政治を斬る!

オーストラリアから日本を思って(39)政治を変えるために、日本に最も必要なこと〜豪州国政選挙開始!5週間の長期選挙バトル~今滝美紀

さて豪州では、5月3日に国政選挙があります。最長3年に1度、衆参とも同時に行われ、選挙期間は5週間。日本の衆議院は最長4年ですが、短期決戦は日々の緊張感が高まる政治になるようです。

2大政党制は嘘か幻想か?

鮫島さんは、自民党と立憲民主党の与野党の蜜月ぶりと大連立構想を解説しています。その上、日本では維新、国民民主党の自民党援助軍のような政党が幅を利かせているのも特徴です。

豪州では、より2大政党の身勝手な独占的政治への不満や不信が有権者に広がります。

現職の独立系(無所属)国会議員たちが、有権者の声を聴かない、2大政党を公に非難して、それが有権者に広がりました(第12回)。

例えばABC(NHK相当で無料)で外国特派員を27年勤め、第一次トランプ政権でワシントン特派員だったダニエルさんは2022年、自由党(自民党似)が長年独占していたビクトリア州の地域で勝ちました。「子どもたちが、将来誇れる国にしたい」と言います。

そしてABCの生番組で「数十年にわたってオーストラリア人は嘘を言われ続けてきた。主要政党だけが政権を握れると言われてきた。しかし、彼らは私たちが直面している、税制改革、女性の安全、住宅・気候・生活苦問題を解決してきたと感じますか? あるリサーチグループの有権者はこう語った。(2大政党からの選択)『それはsh*tとsh*tterの間の選択だ』」と揶揄しました。

日本で投票率が低い、一つの大きな原因は、自分たちのために政治をしてくれる。そして、信頼できる、選択(候補者)がいないからだと思います。 

また彼女は「二大政党制ですか? 期限切れです。計画のない一時的な約束。ゴールドスタイン(選挙区名)は、より良い方法があることを示しました。それは、独立性があり、コミュニティ主導で、政治結果に重点を置く方法です。機能するものをバックアップします。政治の独立を取り戻す。(2大政党が)無視できないメッセージを送信しよう」とツイートで有権者に呼び掛けています。

またABCは「政党には、党の方針に従わざるを得ない疲弊した候補がいることが非常に多く、そこに人々の不満が生じることになる」と専門家の声を伝えました。

北部準州(ノーザンテリトリー)で労働党から議席を奪おうとするグリーン党のファーランドさんは「オーストラリア国民は二大政党の独占状態にうんざりしている。政党に所属する人々が自分たちの代表にならず、自分たちの政党のニーズや要望を代弁している事実に飽き飽きしているのだ」と訴えます。

独立系のフィリップさん「我々は、ノーザンテリトリーの住民のための政策をキャンベラ(首都)に持ち込む、人々は3,000キロ離れた政党幹部によって指示されない国会議員を必要としている」と言います。

専門家の「真摯な協議こそが、真に意義のある改善をもたらします。例えば、主要政党の支持があるという理由で法案を議会で強引に通過させるようなことは、民主主義にとって最善の結果をもたらしません」という2大政党政治批判の意見を主要メディアも報じます。(こちら参照

日本でも、時間を掛けた話合いで、公益となる判断ではなく、安易に身勝手な閣議決定や大臣の判断で国に大きな影響を与えることを次々と決めていることに、不満がある人は多いでしょう。

豪州の前回選挙2022年では、2大政党への最優先投票率が最も低くなり、2大政党政治に辟易して、行き詰まりを打破したい投票が目立った選挙でした。   

そこで、政党の指示に従うのではなく、地域住民の声を代表する独立系Independent(日本では無所属と呼ばれ、政党に所属しないことがネガティブな印象を受けます)が、12人(下院151人中)当選しました。政治に影響を与え、今までになかった注目を集めています。小さなグリーン党も当選者が4人に増え、合わせて16人ですが、過半数ぎりぎり政権なので、数的に影響を与え存在感を示しています。

