冬の間に一度はしっかりと食べて、春まで健康状態を維持しようという思いなのか、この時期は独特の食習慣が展開される。そのひとつが今回ご紹介するÞorramatur(ソーラマートゥル)だ。
ソーラマトゥルはÞorrablót(ソーラブロウト)という冬の政の一貫として食べる祝宴をさす。名前の最初に出てくるÞorri(ソッリ)とは北欧の旧暦にあるソーリ月のことで、Þórr(トール・ソール)という神様にちなんでいる。で、この辺のことを私は詳しくないので、興味ある人はそれぞれのリンク先のWikiでもどうぞ。
この冬のっ行事で食されるものは、伝統食であり、保存食だ。日本の保存食は美味しい。発酵させているものが多く、味わい深くて素晴らしい。アイスランドの伝統食も発酵、塩漬け、スモーク等で加工されている。
みなさんがよく写真で見かけるのが、こういった羊の頭ではないだろうか。羊の頭の毛を焼いてスモークしたものを保存し、茹でて食卓に出す。アイスランド人は大好きな人も多く、夫も少なくとも一頭分の頭は食べる。一頭分とはいえ、食べられる部分はそれほど多くはない。舌や頬肉は普通に美味しいけれど、皮は硬くて油っこくて私は苦手だ。目が大好きだという人もいる。
Svið(スヴィーヅ)は羊の頭から脳みそを抜き、炭焼きにしたり乳酸発酵させたりする。
私はどうもアイスランドのこの手の食品が苦手だ。「慣れ」も多分にあろうかと思う。毎年彼の家族が一堂に会してこれを食べる。毎年繰り返せば慣れるかとも思うけれど、今年の私は欠席した。なので写真は彼に撮ってきてもらった。
Hangikjot(ハンギキョット)は吊るし肉という意味で、羊の肉を吊るしてスモークしたもの。通年、ごく普通にスーパーで購入することができる。フラットブレッドと呼ばれる薄く焼いたパンにバターを塗り、その上に乗せて食べる。これは普通に食べられる。スモーク臭が嫌いでなければ、美味しくいただけると思う。
Blóðmör(ブロゥヅムル)はブラッドソーセージと呼ばれるもので、これも通年スーパーで見かける。子供の頃から慣れ親しむ味らしい。私の好みではない。
写真のゼリー寄せが何かはわからないけど、ゼリー寄せは一般に美味しいか普通に食べられる。(*食べられる・美味しい等の基準はあくまでの私個人の好みなので悪しからず。)
他にどのようなものがあるかといえば、私がこの地で暮らし始めた頃、一度あれもこれも購入したことがあり、これがその記念すべき一覧だ。左と右は同じブツが同じ位置にある。
付け合わせのターニップ以外はすべて動物性。「酸味」と書いてあるものは乳酸発酵させてあり、文字通り酸味がした。日本だと、酸味といってもあれこれバラエティがあるけれど、アイスランドの酸味は単に酸っぱいだけのことが多い。もっと工夫せい!と思うけど、自分で工夫する訳ではない他力本願なので、小さな声でしか言わない。私は案外気が弱い。
食糧の無い時代、保存方法が限られた時代の先人の知恵である伝統食なので、それを噛み締めて、先人の知恵と叡智と歴史に思いを馳せる機会を持つのは、とてもいいことだと思う。一族がこの機会に会って会食をするのももとてもいい。
けれど、ごめんなさい。日本人として50年以上日本に住んでいた者としては、どうしても味覚的にお味味程度しかできないものが多かった。私は普通の肉の部分でお願いしたい。魚であれば発酵したものでも問題なく、または美味しくいただけることが多い。それを考えると、やっぱり私は漁業国の人なのかと。
ところで、アイスランドに戻りました。帰宅したその日は天候が大荒れで、航空便の着陸が怖かったし、空港からレイキャビクへの道も雪と風で視界ゼロ状態。肝を冷した場面が多く、冬のアイスランドはやはり厳しいと、いきなり突きつけられた感じだった。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。