いつも一般的なアイスランド観光の足しにならない場所のことばかりを取り上げている「こちらアイスランド」。誰も行かない場所だからこそ記しているのだけど、読者的にはどうなのか?アイスランド自体が辺境なのに、その中でも結構な僻地を取り上げるのが習慣化してきて、マンネリではないかと迷いの多い今日この頃です。
と書きながら、今回も超マニアックな場所のご紹介。マニアックな場所へ行けば行くほど、アイスランドは絶景が多すぎると驚嘆し、回り回って、一般に大人気の観光地がいかに超絶な絶景であるかをしみじみと感じる。
今回取り上げるのは2箇所で、最初の滝(Brúarfoss)はレイキャビクから手軽に行ける観光地。次に寄ったもうひとつの滝(Dynkur)は謎かもしれない。道はあるけれど、番号は振られていないし、地図を最大に拡大しないと道は見えてこない。
Brúarfoss
ブルゥアルフォスはレイキャビクから1時間半で行ける距離にある。澄んだブルーの水が目に清々しく、地形の関係で丸っこい形で水が落ちてくるその姿が美しく、訪れる価値は十分ある。
去年の半ば、徒歩数百メートルのところに新しい駐車場ができたので、どのような感じなのかを実際に確かめたくて行ってみた。
今までは川沿いの空き地に駐車をして、片道5キロ弱を歩くのが常だった。平坦な道なので、小一時間で目的地に到着する。
途中、何箇所か小さな滝があり、美しい水の流れに沿って川沿いや、川の中洲を歩いて進める。爽やかな景色を見ながらの道中は楽しく、あっという間に目的地に到着するのが常だった。
この駐車場ができた経緯はわからないけれど、数年前に起こった悲しい事件が関係しているかと思う。
その日も家族連れがハイキングを楽しんでいた。楽しそうな光景が、一瞬にして悲劇になった。メインの滝を目指す途中、小さな滝に子供が落ちてしまったのだ。その子を助けようと父親が身を投じた。子供は助かったが、父親は生きることができなかった。その川は深くないが、ラング氷河の冷たい水が勢いよく流れてくる。全身が川に浸かれば一瞬で体温は奪われ動けなくなる。
駐車場は更地になっているだけで、広さは20台ほど駐車できそうだ。場所的にいくらでも拡張はできるので、人気が出てきたら場所を広げることは十分に考えられる。ここは有料で、現在は750アイスランド・クローナとされている。
こういった有料駐車場には入口近くに必ずカメラが設置されている。ナンバープレートの写真が撮影され、間違って入る場合もあるため、短時間であれば課金はされない。けれど、24時間以内に支払いをしないと、三倍くらいの料金が請求されてくる。レンタカーでも同じことなので、使用したら必ず支払いをお忘れなく。
無数の小さな滝が、川の真ん中を目指して流れているようで、それを川にかかる橋から見るとまるで円を描くかのようになって美しいーーというヘナチョコの描写でどれだけ分かってもらえるだろうか。
この日は以前見た時よりも水量がなかったのか、または周囲に緑のない暗い季節だったせいか、今回は少しだけ滝の勢いがないように見えた。水量も周囲の雰囲気も、季節により変化するのが自然のいいところ。滝が落ちるすぐそばの岸まで降りていくこともできる。
観光客が多くなり、事故が起こるとこういった場所へ降りられなくなったりするので、そのようなことが起きず、いつも誰もが気軽に歩き回り、楽しめる場所でありますように。
Dynkur
アイスランド最長、230kmの流れを有するショウルス川(Þjórsá)にある滝。ディンクルは無数の滝が集まったもので、38メートルの落差があり、多岐に太陽光が当たると、さまざまな角度の虹が現れて、独特の色彩を紡ぎ出すと言われる。
ちなみに川の名前のショウル(Þjór)は、アイスランド語で「牡牛」の意味。『植民の書』には「ソルケトル(Þorkell)の息子ソラリン(Þórarinn)は船でこの川の河口にたどり着いた。彼は船の舳先に牛の頭を飾っていた」とあり、このことからショウルスの名前が付いたとされている。(*情報源はwikiの受け売り)
動画だと何がなんだかわからない可能性があるので、以下ががDynkurという滝。
ここは滝が好きな彼が見つけてきた場所で、驚くような場所にあった。いや、高地に滝があること自体は全く驚かないけれど、地図を見ても道がなく、最も近いF道(山道)から15-20キロ以上も離れている。標高も4-500メートルくらいありそうだ。
「今日はDynkurへ行こう」と言われた時、聞いたことがない場所だったので早速調べたところ、とんでもない場所で、まさか往復30-40キロのハイキングは考えてないだろうし・・・。
地図を拡大してよーく見てみると、あったあった。航空写真上かすかに道が見えている。番号が振られていない怪しい道だ。こういう道は怪しい場合もあれば、旧道で使われなくなったということもある。旧道と新道が平行に走っている場合など、新道が何かの関係で使えなくなった際に役立つため、一応通れるようにメインテナンスをしてあることも多い。なので、番号が振られていなくても、極悪路とは限らない(極悪路の場合もある)。
こういう道はほとんど情報がないため、一か八かのような博打道で、途中で引き返すことを前提に出発する。
道中、特に問題はなく、景色が大きく眺めの良い場所や、砂漠の中に突然現れる高地のオアシスもあり、実態が分からなかっただけに全般には悪くない印象を持った。とはいえ、砂漠のような味気ない時間が長かったことも事実だ。
所要時間を測っていなかったけれど、番号のある道路を抜けてから小一時間ほどで滝の駐車場に到着した。言うまでもなく往復一台も車に出会わず、異次元に足を踏み入れたのかもしれないーーと書いてはみたいけれど、このようなマニアな道は、数時間車に一台も出会わないことが結構ある。
ディンクルには数台駐車できるスペースがあり、それで十分な気がする。それよりも、ハイキングコースを示す看板が、意外にもとても新しくきれいだったことに驚いた。ハイキングコースの途中、何本か目印の柱が立っていて、番号も振られていた。
ハイキングできる道は狭いながら歩きやすく、半ば獣道のようでもあった。この場所に関してはあまり情報がなく、なぜこれほど整備されているのか、少し不思議に思った。
後から知ったことは、ここは1981年に自然保護地域に指定されていたが、2013年に変更があり、Dynkurの滝の上流に水力発電所が建設できるようになったという。
アイスランド最長の川であり、下流にはいくつか水力発電所がある。アイスランドはほぼ100%がグリーン・エネルギーで、そのうちの70%を水力発電が占める。氷河の川は水力が高く、川は大切なエネルギー源だ。けれど、アイスランドはすでに国民生活に必要な10倍以上を発電している。余剰電力はアルミの精錬に回される。本来の意味での余剰であればまだしも、外貨獲得のためにアルミの精錬増大を目指して水力発電所を増設するのは自然破壊でしかない。
アイスランド人でも知る人が少ない滝であり、だから潰されても痛くも痒くもないのかもしれない。けれど、今やアイスランド観光のドル箱ゴールデンサークルの一部である「黄金の滝(グットルフォス)」は、発電所の建設が計画されていたのを「そんなことをしたら私は身を投げる」と少女が守り抜いた場所だった。
今や押しも押されぬ観光立国のアイスランドだ。外貨獲得はアルミの精錬を抜いて第一位の産業となった。これからは発電所を増設するのではなく、環境を守り、観光ルートを整備することで外貨獲得を目指したい。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。