23回と26回では、選挙の争点として「消費税・税制の改革」「裏金・汚職・腐敗政治」を取りあげました。今回は“分断政治からみんなのための政治へ”について書きたいと思います。
国民の“疑心暗鬼”を払拭するための“連帯”は、“国民のためチーム”の政治家側だけではなく、投票する国民側も“分断”について知り、チームとして“大きな団結”となれれば、自公政権に勝つための大きな推進力となるはずです。
分断vs連帯
2022年オーストラリアで政権交代が起こった6週間の選挙期間中、その後もよく耳にするのが、団結を妨害する“分断政治”への非難です。
政権交代を果たした今のオーストラリア首相は、労働党のリーダーに選ばれる前の2018年から、繰り返し分断政治を非難していました。
「国民は政治に背を向けている。モリソン首相(前首相)はやる気のないリーダーの定義だ。彼の政府は非常に分断されており、国を統治することをやめている」(こちら参照)。大企業・投資家・裕福層を優遇し、社会を支える労働者の人々が置き去りにされ、貧富の差が広がり、日本の現状に似ていました。
分断政治・統治を言い換えると“人々が団結することを防ぎ、分断して国をコントロールする政治手法”です。
古代ローマに存在し、地域や人々に認められる権限が違い、団結してローマに対抗することを避けるために、各地域においてはローマとの個別の条約を締結して政治関係を持つことのみが認められ、都市間の関係は一切許されなかったそうです。
この手法をイギリスはインドを植民地支配する際に、ヒンズー教vsイスラム教やカースト制度の細かい身分制度を煽ることで、分断し、支配しようとしていたそうです。
以前は日本で触れることがなかった対立を表す言葉、“庶民と上級国民”・“若者と高齢者”・“正社員と非正規”・“勝ち組と負け組”・“都市と地方”などを見聞きするようになりました。
日本で起こる高齢者への攻撃と分断
格差に加え日本で最近、起り始めた高齢者への攻撃を辿ると、「政府または政権・財務省・作られるインフルエンサー・維新/国民民主(自民党に近い“ゆ党”)」の姿が浮かび上がってきます。
1 成田氏の発言を巡って
れいわ新選組の山本太郎代表が成田悠輔氏の“高齢者の集団自決”論を財政金融委員会で取り上げ、岸田首相に問い正すことができました。
私も以前この成田氏の“優性思想”を想起させる差別発言を主要メディアや政治家が取り上げ、なぜ非難しないのか?と思っていました。消費税廃止を提唱している京都大学教授の藤井聡さんの「『老人集団自決論』に賛同する声が、世間に多数存在しているという点に大層驚きました。」という指摘も目にしました。(こちら参照)
また、成田氏は公の場で、この発言をしたにもかかわらず、山本太郎さんが成田さんの名前を出したということを、理不尽に非難する人まで現れて、また一層驚きました。この後、立憲の勝部賢志議員も財政金融委員会で成田氏やひろゆき氏の名前をあげて同様の問題を質疑していました。(こちら参照)
特定の集団を攻撃や差別した、やまゆり学園の悲劇を思い出しました。
2 森永卓郎さんの指摘
森永さんは「若者vs高齢者というのは、財務省が責任を高齢者に押し付けて、高齢者を叩くことで増税・増負担・低サービスのための手段だと思っています」と指摘しています。「年金を下げて、80歳からの支給にする。夫婦二人の支給額が月約4万円になれば、90歳まで働けばいい」という若者の意見に唖然としたと言います。「なぜかと思ったら財務省の主計局長が洗脳しているんですよ。財務真理教の布教活動が活発化していて、全く来ないのは私と山本太郎ぐらいなんですよ」と説明してます。
3 高齢者介護困難→地域崩壊→淘汰政策
しんぶん赤旗は「過去最多、訪問介護の倒産・休廃業が昨年427社で過去最多と判明。高齢者の在宅介護が困難になり、地域の崩壊を招く緊急事態。一軒、一軒、地域をまわる小規模事業者ほど赤字になる仕組み。岸田政権は訪問介護の報酬を引き下げ〝淘汰〟に拍車」という実態を伝えました。
これに「あり得ない話。本来、施設介護が原則なのに、政府が家族に担わせることでもっと安上がりに済ます為につくった制度が訪問介護。それをヘルパーの報酬削減で潰そうというのだから、介護は家族だけが担う完全な自助になるではないか。これでもまだ介護保険料を徴収し続けるのは犯罪そのものだ」という声に賛同が集まっていました。(こちら参照)
4 維新と国民民主の緊縮+医療改革制度
元衆院議員で税理士の安藤裕さんは、維新の音喜多議員と国民民主の玉木代表の高齢者へ負担を強いる政策について「高齢者の医療費負担を3割にしたところで、医療費は増えて行くので、現役世代の負担は減りません。今の現役世代も歳をとるころには3割以上という地獄がやって来る。だから子どもたちが、高齢者が自分の医療費払うのは当然だろと思う。高齢者は…と分断を煽る政策」と指摘し、自公政権と歩調を合わせていると非難しています。
