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こちらアイスランド(134)新緑と花と羊が彩る北部の知られざる名道F899フラテイヤルダルル〜小倉悠加

北アイスランドに1週間ほど宿泊した。彼の労働組合の別荘で、とても居心地が良かったというのが前回の話。1週間も宿泊すれば1日くらいは天気になるべきだ。到着してみると、驚いたことに北部アイスランドの方が、レイキャビクがある西南部よりもずっと暖かかった。

アイスランドのレンタカーは地元の会社から

レイキャビクはまだ夏の象徴である黄色いソーレイの花が咲き始めてもいなかった。北部ではその花がこれでもかというほど咲き誇っていた。気温も暖かだ。

暖かいというのは気温が二桁あれば空気がピリリと肌に刺さらないという意味でしかなく、日本の「暖かい気温」ではまったくない。

その年により、順当に南部の方が暖かかったり、北部や北東部の方が天気がよかったりする。天気は一定ではなく、まだらだということだ。それにしてもここ数年、夏は北部の方が総じて天気がいい。羨ましい限りだ。

ーーーというようなことを書くようになるとは思わなかった。日本の夏が大嫌いで、過ごしにくくて、暑すぎて、死にそうなほど食欲減退になり、とにかく日本の盛夏を脱出したくて仕方がなかった。実際、アイスランドに拠点を移す数年前から、毎年何かの理由をつけては7-8月の一ヶ月をアイスランドで過ごし、日本の夏を避けてきた。

それがどうだろう、今は肌に焼き付く太陽の日差しが恋しくて仕方がない。

幸いなことに1日数時間、寒がりの私でもTシャツを着用できる気温に最初の3日間ばかりなってくれた。なんとも嬉しい。

そんな貴重な夏日を使い、去年から狙っていた北部の山道を走ってきた。F899 フラテイヤルダルル(Flateyjardalur)は、オイストゥルアゥダルル(Austurádalur)という渓谷を走る約34キロの道のりだ。で、正式には34キロで、実は岬まで行ったため38キロだった模様。

この道が開通しているのは夏季の3ヶ月間程度だ。道路番号の前にFがつくものは、全て夏季専用道で、冬季は閉鎖されていない限り通ることは自己責任でどうぞという場所だ。

どこへ通じているのかといえばヴィクルフフディ(Víkurhöfði)という岬に通じ、そこから見える孤島がフラテイ(Flatey)だ。ちなみにスナイフェルスネス半島の北側にもフラテイという同じ名前の島がある。

風光明媚と聞いていたので、ぜひ天気のいい日に走りたいと思っていた。川渡りが結構な数あり、それが少し心配ではあったけれど、無理な時は引き返せばいいだけだ。

走り始めたこの道路、それほど酷い悪路ではなく、特に開通当初は当局が点検した直後になるため、道が割合スムーズな場合が多い。そして羊がそこここに自由に草を食んでいて、道中ずっと微笑ましかった。

走り始めて5分もしないうちに、いかに楽しい道であるかがすぐにわかってきた。地図でも分かることではあるが、両側に美しい山脈の頂上が見えているし、その真ん中を走る川に沿ったり、川を渡ったり、時には小高い山の尾根を走ったりと、起伏に富んでいた。

途中、廃業した牧場跡の標識がいくつもあり、時代の流れを感じずにいられなかった。そういう牧場が数多く存在したからこその、この道であることもしっかりと思いに刻んだ。

夏のこの時期の特権で、緑が眩しい。黄色いソーレイの花もあちこちに群生して華やかな雰囲気をかもしていた。ごく小さいけれど、優雅な滝も途中にあり、小高い尾根からの眺めは、きっとゲーマーであればヴァーチャルなゲームの世界に見えたのではないか。

私自身はゲームもしないし、テレビさえ見ないのでよく分からないけれど、アイスランドの景色をゲームに出てくる情景に例えたり、異次元との喩えもよく聞くので、きっとそういうことなのだろう。確かに、別世界に迷い込んだ雰囲気はある。

道のコンディションは想定内だったし、川渡りも特に問題はなかった。

少し疑問を感じた最後の川も、たまたま通った車が渡るのを見て、深さを確認してから通ることができた。

岬へ到達する最後の500メートルほどは砂浜だった。砂の道路にはドキっとした思い出がある。それは以前『宇宙のような原野で道が消えた。電波は届かない。食料も燃料も不十分。さて、どうする?』に書いた通りだ。

去年怖い思いをした道路は番号のない道だったけれど、今回の道は番号付きの正式な道路だ。道を外れない限り大丈夫だと判断して、先へと進んだ。私は特に何とも思わなかったけれど、彼は内心穏やかではなかったという。

去年ドイツからの大きなキャンピングカーがこの道を少しそれて停車し、海岸を見に行ったばかりに砂にはまって身動きできなくなったというニュースがあったそうだ。へ〜。

岬まで到達し、草の上にゴロンと寝転んだ。

きっもちいい〜〜!

この日の私はずっと微笑んでいた。笑っていた。自分でも不思議なほど、心が華やいでいた。天気がいい、半袖で腕を出していられる、青空が見える、風がない、太陽も明るい、緑が豊富で水もきれいだ。周囲には羊が時々顔を出して楽しませてくれるし、既にブルーベリーも実をつけ始めている。

これ以上、人生に何を望むというのだろう。この一瞬があれば、一生生きていけそうなほどの充実感が身体の芯に流れ続けた。自然が美しくて気持ちがいいというそれだけだった。人生、そんなもので本当に十分なのだとの実感があった。

やっぱり時空が歪んでいたのか?こうして振り返ると、感じたことが単純すぎて、少し不思議気がする。

この日のドライブはドラレコに納めた。小高い山の尾根を登ったり降りたりはドライブ・ファンであれば心躍る光景かと思う。ほぼ無音なのでボケっと見てもいいし、好きな音楽をかけながらでもぜひどうぞ。

場所はこんなところです。普通の人は(アイスランド人でも)まず行くことはないと思うけれど、心の中での逃避行にはいいかも。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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