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こちらアイスランド(143)卒業証書授与にちょっぴり感激。アイスランド語基礎課程の1年間の受講報告〜小倉悠加

9月に入った。夏休みを終えて子どもたちは学校に戻り、会社員もやっと全員揃っての営業が開始された。学生・生徒は三ヶ月間、社会人は6週間ほどの長い夏休みが今年も終わった。

夏休みは夫の予定につきあうことになる。もちろん大半の物事は喜んでお供している。彼の意向を優先することの多い長期休暇と週末以外は、フリーランスの私は自由に時間を使っている。縛られるのが苦手なので、新卒でレコード会社で数年働いた以外は、ずっとこのような生活が続いている。外の喧騒が苦手なこともあり、95%の時間は家にいる。

そんな風に時間を好き勝手に使っていた私が、大学の授業というスケジュールに従いきっかり動いたのが2022年秋からの1年間だった。アイスランド語のコースを1年間受講した。

アイスランド語に関しては、悲喜交々を何度かこのサメタイでお話ししたと思う。で、その後どうなった?という報告がまだでしたよね。

まずはおさらいから。

一年前に書いた文を読み返した。モチベーションを低く保ち、とりあえず目の前の課題をこなすのが最後まで続ける鍵だと思っていた。結果はその通りで、「いつでも辞められる、どーでもいい」という自分を縛らない方針が功を奏し、続けることができた。

ふと思い出した。私は幼い頃から「欲のない子」だった。母が小学校の面談に行くと、必ず先生から「欲がありませんね」と言われた。「やればもっと出来るのに」ということも。トローンとしていたのかといえばそうでもなく、主張する時は主張したらしい。今回もそれに近かったと思う。

日本人の習性なのか(?)授業中に質問はせず、自分の中に抱えて家に戻るのが常だった。それを悶々と自分で考え、時にネット検索に頼り、それでも解決できない時はアイスランド人の夫に尋ねた。

若い頃、予習復習をしなかった反省を踏まえ、特に前期はそれも忠実に行った。宿題は全部提出した。その結果、成績はすこぶるよかった。ある教科では10評価段階中最高の10をいただいた。

後期は最初の一ヶ月間は日本滞在となり、オンラインで受講した。勉強に避ける時間が限られ、講義があるために日本での貴重な時間が制限され、歯がゆいことの多い時間だった。文法が複雑化してきたこともあり、後期の最後はかなり息切れがしてきた。その心持ちは以下のコラムに書いた通りだ。

5月初旬、期末試験をすべて終えた。追試のお知らせもこないので、とりあえず及第点だったのだろうと踏んだ。次に連絡が届いたのは、6月に入ってからで、「卒業するのでしょうか、それとも次の過程に進みますか?早く教えてください!」と催促のメールが届いた。

ん?5月の試験直後から関を切ったように仕事が入り、どうやら大学からのメールを見落としていたようだ。ギリギリで「卒業」申請をした。

学位卒業ではないためセレモニーはない。入学時にオリエンテーションがあったように、終了時も小規模でいいのでセレモニーがあれば嬉しいのにと少しだけ残念だった。

「証書の用意ができました。事務所に取り来られたし」の連絡には「夏休みに入るため、事務所には受け取りは7月10日までに」と日時が指定されていた。午前10-12時、午後1-3時の間に受け取りに来いという。普通に仕事をしていたら絶対に取りにいけない時間帯!事務所の所在地の明記もない!(当然知ってるでしょ、ということ?)。

微に入り細してお膳立てされることの多い日本の物事が当たり前だと思っていると、アイスランド式のやり方に肩透かしを食う。かなりいい加減!

「大学の事務所」と書いてあるので、大元の事務所の門を叩いた。すると「ここではない」と言われた。あぁやっぱねぇ。きっと人文科の事務所だ。と、別館の人文科へ向かう。

感じのいい事務員の女性が私の名前で検索をして、証書を持ってきてくれた。そっけなく手渡されるのだろうと思っていた。ところが、彼女は私の正面に立ち止まり、呼吸を整えた。改まって証書を両手に恭しく持ち直すと、私の名前を読みあげて」と手渡してくれた。

「Til hamingju (おめでとう)

「Takk fyrir(ありがとう)」

少しばかり改まった気分になり素直に嬉しかった。ちょっぴり感激。

こういう場面はアイスランド語で何か返すべきだけれど、私の語学力では「Takk fyrir(ありがとう)」しか出てこない。他のフレーズも思い浮かんだが、文法が確かでないため、日本人の”間違ったら恥ずかしい”が邪魔をして、「Takk」以外は口に出せなかった。事前に用意していなかったことを悔やんだ。

成績表や学長のお祝いの言葉と共に頂いたのがこの証書。同じ内容でアイスランド語と英語の両方が入っていた。ディプロマなので、卒業証書ということになる。

アイスランド大学は60代のシニア学生を、若い生徒と分け隔たりなく扱ってくれた。とても気持ちのいい学生生活だった。クラスメイトだった周囲の学生にも感謝している。

感謝の気持ちを本来であれば一人ひとりの講師に直接伝えたいけれど、そのようなことでアポを取られるのも迷惑だろう。先方の都合を考えるとそこまでしてもと思うので、学期末に行われる講師評価のアンケートに、そんな思いを託した。匿名ではあるけれど、感謝の気持ちが少しでも伝わればと願っている。

1年間の基礎コース終了時、成績の平均が10段階評価中7.25以上であれば学士課程に進むことができる。ちなみに私は8.5以上あったので問題ない。繰り上げ入学になるため、基礎課程の入学申請に必要だった英語学力証明書等も関係ない。手続きは簡単だし、入学できることは確実だ。

もうアイスランド語を学びに通うことはないとは思うけど、もしももしも、も〜〜しも万が一、来年アイスランド語をかじりたくなったら、再入学したい。

という可能性をゆるゆると残しつつ、「お後がよろしいようで」と高座から離れることにした。

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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