毎年恒例、5月下旬に誕生日を迎えた。
ツイッターに何気に書いたものの、誰ひとり「お誕生日おめでとう」と書いてくれなくて、愛されていない度がわかった。グスンーーーってこともないかな。
おめでとうを強要する無言の圧力が好きではなく、facebookでは非表示にして久しい。この年齢の誕生日は1年間も無事過ごせたことを振り返り感謝する、盆暮正月の個人版のようなもだと思っている。
ここで「こちらアイスランド」を書き始めてからの誕生日を振り返ってみたい。2021年はこちら。
去年の2022年は私の誕生日をダシに、アイスランド国内から出られず息が詰まっていた彼を、海外に行かせてあげた感が私には満載だった。行き先はエジンバラ。グルメに明け暮れたのがよく分かる(笑)。
今年は事前に郊外一泊を知らされていた。国内なので、2年前と同じくミステリーツアーなのかと思っていると、数日前に行き先を知らされた。それも「悪天候」の予報と共に。
ヘイマエイ島へ行けるのはうれしい。この時期であればパフィンが見られるかもしれない。最大の目的はスリップリン(Slippurinn)というレストラン。夏季のみの営業で、オーナーシェフが研究熱心なのがいい。雰囲気はカジュアルだし、お値段もそこそこで、ここでしか出てこないものが多いという点で、アイスランド屈伸の存在だ。
それはいいが、ウェストマン諸島はヘイマエイ島への旅は、天候にこの上なく左右される。
ヘイマエイは孤島だ。悪天候の場合、まずフェリーが出港するかどうかということがひとつ。そしてフェリーの乗車時間が大荒れの3時間になるか、快適な40分間で済むかが問題だ。
雲行きがよければ、彼は当日までミステリー・ツアーにしたことと思う。でも、荒れるのが予想されるので、私の出方を見たかったのだろう。「船酔いしそうで絶対にイヤ!」と言ったなら、彼は予定を変更せざるを得ない。
前夜にはどちらの港かの知らせが届いた。出港はÞorlákshöfnで悪天候対応コースだ。ちなみに40分の楽々コースはLandeyjahöfnというフェリー乗り場を使う。
悪い予報は的中した。その日は強風だ。酔うと思うと酔うので、酔うとも酔わないとも思わず、無視する心理作戦でいった。念願のオーディオブックを聴きながら、簡単な手芸をした。単純な作業ではあったが手先に視線を固定するので、これが悪かったかと後から反省した。ほどなく酷く酔ってきた。
外に目をやると、パニック映画で見られるような高波が、窓枠いっぱいにぐわんぐわんとうねっていく。見てるだけで酔ってくる。こんな時は横になるのが一番なので、ベンチを目指すが、たった3メートルの距離がーーー歩けない!
まるで中途半端な宇宙遊泳のようだった。あとは絶賛中略!
3時間の荒行を経てヘイマエイ島に到着。「写真で見たところ、君が好きそうだと思った」という宿に早々とチェックインした。
ここは道路から一切見えなくて、すぐ近くを通っているのに最初は探し出せなかった。確かに妖精が住んでいそうな雰囲気で、好みだ。
さて、レストランの話に移ろう。
私たちが乗船した後のフェリーが数便キャンセルになり、満席のはずだったレストランは三分の一程度しか埋まっていなかった。この地のレストラン経営は大変だ。食材が余ってしまう。それも天候由来の物事なので、誰に苦言することもできない。
レストランは期待を裏切らなかった。
ツイートでもわかるように、品数の多いコースをとった。本来はウニがあるはずが、たまたま切らしていたのか出てこなかった。実はそれが最大の目的だったので、二人ともがっかり。本気でがっかりしたので、きっとそれが伝わったのではないかと思ってる。オマケがなんだかあれこれ出てきた。
オマケのひとつに、シーフードスープが出てきた。実として白身魚はもとより、グリーンアップル、ドライフルーツなどのサプライズが、単調になりがちなスープのアクセントになっていた。スープは濃厚な出汁で満足感が高かった。さすがっす!あとからメニューを見たところ、単品で4千円ナリの一品だった。
せっかくなので、ツイートしなかった写真を出しますね。これでも全てではなく、前菜系のものと鱈の頭焼き(?)が出てきた。全量制覇はできないと知っていたので、ラム肉は味見をしただけであとは持ち帰った。
アイスランドの物価が酷いことは噂でご存知かと思う。とびきり美味しくても、そこそこの味でも、アイスランドでの夕食は料理だけで1名1万円が平均的だ。なのでこれで1万5千円は神!ありがたすぎる!