これに対して、独立系議員に脅威を感じているのか、2大政党(与党の労働党と野党の自由党+国民党連合)は、共謀して独立系議員への寄付金に制限を設け、自分たちはより多くの政党交付金を受け取れる法律を通し「有権者の声を無視した民主主義の危機だ」と波紋が広がっています。一部メディアや有権者も独立系議員への非難に躍起になる姿が目につきます。

自由党の牙城、NSW州のシドニー中心部の選挙区で、2022年に自由党を破ったスペンサーさんには、今回の選挙期間中に、匿名で彼女についての虚偽、誤解を招く、不快な主張のパンフレットが5万枚近く配られ、民主主義を脅かすものだと大きな問題だとして、報道されました。幸い豪州の選挙管理委員会が迅速に対応しています。(こちら参照

一方で、独立系候補者たちを励ます声も高まります。下院議員だったウィンザーさんはツィートで「コミュニティの独立系候補者たちへのアドバイス…今後 10 日間、これまで経験したことのない虐待を受けることになります。あなたは疲れ果て、ストレスでアドレナリン放出状態となるでしょう。それはあなたが勝利していることを意味します。落ち着いて、虐待から逃れてください… 自分の信念と誠実さを貫きましょう。幸運を祈ります」と励ましています。

これに独立系ジャーナリストのデンプスターさんは「5月3日に私たちの腐敗した二大政党制に敢えて挑戦する独立系候補者に対する中傷、誹謗中傷、人格攻撃が激化しています。私たちは、いじめっ子や汚いペテン師たちに立ち向かわなければなりません。ここから連帯しよう」と呼応しました。

メディアは民主主義を支援しているのか?

豪州では前述したように、地域で多く支援されている独立系候補者たちは、メディアも取り上げ、生放送で訴える機会も与えられています。2022年ビクトリア州で総理候補と目されていた前財務大臣(自由党)を倒し当選したライアンさんは ABC(NHK相当) のインサイダーInsiderという日曜朝の生番組4月13日で司会者に

「残念ですがあなたにお伝えします。若者にはインサイダーや新聞を見ないように伝えています。彼らはソーシャルメディアでニュースを得ていて、私はSNSを通して、上手く若者たちと繋がることができています。この国の右派と呼ばれるメディアは自由党から検証や要請を受けていると強く思います。」と全国に伝えました。

これは、ライアンさんの選挙区でボランティア(組織や既得損益ではない)たちによる選挙活動です。「今日は、急遽、独立系議員を支援するために大勢のボランティアが集まりました!!とてもポジティブで調和のとれたコミュニティです」というツイートがありました。選挙は、自由でお祭りのようで楽しむ雰囲気があります。

豪州のメディアも問題はありますが、日本より開かれて、より多くの情報が伝えられていることも違いを生み出しているようです。日本の主要メディアは、国民が知るべき政治や選挙の情報を意図的に十分に公平に伝えていないのではないか、と感じてしまいます。

ABCでは、毎日朝昼晩と長時間、政治・選挙情報等ニュースを伝えるチャンネルがあります。SBSは国際的ニュースや少数派を取り上げた番組を放送します。これらはNHK相当で、無料です。なぜ人口が日本の約1/4の人口で、低い税率の豪州で2つのメディアが、無料で放送できて、日本では視聴料を回収しないと成り立たないのか?国民からできるだけ、お金を徴収する取るためではないか?と思ってしまいます。

また、日本では情報プラットフォーム対処法が4月1日より施行され、SNSに対して(主要メディアは保護され)の監視が法的に始まり、委縮し自由な表現ができなくなったともききます。

日本で最も必要な改正は何か?

日本で最も民主主義の妨害をしている根本の原因は、大政党に有利な公職選挙法や政治資金規正法ではないでしょうか。

豪州の2025年5月の選挙では、現政権の労働党が優勢だと見られています。今回はリーダーが与える印象も大きく影響しているようです。有権者がどのように、2大政党と非主要政党、独立系候補者を判断し、投票するのかに注目が高まっています。

