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こちらアイスランド(21)石造りのかわいい教会と元駐日大使との縁〜小倉悠加

前回の話)このÞingeyrarの教会を見学するのは初めてではない。実は2003年に一度訪れていた。

教会はどこかの宗派や地方自治体などが所有・管理しているものだと思っていた。この教会は実は個人所有だーーいや、もしかしたら財団か何かで現在は管理しているのかもしれないが、私が初めて訪れた時は、初代駐日アイスランド大使が所有していた。

皆さんは、大使館がどのようにして設置されるかご存知だろうか?私は知らなかった。大使館はどこかの国へ行き、一方通行で「あなたの国に我が国の大使館をつくりますからよろしく!」とはいかない。両国がしめしあい、せーので二者が互いの国に大使館を置く。日本とアイスランドの場合は、1999年小渕首相がアイスランドに訪問した際、大使館の設置が話し合われた(小渕さん、グッジョブ!)。

アイスランド北西部、Kolugljufur(コルグューフル)の渓谷に流れる美しい滝

初代駐日アイスランド大使は、初の民間出身大使で、外交の仕事につく前は国営放送RUVや自動車輸入業者の大手Hekla(ヘクラ社)などの代表者としてビジネス手腕を振るった。Heklaは三菱自動車とも縁が深く、大使はヘクラ社社長時代に何度も日本を訪れた親日派だ。大使にこれ以上の適任者はいないという最高の人選だった。

故人である元大使には、たくさんの思い出がある。私のアイスランド好きがここまで育ったのも、大使と奥様のあたたかな心づかいによるものだ。それは私だけではなく、大使館開設当初、アイスランドに関わった多くの日本人が同じ気持ちではないかと思う。

704号線一番奥の橋からの眺め(2003年撮影)

あれは2003年8月だった。駐日アイスランド大使館で初めて大使にお会いしてから半年後、たまたま同時期にアイスランドに滞在していたこともあり、私はご夫妻からアイスランド北西部にあるシンゲイラル牧場の家にご招待いただいた。そこで確か2泊ばかりした覚えがある。大使を退かれた後もご夫妻との交流は続き、私がアイスランドを訪れる度に時間が会えば、自宅やカフェ等で気軽に会って話をしたものだった。

先週末、北西部の街ブロンドゥスで編み物のフェスティバルがあった。2年前はアイスランドを一周中で行けず、去年は中止。今年は規模は縮小されたものの、開催はされたので、車を北へと走らせた。その周辺を通るたびに、私は彼にシングエイヤルの牧場や石の教会の話をしていた。いつかは寄りたいと思っていたが、アポなしで突然行くのも失礼だ。まして、元大使は2018年に他界し、奥様の連絡先を知らなくて疎遠になっていた。

偶然にも前の写真と同じ場所に2021年のこの旅で訪れていた。そして思いつきで牧場に寄ることにした。

「行きたいなら寄るよ」となぜかこの日は彼が言った。ここを通る度に私が話をするからなのか。メイン道路を外れて、牧場への道を走ることにした。

「牧場と教会、ここで道が分かれるけど、どっちへ進む?」

私はとっさに「牧場の家に行きたい。誰もいなくてもいい。大使は亡くなってるし、この場所が今は誰の土地なのかもわからないし、全く別の人が住んでいるかもしれないけど、とにかく行きたい」と。

草を喰むThingeyrar牧場の馬。広大な土地でのびのびとしている(2003年撮影)

家の前には一台、車が駐車されていた。誰かいる!不審者に思われないといいなぁ、誰かいるなら、とりあえずドアをノックしてみよう。そう思いながら家を見ると、窓ごしに人の姿があった。え?誰?あ、あれはたぶん奥さまのヴァルギだ!

知り合いがいることが分かって嬉しいのと、突然訪れてしまった失礼をどうすべきかが頭の中でぐるぐると渦巻いた。なんにしても声だけはかけよう。

彼と二人で車を降りて、玄関のドアをノックした。ほどなく女性がドアを開けてくれた。間違いない、ヴァルギだ。よかった!と思ったのも束の間、

「なにかご用でしょうか?」と、その女性はよそよそしい。

彼女はご高齢でよく覚えてないようだ。それでも、私がどこでご夫妻と知り合い、この家に宿泊したこともあると説明すると、「あぁ、あぁ、なるほど、そういうこともあったわね。あの時のあなたね、わかるわ、すぐに思い出せなくてごめんなさい」と思い出してもらえた。よかったぁ。

彼女はご高齢でよく覚えてないようだ。それでも、私がどこでご夫妻と知り合い、この家に宿泊したこともあると説明すると、「あぁ、あぁ、なるほど、そういうこともあったわね。あの時のあなたね、わかるわ、すぐに思い出せなくてごめんなさい」と思い出してもらえた。よかったぁ。

突撃アポ無しにも関わらず、「玄関ではなく、お座りになりませんか?」と家の中に招き入れてくれた。変わらない!家の中のあたたかな雰囲気、リビングの奥にある彼女のお父様の写真。覚えてる、覚えてる。窓から見える馬小屋や山は全く変わっていない。

夏の別宅であるこの家に彼女は二日前に来たばかりであること、昨日の夜に雪が降ったので近隣の山が白いこと。先週はドイツへ行っていたこと(大使としての最初の赴任地がドイツだった)等、あれもこれもと話してくれた。

石造りの教会は私は見ているが、私の夫は見たことがない。「よろしければぜひ内部をご見学ください」と教会の鍵を彼に渡してくれた。

そして前回の冒頭の話に戻る。久々に、石造りの教会の内部に入った。あの時の私はたったひとりだった。18年後、彼と同じ場所を訪れようとはーー数奇なものと書くほど数奇ではないが、この教会には入れなくて当然。外観だけでも見て帰ろうと思って寄ったまでだった。まして、家に上がり込んで話をしようとは。

鍵を返しに家に寄った。コロナを忘れ、ヴァルギとは昔のようにハグして別れた。メールアドレスも電話番号も登録した。大好きだった元大使は星の人となってしまったが、こうして細々と縁を繋ぐことができて心から嬉しかった。

次にこの周辺を通る時は、この日の話を彼と二人ですることだろう。滅多に通る場所ではないが、通る度にもう元大使に会えないという寂しさではなく、ヴァルギに会って話をすることができたという喜びを全身で思い出すことだろう。

本当に、本当によかった。

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小倉悠加(おぐら・ゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド政府外郭団体UTON公認アイスランド音楽大使。一言で表せる肩書きがなく、アイスランド在住メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、カーペンターズ研究家等を仕事に応じて使い分けている。アイスランドとの出会いは2003年。アイスランド専門音楽レーベル・ショップを設立。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。アイスランドと日本の文化の架け橋として現地新聞に大きく取り上げられる存在に。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。