そればかりでなく、肉ドン!じゃがいもドカン!重いだけのソースべったり!ではなく、アイスランドでは超珍しく海藻を使っていたり、油で丸め込まず、出汁を効かせたタンパクなソースも使う、アイスランドでは珍しい店だ。海藻とえいば、前回よりも海藻率が高くなっていて嬉しかった。
でも、これだけ一気に出されると、一品一品丁寧に味わえなくなるんですよね。それでも、普段外食をしないし、気に入った店が本当に少ないので、誕生日ディナーとして思い出深く嬉しかった。
そして翌日、少し天気が良くなったので、島を少し散策。とはいえ、風がまだあるのでハイキングは無理だった。本当は前回霧のために引き返したヘイマクレットゥルという山に登りたかった。以下のツイートは前回の時のもの。
帰りのフェリーは16時。どちらの港へ向かうのかは1時間前に発表される。天気予報を見る限り、40分のスムーズなコースで行けそうな気がしていた。
昼食は昨夜のレストランの目の前にあるナイス(næs)に決めていた。ここは以前イエタ(éta)というハンバーガー屋があった場所だ。イエタもナイスも、目の前にあるスリップリンの姉妹店で、要は同じシェフが経営している。
残念ながらイエタの時代は入るタイミングを逃してしまい、レイキャビクにポップアップの出店を出した期間に一度食べた程度だった。ハンバーガーはどう転んでもハンバーガーでしかなく、美味しくはあったけれど、特に食べに行きたいというほどでもなかった。
さて、ナイスはどんな感じなのだろう?イエタの延長線上のカフェ的な場所かと思っていると、意外にも本格的なレストランの装い。そしてメニューを見ると、普通にレストランの値段(高い・・・)。けれど、ここまで来たからには食べずに帰る訳にはいかない。彼の顔が若干こわばっているのがわかる。けどまぁ、今日が本当の誕生日なんで〜(笑)。
昼は軽く済ませたいので、二人で全てを分けることにした。頼んだのは前菜のゴートチーズ、メインは本日の魚料理、そしてデザートの3品。コーヒーやビールも頼んだので、お勘定は1万円超え。しゃーないよね、今日は私の誕生日なんだから(笑)。
え、え、この料理はなに?!
大正解だった!昨日はあまりにも品数が多く、一品ずつ味わえなかったけれど、ここではゆっくりと一品を楽しんだ。味にも素材にも副菜にも飾り付けも最高っしょ!
魚はオイルで誤魔化さず、塩焼きのような軽さがいい。ゴートチーズに乗っているカラメリゼされたオニオンには、ところどころ生姜やフルーツが入っていた。ゴートチーズ自体もとてもよかった。周囲の生ハムも味わい深かった。ワインにしておけばよかった。昼間なのでビールにしたのが悔やまれた。
あまりの美味しさに大興奮となり、予定外にデザートとコーヒーまで頼んでしまった。バジルのシャーベットにホワイトチョコ&ヨーグルトムース。板みたいなのはメレンゲで、ラクリスが散りばめられていた。う、う、うまぁ〜〜。
全部合格!最高に合格!もう一泊あれば夜も絶対に食べに来ていた。こういう店がなんでレイキャビクにないんだ〜〜!!!あえて言えば双璧はhosiló程度だろう。
あ、コーヒーはダメでした(笑)。これはご愛嬌でオッケーっす。
大満足で外へ出ると、風がさらに弱まっていたので、前回見つけてとても気に入った場所へと足を伸ばした。
一般にヘイマエイ島は1973年の火山噴火やスルツェイ島で有名な場所かと思う。他にもいくつか時々SNSなどで話題になる事柄があり、その一つが、島にポツンとある家。上の写真でも両方写っているけど、わかりにくいので、別角度のを出しますね。矢印の先に一軒家があり、どちらも狩猟協会の所有だそう。
もうひとつの名物は、エレファント・ロックという岩石。見た目がまんま象なんですよね。彼の自信作写真もどうぞ。私がその象の頭をなでているところ。
帰りのフェリーは揺れることなく安定した泳ぎでの40分間。フェリーから自宅まで2時間弱のドライブで、夜の8時前には帰宅。昨夜食べ切れなかった肉料理をスライスし、テキト〜に作った野菜炒めを添えての夕食でした。彼もやっとお酒が飲めた!
ちなみに、この翌日はフェリーが出港できないほどの大荒れで、レイキャビクも強風でのイエロー注意報が発令された。フェリーでの船酔いが辛かったのも思い出話になるし、楽しく美味しい誕生日の週末でした。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。
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