日本に戻って一ヶ月強が過ぎ、アイスランドへ戻る折り返し地点となった。
アウェイ感が薄らいだのと引き換えに、私はいったいどっちの人なのだろう?というどっちつかず感が出てきた。きっと戻る直前には、やっぱ日本でしょ!感になってるのかな。
1月は自宅と実家を一週間ずつ往復した。特に一週間と定めた訳ではなく、スケジュールを入れていくと、自ずとそうなっていった。自宅にいる間は人に会うことを優先した。場所的に便利だという理由が大きい。かつて実家から都内の大学に通っていたくらいなので、実家から都内に出ることは特に問題ないが、連日夜遅く帰るのも気が引けるので、滞在をそのように切り分けた。
実家にいる間はひたすら母の言葉に従い、用事を済ませていく。
今日の朝「本日のあなたのスケジュール」として朝一番に仰せつかったのは、コロコロでのお掃除だった。
掃除機は週に一度やってくるヘルパーさんがかけてくれるので、母は2-3日に一度、コロコロ(粘着テープでゴミをくっつけて取るやつ)で一階部分のあちこちを掃除する。それを今朝は私の仕事として割り振ってきた。
簡単な用事だ。粘着テープを文字通りコロコロすればいいだけだ。テープを捲るのが厄介であることは知っている。
「テープの紙をめくるのが大変でしょう。私がそれは手伝うから」と母に言われた。
「お母さん、心配しないで。私がひとりでできるから大丈夫」
「けっこうベッタリくっついてやりにくいからね」
「わかってる」
前回そう言ってコロコロの作業を司った時、実は大失敗をした。
まずは真新しい粘着テープの時、それをいきなりフローリングに置いてくっつけてしまった。母からは事前に「新しい面は必ずマットの上で一回コロコロした後でフローリングに使ってね」と注意をされていたにも関わらず、だ。
そのテープはフローリングにくっつき、力をかけても動かない。無理やり剥がしたが、見事にテープの一部がフローリングにくついてしまった。
母にはそのことを内緒にして、私は地べたに這いつくばって床に粘着したテープをこそげとった。初心者の自分を実感した。
台所をコロコロするとパンクズやらの小さな食品の破片でテープが埋め尽くされ、ここら辺で粘着面を交換しようと思った。厄介なのは私の長い髪の毛で、テープの切れ目は分かっても、自分の髪の毛が邪魔で紙がはがしにくい。
それでも何とか一枚目はきれいに剥がせて、次の時に剥がしやすいように目印も折っておいた。
ふふ、これで大丈夫。次は風呂場マットの上でまずコロコロして、それから私が使っている部屋へ移動した。
次に紙を剥がそうとした時にアクシデントは起こった。目印をつけた場所ではなく、次の切れ目から剥がした方が効率的ではないかと思った。というのも、目印からはがすと、次の切れ目がとてもわかりにくい。最初から次の切れ目に沿って剥がせば、シュっと目印の場所まで簡単に剥がせるのではと思ったからだ。
素人は浅はかだ。物事を表面的にしか知らない。浅い経験での考えは、熟練者の技に及ぶ訳がないのだ。
考え方として合理的に見えた私の案は、やってみて見事に挫折した。まず、切れ目は入っていても、ペタンとくっついている場所の真ん中をこじ開けようとすること自体が無理だった。それを無理にやろうとすると、次の層までひっぺがす可能性があり、やっているうちに、どちら側がひっぺがす側で、どちら側がそのまま残すべきなのか、訳がわからなくなってくる。
だからといって、目印からめくるのは敗北感が伴う。所詮はただのコロコロだ。やってやれないことはない!
と、変な意地を発揮してしまった。すると、途中から切れなくていい場所からシートが剥けてしまった(という説明でわかるとは思えないけど、まぁいいや)。途中にあるその下の層の切れ目がくっついてきて、下の層がいくつも中途半端にむけてしまう。
これは、布地でいう順目と逆目の違いなのだろうか?ほら、ある方向から撫でる分にはスムーズでも、逆側から撫でると毛羽立ってしまうとか、繊維の並び方との関係で、同じ行為でも結果が真逆になってしまうとか?
シート剥がしに失敗しまくり、半泣きべそになってしまった。これ以上自分で続けると収拾がつかなくなると判断し、専門家の助けを仰ぐことにした。
その惨事を見た専門家は「あちゃ・・・」と呆れ顔。
当然ですよね。素人の私が玄人を簡単に越えられると思ったのが間違えだった。ごめんなさい。
「これは何層か下まで影響してるから、このまま使っていくわ。そのうち元に戻るから大丈夫」
そうですよね、先生。無理に綺麗にしようとすると、無駄が多すぎるから、このまま使っていくうちに、自ずと全般が整っていくのを待つしかない、と。御意です!極意です!はっはぁ〜〜と頭の垂れたのは言うまでもない。
やたら前置きが長くなったが、そんな理由で今日はありがたく先生にシート剥がしをお手伝いいただいた。
次は植木の刈り込みだ。改めて庭に出てみると、例の「ちっちゃな石がみっつ」が華やかになってる!
そういえば、ちっちゃな石の周囲に小石を置くと可愛く見えると言っていたっけ。それをやったんだ。なるほど、少しばかりアートっぽい感じになっている。
この部分は母と私のコラボ作品だ。
思い起こせば、ちっちゃい石が入っている部分は芝にこんもりと占領され、てっきり四角の石の間に芝を植えたのだとばかり思っていた。という話は去年このコラムで書いた通りだ。
ちっちゃい石を発掘したのは私で、その後は母が石の周囲に玉砂利を入れた。腰を折り曲げるのが大変なので、どのようにして作業したのかは知らないが、たぶん、母は心に描く理想系に近づけたく、嬉々として作業をしたに違いない。
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。