政治を斬る!

こちらアイスランド(202)5月初旬冬から春へ、まだら模様の435号線。妖精の住む苔大地を愛でる〜小倉悠加

前回、今シーズン初の高地ドライブの話を書きすすめて中盤にさしかかると、ふとある風景を思い出した。

そういえば、前週に思いつきで午後から出発したドライブが素晴らしかった!季節の変わり目を如実に映し出して、大変に美しかったのだ。

お裾分けしないのはもったいない。少し時期が外れたけれどここに出しますね。

写真の日付を見ると2025年5月10日土曜日だった。土曜日は休養して、翌日にドライブに出ようとしていた。けれどあまりにも天気がいいので、午後3時という遅い時間に「この天気を無駄にすることはできない。やっぱり行こう!」と彼に追い立てられて出発した。ということは近場しか行きようがない。

でもさぁ、私は朝から思ってたんだよね。こんないい天気なのに、本当にどこにも行かないの?って。

だから、「やっぱり行こう!」は案の定ではあった。

行く先は435号線。首都圏にごく近い普通道路ではあるけれど、雪が降り始める頃には閉鎖され、5月ごろに開通する。

5月初旬、季節の変わり目の微妙な時期は素晴らしい。雪と苔の新緑がお互いを譲り合うようにまだらに散らばり、この上なく目にまぶしく心にもまぶしい。

やっぱり家を出てきてよかった。この瞬間は、この日のこの時間にしか出会えないものだ。きっと午前中はもっと雪が残っていたと思うし、明日はもっと雪が少なくなっているはずだ。そのどちらを見ても感激したとは思うけど、出会うことができたこの瞬間が最高の景色なのだ。

レイキャビクから435号線へ入ると、最後に噴火したのが約2千年前といわれるヘンギットル(Hengill)という火山が右側に見えてくる。ヘンギットルを見つつ小高い岡に上がり、次にディーラフョットル(Dyrafjöll)という山の方に入っていく。

起伏に富んだ地形の中を走るのはこの上なく楽しい。晴れ間にも恵まれ、ひどく寒くもなく、空気も澄んでいて、春の息吹もたっぷり。抑圧された冬から解放されていくこの時期の空気感を全身で吸収した。

アイスランドのレンタカーは地元の会社で

車窓からの景色をぜひ動画でご覧いただきたい。サメタイに動画をあげると、再生の読み込みがすごーく遅いので、ツイッターの投稿でどうぞ。ぜひ動画を画面いっぱいにして、アイスランドの春の訪れを味わってほしい。

レイキャビクから30分ほどでこういう場所に来られる。観光客で溢れかえる場所でもない。夏の間、風光明媚なドライブが手軽にできる穴場だと私は思っている。ちなみにここは舗装道なので、普通車で行ける。

まだらの世界が続くかと思えば、山を登り切って向こう側へ出ると、今度はすでに緑の世界に到着する。

上の写真はCGのように見えないでもないけれど、私が車の中からiPhoneで撮影したものだ。山を越えると雪がなくなり、茶色かった冬の苔が少し青々としてきているのがわかる。

奥に見える湖はシングヴァトラヴァトン(Þingvallavatn)だ。この湖の湖畔にはユネスコの世界文化遺産であるシングヴェトリル(Þingvellir)もある。シングヴェトリルは議会政治発祥の地として文化遺産に指定されている。大西洋中央海嶺が地上に出ている場所としても有名で、平たくは地球の近くプレートの割れ目を歩ける場所として名高い。

平野部に出ると、私たちは以前に見つけたジープ道を少し走った。苔がモコモコの溶岩がある場所で、アイスランドらしいその風景が大好きなので見に行った。前回行ったのは冬の寒い時期で、苔の上には雪が積もっていた。

去年の冬、同じ地域で撮った写真を最初に入れておくので、違いがわかるかと思う。2枚目と3枚目には同じ山が見えている。

苔がモコモコのこういった場所はアイスランドのどこにでもあるーーと言いたいけれど、正直なところ減少気味だ。というか、こういったアイスランド土着の原種の植物はが、急激に外来種の植物に侵食されつうある。元凶はルピナスだ。

現在6月初旬のアイスランドはルピナスの花が真っ盛り。以前はきれいだと思っていたけれど、過酷なアイスランドの気候の中、懸命に生きてきた小さな植物がルピナスに抹殺されていることを思うと、薄紫の花が不気味に見えてくる。

現在では村落の山がルピナスでびっしりと覆われたり、街と街の間のあらゆる土地がルピナスに制覇され尽くした場所もある。駆除したくても、繁殖力が強すぎて間に合わないと嘆く。

ルピナスは砂嵐や土砂の流出を防ぐために意図的に種が散布されてきた(現在では花が咲かない別の草の種を散布する)。人間の都合で運ばれてきた植物なので、増えすぎたという人間の身勝手で排除するのは忍びない。それでも苔の大地がルピナスに食われていくのを見るのは辛すぎる。涙さえこぼしそうになる。

だからこそ、苔がふわふわに生い茂り、無数の小さな植物が隠れている場所は心から愛おしい。可愛らしく、健気に生きる小さな植物を見かけると、そこらじゅうで私は「みんながんばってこのままでいてね!」と声をかけまくる。変人なのはわかってる。

目の前は窪地になっていて、この一角ではここが一番高い位置になっている。苔の世界に住む妖精のお城のような雰囲気がした。私が右手を当てているのは白い苔で、異なる種類の植物のところに、顔や形の違う妖精がいて、みんな仲良く暮らしているのだと思いながら、白い苔に話しかけながら撫でていた。

そんな暖かな息吹を感じる場所がいつまでも残っていますように。

小倉悠加(おぐらゆうか)
東京生まれ。上智大学外国語学部卒。アイスランド在住。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。高校生の時から音楽業界に身を置き、音楽サイト制作を縁に2003年からアイスランドに関わる。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、社会の自由な空気に魅了され、子育て後に拠点を移す。休日は夫との秘境ドライブが楽しみ。愛車はジムニー。趣味は音楽(ピアノ)、食べ歩き、編み物。