有権者からは、独裁的ではなく話し合いをして決める過程が生まれるので、「宙ぶらりん政権(過半数でない政権)」を歓迎する人々もいます。

一方、日本では議員たちが熱心に国会で憲法改正と緊急事態条項について憲法審査会を頻繁に行っているとききます。これは広末涼子さんや大谷翔平さんのニュース裏で行われ、「メディアは報道しない」とSNSで目にしました。SNSでは#憲法審査会解散  #憲法改悪断固反対 #緊急事態条項断固阻止 #改憲発議断固阻止  #SNS規制は憲法違反、などの#タグを目にしました。              

パンデミックや災害時も集団行動をとって乗り越えてきた日本に必要か? 今の法律で対応できるのでは?人権が侵害され憲法違反では? 国民投票で、SNS発信を禁止されるの?と不信・不安な気持ちが伝わってきます。

自民・維新・国民民主は憲法改正と緊急事態条項に、なぜか前のめりで、焦っているかのように見えます。

緊急事態条項には「選挙をしない、できない」だから「政治家の指示に従え」という独裁的な雰囲気を感じます。緊急事態だからこそ、国民の意見に従った政治をするために、選挙をするべきだ、という声もあります。ネットワークが発達した現代で、「選挙ができない」というのは、言い訳に聞こえます。私は、緊急事態条項ではなく、どんな時も選挙ができる、準備と体制をつくっておくべきだと思います。

立憲の中には、慎重論や反対する議員も見られますが、政党に所属する限り、党幹部の判断に従わなければいけない。有権者の声を無視して、強行する政党政治は横暴な反民主主義政治のようです。

日本に至急必要なのは、憲法改正の緊急事態条項ではなく公職選挙法改正だと思います。日本の国政政治選挙の特徴は、大政党に有利な制度でしょう。例えば次のように改正してはどうでしょうか。

・大政党の政治資金(巨額の政党助成金資金、企業献金、高い給料優遇等)禁止

・高額の供託金の廃止(代わりに選挙区から数百人の推薦を得る)

・長い選挙期間(日本の衆議院12日間、豪州は35日間)

・政党に囚われず、大臣職は立候補制で、有権者が選挙で選ぶ。

・独立系(無所属)への選挙運動の規制や制限の廃止

緊急事態でも選挙ができる体制の整備

・メディアへの幅広い選挙活動・問題・有権者の声を十分に伝える義務

・小選挙区から中選挙区に戻す、または優先順位制度

・給料を下げ、代わりに庶民からの代表者(議員)を増やす。

・リモート会議の導入でコストカット

・投票したら、数千円の地域商品券の配布で投票率向上など

公職選挙法を改定して、政党や自分のためでなく、本当に日本の人々のために政治をしたい、力のある人々が立候補して当選すれば、本当の民主主義に近づくはずです。

また他国のように、低い供託金の代わりに、選挙区で数百の推薦人を得ることを条件。政治家ではなく地域の代表として扱う。メディアの公平で毎日の長時間選挙放送でお金のかからない選挙にする。給料を下げて(お金目的ではなく純粋に国の人々のために仕事をしたい人)、代表の数を増やし、多様な声が届き議論が活発化するはずです。

立憲の野田代表は、議員数を減らすことを提案していますが、これは一部による独裁的・権威主義的政治に向かう可能性があり、危険なサインだと感じます。

このような公職選挙法改正は、現職議員にとっては、給料が下がり、当選する可能性が落ちるかもしれないので、緊急事態条項(任期が伸びる)とは反対に消極的なのでしょう。

日本でも主要政党に属しても、多数派の庶民に寄り添った、意見や政策を述べる政治家はいます。しかし、党幹部の判断に従わなければ、罰せられ公認も危うくなり、議決する際には、流されてしまうのが状況で、民意が反映されているとは見えません。

日本と豪州の大きな違いは?

