いささか絶景を見すぎた。贅沢な話ではあるけれど、見すぎて何が絶景なのか分からなくなってきた。
絶景という料理を食べすぎた。美味しいけれどお腹がいっぱいだ。もう入らない。けれどまったなしで次々と押し寄せてくる。目に入ってくるものは拒みようもないし、拒む必要もないので、いっぱいのところに更に詰め込まれるーーー。これ以上入らないようで入るし、美味しいんだけどなんだか感覚が狂ってきたぁぁ〜〜。
先日、ブルーベリーを摘みに行った。車を20分も走らせれば周囲に視界を遮るものがなく、遠くの山が見渡せる場所に出ることに改めて驚異を覚えた。
見る景色のすべてが絶景なので、全部が絶景でいいのか。それとも全部が絶景だとそれは絶景ではなくなり普通の風景になるのか。どっち?
ということで、今回は「絶景ってなんのこと?」という私の悶々とした思いにお付き合いいただきたい。
アイスランドを訪れた人の感想に、「絶景すぎて脳がバグる」というのがある。以前は単純に絶景を喜んでいたのに、この夏、どうも私の中でバグった感が湧きだした。
アイスランドで目にする絶景にはいくつかタイプがあり、分かりやすいのは360度に広がる遠くの景色だろう。なにせスケールがデカい。あまりの果てしなさに感覚が変になりそうになる。
例えば、このような感じの風景だ。
次に分かりやすいのは、奇異な形状かと思う。たとえばゴツゴツの溶岩や、奇岩と呼ばれる石の形なども造形がアートだ。地形も山の形もそうだし、湖やその中に浮かぶ孤島のような土地。特にそれが噴火跡だったりすると、ギザギザが多くて楽しい。それに加え、色彩の妙が更なる相乗効果をもたらす。
水がある風景は、どのような場面でもとても美しい。地球に暮らす生物の全部が輝いて見える夏は当然のこと、その美しさは冬の方が際立つこともある。水があり、山があり、水で削られた地形があり・・・。水に近い場所で、思いがけず絶景を発見することがとても多い。
アイスランドには有名観光地がいくつもあるが、交通の便がいいので有名になっているだけで、実際は探さなくても絶景はあちこちにある。なんだこの国?!
水といえば滝だろう。去年までは美しい無名の滝を探すのが楽しく、滝ハンターになっていたが、今年は滝よりも、ジープ道にどのような景色が詰まっているかを探訪する方が楽しくなってきた。女心は変わるものだ。
前回ご紹介した釣り場天国も絶景でしたね。
同じ場所でも訪れる時期により、見せてくる顔が違うので一度行ったからいいやという訳にもいかない。太陽の位置も写真は大いに関係するので、同じ日でも訪れる時間により大きな差が出る。ちなみに写真はすべてiPhone撮影です。コンデジで撮る努力をしたこともあったけど諦めた。
滝で一番驚いたのはこの細い流れの場所(Þorsteinslundur)で、冬と春では全く別人のようだった。この体験から、春夏に見た滝でも、行ける限り冬も訪れるようにした。
下の写真はSigöldugljúfurで。渓谷に無数の滝が流れ落ちている。ここは冬の景色を見たくても、冬は道が閉鎖されているため入ることができない。一度、「閉鎖」ではなく自己責任の「通行不能」の時に行ってみようと試みたが、雪が深すぎるため、道路の入り口で早々と諦めたことがある。
滝といえば、やはり見る時期や時間帯により、現れる虹の姿も異なる。
場所により温熱地帯、氷河、そのほか場所の特徴などがが好奇心をそそる。氷河は氷の塊なので、てっきり透明の巨大な氷なのかと思っていた。バカ丸出しになるけど、最初に黒い灰だらけの氷河を見た時は驚いた。黒い灰は火山灰であったり、氷河が動く時に削られる地面や岩石だったりする。
次は大好きなのは花のある風景を少しご紹介したい。とはいえ、「こちらアイスランド」を愛読していただいているみなさんには、既視感のある写真ですよね。
贅沢をし続けると何が贅沢なのか、感度が鈍感になってくる。パンがないならお菓子を食べれば?のような人にはなりたくないけれど、アイスランドの景色に関しては、感覚が麻痺して何が絶景なのか分からなくなってきた。
なのに、なのに、な〜の〜に〜、毎回ドライブへ出る度に、「ここは絶頂の絶景だ!」と思うのは何故だろう。心の中で「もう絶景はいいからカンベンして」と思っているのに、「やっぱり絶景はいくら見てもいいものだ」とも思う。支離滅裂!
絶景とはいったい何のことだろう?絶景の定義は?
日常的に絶景があり、その上乗せで絶景を見続けるので、日常だから普通の風景なのか、普通でも絶景なのか、絶景は非日常でなければいけないのか、考えれば考えるほど、脳みそが耳の穴から流れ出ていく。
ーーーという冒頭にも書いた絶景堂々巡り。たぶん誰も理解できませんよね・・・。
今年の夏休みはアイスランド人でさえ知らない辺境の絶景を、丹念に紐解いていった。それでもまだまだ目にしていない土地がたくさんある。インスタに突然現れる味わうことがないであろう美味しそうなお菓子を見ているように、地図を眺めては、行ってみたいなぁとニタニタするけど、行けないイライラもついてくる。
9月の声を聞いて彼は仕事に戻り、私の生活もやっとコロナ前に近づきつつある。絶景で熱った脳ミソは、秋の風で冷やせばいいのだろうか。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。