政治を斬る!

こちらアイスランド(141)夏休みも残りわずか!各湖、釣り人数は超限定。砂漠を抜けF228号線の先は、湖が集まる高級釣り場〜小倉悠加

夏休み秘境シリーズは、これで何回目になるのだろう。今まで日本人が誰も書かなかった(訪れた人が存在しなかった?)場所をご紹介してきたので、結構な数になっているかと思う。知られざるアイスランドの姿を少しでも垣間見てもらえればという趣旨です。

今回はF228 (Veiðivatnaleið)のご紹介をしたい。この道路名もアイスランドにありがちな名は体を表す典型で、「Veiðivatnaleið」とは「Veiði=釣り」「vatna=湖」「leið=ルート」のこと。つまりは釣りができる湖がたくさんある場所へ行くルート!人生もこのくらい分かりやすくありたいものだ。

このルートには伏線があった。今年4月のある日、冬の間どこへも行っていなかったため、まだ積雪が残りF道がオープンしていないけれど、痺れを切らしてドライブへ出た日があった。

有名どころのF道はしっかりと「Lokað(閉鎖)」の施錠がかかっていたが、そのような標識が見当たらないF道がいくつかあった。標識がなくとも、少し進めば走行が無理無謀であることは一目瞭然になるので、普通は進まない。進めない。

どちらにしても長い距離を走行するつもりはないけれど、”さわり”だけでも走ってみようかという好奇心が湧き、F228を少しだけ走ったことがあった。

この時期、誰も通らない道なので、こんな場所で立ち往生しても誰にも助けてもらえない。これは引き返すのが得策だし、どちらにしてもどんな感じなのか偵察したいだけだったので、素直にここで引き返した。

その後、私は地図を見てはこの道の経路を追った。この頃はまだ道の名前に気づいていなかった。地図を見ると奥の方にやたら湖があり、細かく得体の知れないジープ・トラック(ジープ道)らしきものが走っていた。水がある場所は美しいことが多いので、興味津々のエリアではあるけれど、未開のものすごい悪路の可能性もあり、はてさて〜と行くまでは地図を見てあることないことを想像するしかなかった。

満を持して向かったのは8月初旬で、道路はきれいに整備されていた。

いつものこととはいえ、絶景だ。まずは砂漠を通る。ずっと雨がふっていないためひどく埃っぽい。砂漠は殺伐としているが、砂や砂利しかないため道を作りやすいのか、昇り坂で対向車が見えない場所は二車線になっていた!F道でこういった場所を丁寧に二車線にしてあるのは見たのは初めてだ。

意外にも交通量が多かった。成功者の象徴のように語られることのあるトヨタの白いランド・クルーザーが次々と走ってくる。私たちはあちこち停車しては写真を撮ることが多いので、ずいぶんと多くの車に抜かされた。

これほど交通量のあるF道は、人気のランドマンナロイガルへ行く道程度しか知らない。いったい何があるのかと話していると、

「そうか、釣りだ!」と彼が言う。

「そうだ、道の名前からしてveiðだね」と、ひょんなところでアイスランド語の学習成果が顔を出した。

今まで気づかなかったのがバカなのだが、とにかく交通量の多さと、高級車ばかりの意味を理解した。

釣りは裕福層を象徴する趣味だ。人気の釣り場は、1日釣竿一本ン万円とか、川の釣り場を1日借りると数十万円らしい。私は興味がないので詳しくは知らないが、とにかく経済的に余裕がないと釣りはできない。

もちろん、庶民的な釣りのライセンスも存在している。数千円で(人気のない)湖などが年間釣り放題だそう。とはいえ、釣れるとは限らないし、子供たちを遊ばせるのにちょうどいいか?程度の場所でしかない。

今年は雨が少なく、どの川も我が家の愛車のジムニーで十分渡れる範囲だ。湖が多い地域へは少し大きめの川を渡る必要がある。交通量があったので、2台ばかりその川を渡るところを見ることができた。深さや走行コースを確認してその場を渡った。念の為ギアも低速にした。

その後の道を進んで見えてきたのは、キャンプ場だった。いや、キャンプ場というよりも、コテージのコミュニティだ。これまでのハイランドで見慣れたポツンと一つだけある、ハイキング者用か緊急用の小屋ではなく、可愛らしいサイズのコテージがいくつもある集落が出てきてびっくり。

いやぁ、やっぱり裕福層は違うわぁ・・・。F道はこの集落で終わるが、ジープ・トラックがあちこちの湖へと通じている。悪路のジープ・トラックだとばかり思っていた道は、走りやすく美しく整備されていて仰天した。こういった道は一車線ですれ違う時に苦労するのが常なのに、ほぼ二車線だった。もう絶句。

湖のあちこちで釣り人を見た。ひとつの湖に多くて3名ほどしかいなかった。日本の狭い釣り堀で、数十名が肩をすり合わせて釣り糸を垂らす風景が脳裏に浮かび、宇宙ほどのスケール感の隔たりに気が遠くなる。

F道を抜け、湖を回る道に入ってからは、あまり車を見かけなくなった。車はきっと、釣り場として当てがわれた湖に分散しているのだろう。我々のように、単なる好奇心で、風景だけが見たくて走ってる車はゼロとは言わないが、ごく少なかった。

山に囲まれ、時には氷河も見える絶景のロケーションだ。湖畔に釣竿を三本立てた後、椅子を二脚とりだし、父と息子か、友人かはわからないが、徐に話し始めた二人連れを見かけた。なんと贅沢なことか。友人や家族と話しながらゆるりと釣り糸を垂れる楽しみは、格別な時間だろう。

街に繰り出し、ビールを煽り、喧騒の中で話せることもあるだろう。せちがらい話で恐縮だが、ビール一杯1500円はする。特に旅先では気が大きくなるのか、一晩で3-5万円を飲んでしまう人も、結構よく見かける。浪費としか思えないそんな出費を思うと、決して安くないこの釣り場も、考えようによっては意外にもお買い得なのかもしれない。

アイスランドのレンタカーは地元の会社で

ここに幾つの湖があるのかを調べてみた。以下が一覧ではあるけれど、これが湖の個数にはならない。それはvatn(=湖)は一つであっても、vötn(=複数の湖)の場合ふたつ以上ではあるが実際いくつの湖があるかは判明しないからだ。一覧は以下の通りで、各湖は説明先(アイスランド語)のリンクが貼ってある。

Veiðivötn:
Stóra-Fossvatn
Tjaldvatn
Langavatn
Breiðavatn
Nýjavatn
Arnarpollur
Snjóölduvatn
Ónýtavatn
Ónefndavatn
Grænavatn
Litlisjór
Hraunvötn

こういった場所を訪れる度に、「次はもっとゆっくりハイキングでもしたいね」と彼と話す。けれど、まだ走っていない道が多く、なかなか再訪に至らない。

レイキャビクから片道200キロの距離で、未舗装道や悪路、川渡りなどもあり、スンナリと来られる場所ではない。だからこそ特別感もあるんだけどね。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。