また別の動画では「政府がその力を使えば、現役世代の社会保険料は、明日からでも激減できるし、高齢者の医療負担を増やす必要はない。高齢者の年金の支給額も上げることができます。みんな幸せになるじゃないですか。誰もこんないがみ合う必要ないんですよ。敵を見誤ってはいけません。高齢者に矛先を向けないように」と分断工作に乗せられないよう訴えています。
維新や国民民主の案は、輸出で消費税を払わなくてよい企業や裕福層に負担をかけないようにする一方、収入を得ることが難しくなる高齢者をターゲットにして、分断を促しているような印象を受けます。
“若者vs高齢者”という分断ではなく、裕福層がお金を使うことを促すことで“富の再分配”を進める方法が考えられます。第23回で紹介したのように、オーストラリアには、高級志向の高い裕福層は私立病院でお金を使い、庶民は公立病院で無料の医療が受けられるという二つの医療制度があります。公立病院の医師は、個人病院のように経営を気にせず、必要な医療を提供するので、過剰医療の問題にも対処できます。日本で公立病院の統廃合が盛んになっていることが懸念されます。
オーストラリアの国民保険料は、所得の一律2%(約180万円以下は0%)で、高額所得者の支払いが低中所得者や高齢者の無料医療を助けることになります。
緊縮財政や高齢者に増々負担を強いる分断政策などに、疑問・不満をもつ維新や国民民主党の議員や候補者は、個人的に離党して“国民みんなのためのチーム”に移籍できないのか、と思います。
オーストラリアでは
オーストラリアの2022年国政選挙では、高齢者も子どもも成人も経済的・肉体的・精神的にいたわる政策「3つのケアー(Care)」“①Aged Care(高齢者介護)②Child Care(保育と幼児教育)③Medicare(メディケアー/医療)”が政権交代での争点となりました。
庶民出身のアルバニージ現首相は政権交代を果たし、Aged Care(高齢者介護)の向上について、6週間の選挙期間中だけでなく、政権交代後も繰り返して訴え、「オーストラリアで弱い立場の人々を助けるための一歩が踏み出せる」と社会を変える意気込みを伝えました。
その実現のためのいろいろな取り組みがされています。そのいくつかを紹介します。
☆「高齢者介護に尊重と尊厳を取り戻す時だ。労働党が高齢者介護に安全・尊重・質・人間性を取り戻す」
☆「イースターエッグを高齢者の方々に届けました。オーストラリアの高齢者がこの国を築き上げた。彼らは晩年になっても尊厳と尊敬を受けるに値します」
☆「連立与党(自由党と国民党)は、高齢者にきちんとした食事や介護を与える余裕はないと言った。私は違う。高齢者は、美味しい食事と介護を受け、尊重され尊厳をもって生きるに値する。簡単なことだ」
☆「最低賃金で働いてくれている、介護士・看護師・清掃員の方々が、社会を支えてくれています。彼らの昇給を歓迎しますか。もちろんです」
そして去年、高齢者介護士の方の給料は15%上がりました(こちら参照)
☆ 介護士免許取得コースが無料になりました。
☆「介護を受けている高齢者にはおいしい食事が必要です。労働党は、高齢者が新鮮で健康的、栄養価が高く、安全な食事を確実に楽しめるようにします」
豪州のベテラン有名シェフで高齢者の食事研究者であるマギー・ビアー(Maggie Beer)さんによって、高齢者施設で働く人々に次のような教育とトレーニングを 無料で提供されています。
🍎 11 のオンライン学習🍐 食事満足度アンケート🍋シェフトレーナーによるショートコース(こちら参照)
また、“高齢者介護の危機を解決し、高齢者介護のための新たな資金提供モデルの公約”を実現するために以下のような政策があげられました。(こちら参照)
① 24時間の正看護師のケア
すべての住宅型高齢者ケアホームに 24 時間年中無休で常駐する資格のある正看護師を義務付け、高齢者が必要なときにすぐにケアを受けられるようにします。
② 透明性・公平性・質・安全の向上
高齢者介護に関連する費用を監視する措置を導入し、透明性と公平性を提供者に一層の責任をもちます。また、承認された医療提供者の透明性と説明責任も強化し、高齢者の介護の質と安全性を向上させます。
これにより、何にお金を費やしているのかなど、運営に関するより多くの情報が公開されることになります。
③ 利権・腐敗の防止
管理費および管理費に請求できる金額に上限を設けることにより、在宅医療費の腐敗を阻止するという私たちの選挙公約も実現します。