豪州では、より多くの有権者が、2大政党の幻想や嘘、より保身・自己利益のための政治を行っていることに疑問をいだいていることでしょう。

民主主義と言っても結局選挙は、潤沢な資金がある候補者が有利になる不公平な制度です。2大政党も一部の資金のある企業や組織力に頼り、それらに有利な政策を進めることになっているようです。

そして、最も大きな違いは、政党の政治家ではなく「独立した地域の代表者」を送り出すための組織がつくられ、実際に活動し独立系当選者が増えたことです。Climate200(政党ではありません12回で紹介)は、「独立した地域の代表」候補の選挙を支援し、資金集めを助ける組織です。候補者と支援者が共通の大きく緩~いゴールの基に集まり、全国展開へ活動が広がっています。

創設者のサイモンさんは、裕福層出身ですが、その資産と力を、庶民を含めた多くの人々と環境豊かな国づくりのために、ボランティアでClimate200を運営しています。(こちらホームページ

彼は、今回は住民の声から「物価高と生活苦」が上がっているので、特にこの問題解決に挑みたいとABC生放送で力説しました。元来の目標「政治の透明性と誠実さ」「気候問題」だけにこだわっていないことを強調し次のように訴えました。(こちら参照

「少年ダビデが巨人の戦士ゴリアテを倒したように、主要政党を倒そう」

「主要政党の怠慢にうんざりした何百万人ものオーストラリアの人々は、今やより良いもの、つまりコミュニティー代表の独立系候補者を支持する機会を得ている」

「賢く、情熱的で、地域社会に積極的に関わる人々。ビジョンと勇気を持ち、純粋に地域社会と国にとって最善の利益となる決断を下すリーダー(代表者)が必要だ」

「日常生活にかかわる、『生活費の危機』『住宅危機』『誠実さの危機』そしてもちろん『気候危機』に取り組むリーダーたちです」

「しかし、変化は自然に起こるものではありません。人々の力が必要です。オーストラリアの人々は、民主主義を自らの手で実現するために立ち上がっています」 

「次の選挙では、記録的な数の無所属候補が主要政党に挑戦します。私たちはそのうち35名(151選挙区中)を支援できることを誇りに思います。しかし、彼らには皆さんの支援が必要です」

非主要政党グリーン党のバンド代表もABC生放送で「自由党を追い出し、労働党に庶民の声を聞かせて、行動させよう」と訴え党勢拡大に、情熱的に取り組んでいます。

また、グリーン党は、唯一ガザでの停戦とパレスチナとイスラエル両方の人々のための行動を呼びかける党です。「政府はウクライナには支援するのにガザには何もしない」「上院ではガザでの停戦を求める緑の党の動議を初めて可決した。あなたの絶え間ない圧力がなければ、それは起こらなかったでしょう」と報告しました。これも独立系議員とグリーン党の数が増えたから実現したと思います。

地域代表の独立系議員と非主要政党議員がどれだけ当選し、2大政党を抑えられるのか、注目が高まります。

日本でも、「財務省解体デモ」「百姓一揆」「憲法改悪反対デモ」「戦争反対デモ」など様々なデモが頻繁に行われるようになったと目にします。「公職選挙法改正デモ」「選挙資金規正デモ」も加え、それらが繋がり、独立系議員や政党に属して満足していない有望な議員たちを結び集めて、日本を復興するぞ!という集団がつくられ、選挙と支援まで行動が起せられれば、必ず変化を起せると確信します。

日本の様子やご意見を教えていただければ、ありがたいです。


※冒頭の写真は、豪州独特のスポーツ「AFLオーストラリア・フットボール・リーグ」の18チームが南オーストラリア州に集結して、ゲームを行う「集まれ!Gather Round!参加しよう!Get In On It」というイベントの写真です。4月中旬の選挙の時期に行われ、選挙での「集結」と重なり、相乗効果で盛り上がり感があります。

AFLは世界的ではありませんが、豪州内では、老若男女に人気のスポーツリーグです。ラグビー、サッカー、バスケットボールを掛け合わせたような、アクロバティックな動きは、カンガルーのようで、見ごたえのあるスポーツです。

AFLのプレーや「Gather Round」の様子です。


今滝 美紀(Miki Imataki) オーストラリア在住。 シドニー大学教育学修士、シドニー工科大学外国語教授過程終了。中学校保健体育教員、小学校教員、日本語教師等を経て早期退職。ジェネレーションX. 誰もがもっと楽しく生きやすい社会になるはず。オーストラリアから政治やあれこれを雑多にお届けします。写真は、ホストファミリーとグレートオーストラリアン湾の沖合で釣りをした思い出です。