定であり、西洋のニヒリズムの象徴であり、新しいアメリカの精神。彼はさらに「虚偽崇拝の信奉がどのようにして米国を軍事同盟国および外交パートナーとして信頼できるものにするのだろうか?」と疑問を感じています。

これは、西側の私たちが気づきにくいイスラム圏などの人々の信じるものや価値観を知らない溝があり、ジェンダーに対しては、繊細な問題があることは、見逃されがちですが、重要なことだと分かりました。

イスラム圏などの人々に強制的ではなく、その文化を尊重することも必要だと思いました。過度なトランスジェンダー主義も健康的な面から慎重に扱われなければならないのは、広く認められています。

トッドは、米国の道徳的崩壊を、米国を形成し、その歴史のほとんどにわたって主導してきたWASP体制(白人、アングロサクソン、プロテスタントのイギリスからアメリカにわたり、建国の主体となった人々)の終焉にまで繋げているのです。

宗教プロテスタント主義がアメリカを形作りました。プロテスタントは、仕事は神から与えられた天命であるから忠実に励むことが神の意志に沿うことであるという思想です。労働に価値を見いだし、得られた富を当然の利得として認めるという資本主義の精神に結びついている信仰です。

しかし今は、金融・不動産などの投資という労働を伴わない、お金の操作で富を得る人々が支配層で権力を握り、実質社会を支える労働者やその価値が軽視されがちになってしまったようです。日本での低所得者への厳しい態度は、主要な政治家たちやメディアの攻撃で醸成されているのではないでしょうか。

新たに民族的に多様化したアメリカの新たな支配層は、アメリカという国家や国民に対して特別な愛着を感じていません。これは故クリストファー・ラッシュを彷彿とさせる意見であり、彼は人生の終わり近くに、アメリカの上流階級は本質的にアメリカ国家から離脱したと結論づけました。ある時点で、トッドは、ウクライナ問題におけるさまざまな米国の主要な意思決定者、ビクトリア・ヌーランド、アンソニー・ブリンケンというユダヤ系アメリカ人の民族性について困惑し、お手上げのように見えました。

確かに、米国の主要な政治家・経済・金融・メディア界はイスラエル/ユダヤ系かイスラエル/ユダヤと何らかの関わりのある人々であり、その一部の人々が米国を支配しているような現状に、多くの米国人が不満を持っていると聞いたことがあります。また、人口的にも南アメリカから流れ込む多くのヒスパニック系が人口の最多を占める日が近いともき聞きます。 

トッド自身も部分的にハンガリー系ユダヤ人の背景を持っていますが、多くのユダヤ人は家族の記憶を通じてユダヤ文化に対する明確な愛情を保持していると指摘します。ゼレンスキー大統領もユダヤ人ですが、ウクライナではそうではないようです。アメリカはもはや国民国家ではなく、自らの過去に対して絶えず反逆しているニヒリスト帝国であり、支配エリートは国の伝統に対して公然と敵対している、と彼は結論づけています。

フランスやその他の西側諸国がこれに従うことは、災難を招くことになるでしょう。このアメリカの現状は、日本で起きていることと共通することではないでしょうか。

また昨年フランスでもっとも話題になった小説は「クレムリンの魔術師」というイタリア人がプーチン大統領顧問の視点から書いたもので、ウクライナの鷹派はこの作品を嫌い、ロシア派はこの作品を愛し、 フランスではベストセラーとなり、国内で最も権威ある文学賞であるゴンクール賞をほぼ受賞するところだったそうです。


トッド教授と「西側の敗北」については以上です。

この西側のしがらみに関わりたくない、新しい世界をつくる、より自由で国の主権の尊重を目指すBRICS(ブラジル・ロシア・中国)を中心に、イスラム圏・アフリカ・アジアの新興国が集っています。BRICSはG7のGDPを抜きました。

先日公開された、プーチン大統領の2時間にも及ぶインタビューは、非ナチス化で世界の安定・安全を目指すという目的が語られていました。停戦/終戦のためにいつでも交渉のテーブルに着くと言い続けているロシアに対し、ウクライナは、ロシアとの交渉を禁止する法律をつくり、話し合いまで拒否しています。

イスラエルでは、イスラエル人で、反戦活動化の歴史教師のBaruchinさんが、イスラエル人に命をとられたパレスチナ人をインターネット上に投稿したところ、自宅に警察が乱暴に侵入し逮捕されたことを語っていました。(こちら参照)

ウクライナでは、ウクライナと米国を批判するアメリカ人のジャーナリストが逮捕され、拘置所で亡くなりました。

朝鮮半島では、ロシアと関係を深める北朝鮮が、停止していた全ての軍事措置を再開する方針を示し、2月8日 には 国会にあたる最高人民会議が韓国との経済協力推進に関する合意を全て破棄することを決議したという報道があり、緊張が高まっていることが伺えます。

このように、民主主義や自由が失われ世界が混迷し戦争が続く中、日本では戦争の用意のためのような法律・改憲、参戦を促す発言をする議員が目につきます。次の国政選挙は反戦と日本の平和を守り、世界にアピールするためにも、ぜひ自公政権を倒し、救民内閣の成立を強く願います。

鮫島さんの講演「戦争とジャーナリズム」が日本の現状とこれからをつくるうえで、参考になります。(こちら前編 後編

2月10日は中国の旧正月でした。オーストラリアではアジア以外で、もっとも盛大に祝われているそうです。今年は行けませんでしたが、ニュースでは、辰年で竜が通りを舞う様子が映されて、長崎のおくんち祭りを見ているようで、同じ文化の起源を感じました。小さな町でも通りに提灯が飾られていました。(冒頭の写真です)


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。

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