アークレイリへ行くと必ず寄るお気に入りの場所がある。それも夏限定。アイスランドはアクセスが悪い場所が多いため、道路もホテルも店舗等も「夏限定」はとても多い。レイキャビク周辺の首都圏を離れると、カフェなどはまず夏限定だと思った方が無難。第二都市といえども、当てはまる場所は少なくない。
幸にして前回ご紹介したRUB23やソフトクリーム屋は年中やっているが、今回ご紹介する美術館は夏限定のオープン。そんな営業期間でやっていけるのかと毎回訪れる度に思う。多分にオーナーの趣味もあることだろうし、きっとどこかで辻褄を合わせているのではと勝手に思ってる。
Safnasafnið(サフナサフニズ) https://www.safnasafnid.is/
アウトロー、ナイーブなどの主流から少し外れたアートを集めたとても美しく居心地のいい美術館。開館は5月初旬から9月半ばまで。花と光に溢れる空間も気持ちがよく、外でお茶を飲めるスペースも。アイスランドでもピカイチの個人的お気に入り美術館。
ハンサムなおじさまが入り口でお迎えしてくれるこのサフナサフニズ。その昔、小学校やコミュニティ・センターとして使われていた建物を改築し、大小の展示スペースが10ヶ所ほどある。外からの木漏れ日が心地よく、オーナー夫妻が育てているのか、アイスランドでは見たことのないトロピカルで色鮮やかな植物が館内のあちこちに配置されているのも特徴。
新進作家、アヴァンギャルドな作品も割合よく取り上げられるので、時々知り合いの名前を見つけたりする。今回も二人ほど見つけた。最近、刺繍アートで有名になってきたロヒは、以前エレクトロ系グループをやっていたり、ロックバンドでギターを弾いてたミュージシャンだった。ドラッグクイーンのアートも、音楽をやってるベルグリンドの作品。性格は大らかでも感覚はすごく尖っている彼女の感性がよく表れてる作品群だった。
10ヶ所ほどある展示スペースをくまなく見て、書籍コーナーではランダムに書棚から本を引っ張り出しては楽しませてもらった。ちなみに私は音楽に関しては少し物事も言えるけど、アートはど素人。構図がどうの遠近法がどうのという能書きは一切わからない。ただボケーっと見て、何かを思ったり、ディテールが興味深かったり、自由に楽しむことしかできないし、それが一番だと思ってる。
せっかくなので外のカフェスペースにも寄った。そよ風に揺られる花の影と、自分の影をテーブルの上で遊ばせながら、こういう時間が持てることを心からうれしく、なんちゅー幸運に恵まれてるんだと、柄にもなく感慨深く思った。
美術館を出た私たちは車を北へ。アークレイリが位置するエイヤフィヨルドの先端まで、道路がある限り行ってみることにした。
写真には収まりきらない規模の場所ばかり。空と、海と、植物と、動物。それから人間。アホみたいに単純なことだけど、地球はこのバランスで動いてるのだとつくづく思う。邪念や雑念がいかに無意味なことなのかを、体感で悟るような、そんな瞬間を、今回の旅では何度も体験した。
この半島の先端まで走れる道は、まだぬかるんでいるという理由で通行止め。進めるところまで進んでから、アークレイリへ引き返すことにした。
帰りの道沿いにLaufás(ロイファゥス)という芝吹き屋根の家屋が残されている場所を見学。博物館は閉館時間後だったため、建造物の中には入らず、外見だけ少し見学。
私の夏休みのアイスランド一周。日本の皆さんにも楽しんでいただけていますように。暗く重く心にトゲが刺さるようなニュースをよく見るので、この「こちらアイスランド」を見て、心安らぐ時間が少しでもできていますように。(次回に続く)
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。