鴨ですよ、カモ!日本でカモと言えばネギ!所変われば品変わるで、アイスランドのカモはなぜ世界最高峰なのか?
ーー答えはこのコラムの最後の方で。またまた引っ張るよ〜(笑)
前回のスリリングなドライブの目的地はロヅムンダルフョルヅル(Loðmundarfirðingar)。
この地域はかつて100名弱が住んでいたという。現在は夏だけキャンプ小屋がオープンしている程度で低住民はいない。それでも歴史ある教会の建物は健在で、夏になると結婚式が行われることもある。
湾の奥まったところに車を置き、下の写真の建物のある方へ徒歩で向かった。
空が広くて静かな場所に住みたい私の理想的なロケーション(ただし文化活動が周囲にないので実際は無理)。周囲の山は高くても1000メートル程度。ハイキング・コースは事欠かないし、実際ドライブ中に何度もハイカーを見かけた。
ここら辺で少し種明かしをすれば、このフィヨルドにあるのはアイダーダック(アイダー鴨)の保護地区。養殖とも言えるのかもしれないけど、特に餌をやることもなく、ひたすら見守って保護をすることが目的なので、家畜のようなニュアンスのある養殖とは少し違う気がしている。
また、アイダーダックが営巣のために陸に上がるのは5-6月の2ヶ月間で、その他の時間は海に漂って過ごしている。なので7月の今は、もうカモはいない。鴨姿がないのは残念だけど、実際の場所を見たかったし、ドライブの道中が素敵だっただけでも儲けもの!
そう思いながら、周囲に張りめぐらされたフェンスの中へ。
誰もカモもいなくて、流木なのか丸太が無造作にころがり、道具小屋らしきものがポツンと目立って見えた。今年の夏はここに4千羽以上の鴨が営巣し、卵を産み、子供たちを連れて海へ戻っていったという。4千羽が卵を孵すということは、最終的には一万羽以上?!すごい数だ。見てみた〜い!
更に保護地区の中を進むと、なんだこれは?おとぎ話の家のようで、なかなか可愛いぞ。周囲のクルクルした縄も、おとぎの家を盛り上げてる。
え!まじまじ?鴨はもう居ないと言われたのに、いるじゃ〜〜ん!
か、か、か、か〜わ〜い〜ぃ!よく見れば、卵を暖めていた。私を案内してくれたアイスランディック・ダウン社の代表ラグナさんも、まだ鴨がいることに驚いていた。
アイスランディック・ダウン社は羽毛を扱う寝具会社。ここでアイスランドのアイダーダックの何が世界最高峰かといえば、それは羽毛!世界最高峰の寝具!
なんだ羽毛(ダウン)かぁと侮ることなかれ。これが究極に素晴らしい。羽毛としての機能が全くレベル違いだ。そして当然お値段も高級。日本のメーカー品であれば掛け布団一枚が2-5百万円!アイスランドからの直販は、それよりも割安で品質も保証。
アイダーダウンは動物保護の観点からも好ましく、動物と人間が平和に共存していることもポイントだ。
この鴨たちは人間に天敵から守ってもらいながら、ごく自然に暮らしている。羽毛は保温のために卵の周囲に鴨自らが敷き詰めるので、強制的にむしられることはない。卵が孵化すれば羽毛は不要になるので、人間はその不用品を集めているにすぎない。
これはいわゆるウィンウィンではないか。人間は鴨を外敵から守り、鴨はそのお礼のようにダウンを残していく。鴨の廃棄物を人間が上手に利用しているとも言える。
他のことでも、アイスランドは廃物利用が得意だ。アイスランドの観光メッカ、世界最大の露天風呂であるブルーラグーンも、近隣の地熱発電所から破棄された温水が周囲の岩の間にたまり、そこに入浴する人が出てきたのが発端だった。レイキャビク街では家庭から出されるゴミからメタンガスを採取し、それを動力にゴミ収集車を動かしている。個人レベルでは、古着をよく買うようになった。アイスランド国内の資源は本当に限られる。自ずと、今ここにある資源を利用するのが上手になる。
他にも卵を温めている鴨を数羽見かけた。雌鶏が卵を抱いている間はほぼ何も食べず、体重が40%も減るのだとラグナさんは教えてくれた。
保護地区で最初に目にした丸太も無造作に置かれているようで、鴨が巣作りしやすいように工夫しているのだとか。鴨それぞれに個性があり、好みがあり、屋根のある場所が好きな鴨もいれば、オープンな環境でしか巣を作らない鴨もいるという。
「毎年同じ鴨が戻ってきてくれるし、巣を作る場所も全く同じだったりする。身体を触らせてくれる鴨もいれば、逃げてしまう鴨もね」
なるほど、鴨それぞれの好みに合う住まいを提供できるよう、丸太を置いたり、小屋を作ったり、縄を置いたりしているわけだ。鴨は大切なお客さま。営巣は私がホテルへどうぞ、というところ。
冒頭にも書いたが、ここは夏の間の数ヶ月間しか道路を使うことができない。鳥がやってくるのは5月なので、4月には集中的に下準備を行う必要がある。そんな時はどうするのか?
港が通年機能している近隣のフィヨルドから船を出してもらうしかない。そんな時は1ヶ月分の食料や必要な品物を揃えてここに駐在するという。忘れ物があったり、物資が足りなくなると、特注して持ってきてもらわなくてはならない。時にはレスキュー隊にお願いすることもあるとか。
なんという果てしない努力。
そして採取される羽毛は洗浄され、人の手と目で選別され(これがものすごく細かい作業!)、寝具になっていくんだけど、詳しい話は別の機会にでも。興味ある方はとりあえずアイスランディック・ダウン社のこのページをどうぞ。
アイスランドのアイダーダウンがいかにフワフワ、フッコフコなのかということだけは見て、見て!(次回に続く)
驚くほど軽いというより、重さが存在しない! 手の上に乗せるとふわ〜、じわ〜っと温かさが伝わる、天国ってこんなんか?としか形容できない心地よさ。 この手触りを読者の方々にも体感して欲しい。楽しいよ。
小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。自己紹介コラムはこちら。