これで、在宅介護の利用者が、自分のお金が提供者の利益ではなく、介護に直接使われることを確信できます。
④ 星評価
公共からの比較評価を発表する星評価を行います。重大な事故対応の計画を全ての在宅介護提供者に拡大し、予防可能な事故、虐待、怠慢からオーストラリアの高齢者をさらに保護します。
オーストラリアでは、差別は罪になり得る
州ごとに差別に関する法律があり、年齢差別も含まれています。高齢者を含む一般の人々を差別から守り、無料で相談や解決の場も提供されます。私的な場や内心の自由はありますが、NSW州では特定の年齢または年齢グループの人々に、公共の場や職場で、不公平な影響を与え、不合理な場合、差別であると判断される時があります。(こちら参照)
もし、成田氏がオーストラリアで、同様な状況で、あの発言をすれば、罪に問われる可能性が高いのではないかと思います。また、主要メディアも大きく取り上げるでしょう。
政治の選好を決めるもの
政治科学者のラトクリフ博士(Shaun Ratcliff)の指摘が、今の政治や選挙の状況を物語っていると思いました。有権者の若い時の環境や人生経験の違いが、支持政党・政策の選好の隔たりを説明しているということです。
「私たちは、多くの政治的社会化が非常に若いうちに起こることを知っています。私たちの10代や20代の頃。私たちの政治に最も影響を与える可能性が高いのは、私たちがまだ若くて順応性があるときに起こることです。私たちが年齢を重ね、自分のやり方を固めるにつれて、私たちの政治が変わらないわけではありません。しかし、それらを変えるのは難しいのです」
日本では高校生が選挙や政治活動をしていると咎められるということを見聞きします。選挙期間は短く、主要メディアはその選挙報道を控え、伝えようとはしていないようです。でも、税に関しては小学校の習字で“税”に関する文字を書かされ、税務署から職員を派遣し、税の大切さを学習させることは、熱心だった記憶があります。
一方でオーストラリアでは、国政の選挙期間は6週間、毎日主要メディアは相当の時間を選挙に割きます。小さい頃から家族と選挙に行き、投票場でデモクラシー・ソーセージ(第7回)を食べることが一般的です。学校をさぼって、政治的なデモに参加することが、恒例の若者も少なくありません。選挙は納税と同じように義務で、若い頃から毎回投票し約90%の投票率を維持しています。
投票率が大きく違う原因のひとつは、この日々の政治的経験がつくられているか、いないか、によるものでしょう。政治と選挙への関心・民主主義を日本に根付かせることも、“国民みんなのためチーム”で実現を願います。
不思議なことは、自分の育った故郷と、全く違うオーストラリアで、なぜか似たような居心地の空気を感じることでした。気づいたことは、オーストラリアには、弱い立場や困っている人を助けるという、日本本来の善き文化と同じ空気があるということ。
日本では、私のように地方の小さな町で、四国八十八カ所の霊場、四国高野と呼ばれる寺に、毎年冬場に登山で参拝する風習がある土地で、集落のそれぞれの家に集まり、その家の祖先を参るような昔ながらの文化が残るところで、祖父母にも世話になり育ったものにとって、成田氏の“あの発言”は、大変ショッキングでした。そこで山本太郎さんが非難してくれたことは、救いとなりました。
成田氏の、子どもたちの前での“あの発言”が、非難されず、そのまま公の場で、繰り返され、賛同する人々が増えて行ったら、裏金・腐敗政治が解明されず、厳しく罰せられず続いて行ったら、日本の未来社会はどうなるのか…。日本の祖先を敬い、助け合うという伝統的な文化が残る、多くの地方の町が無くなって行けば、それは少数派となって、やがて日本の本来の善き文化が消えて行くのではないか…。そうならないように…願いを込めて書きました。
おわりに
シドニーは、猛暑日が続いた長い夏から、肌に刺す太陽の光が少し柔らかになり、バラが枝葉を伸ばし、また花をつけ始めました。
冒頭の写真はアイスバーグという薔薇の白い花で、一人暮らしのお年寄り、オーエンさんが育てているものです。彼のバラたちは、この辺りで、一番見事に花を咲かせ、目を楽しませてくれます。私は、同じ種類で色違いの紅のバラをホームセンターで見つけたので、衝動買いをしてしまいました。オーエンさんは、ばったり道端で会うと、バラの育て方のちょっとしたコツを教えてくれます。
今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホームステイ先のグレート オーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。