3ヶ月連続、3回目の噴火がアイスランドで起こった。噴火開始は2024年2月8日午前6時2分。5時半頃から地震が頻発し、ほどなく噴火が始まった。場所は12月に噴火した割れ目に沿ったかたちで3キロメートルに渡りマグマが噴出した。マグマのプルームは50-80メートル。そこそこの規模だ。
驚いたか驚かなかったかといえば、両方だった。2月に入り「数日から一週間以内に噴火する」と言われていたため、そのような状況になろうということは周知だった。同時に、噴火してみると「やっぱり本当に噴火するんだ!」という、少々間抜けな驚きも抱いた。
私の第一報は彼がメッセージに添付してくれた写真を使った。我が家のバルコニーから、今回もありありと噴火の光が見えていた。
現在私はまだ日本にいるので、あとはみなさんにニュースを引用しつつ状況をお伝えするのに終始した。このような仕事(?)を請け負ったのも、日本のマスコミがあまりにもいい加減だし、私以外には誰もやらないからだ。
私はニュース報道機関でもなく、報道の必要性はない。でも、世界の隅で起こっている物事を、できる限り正確に伝えたい、知ってもらいたい、間違った憶測の余地をなくたいという思いは強い。
幸運なことに何度も実体験することができた火山噴火で、学ぶことが多かったからだ。無駄に恐れる必要もないが、恐れるべき要素は多い。それを実例で、私の投稿を通して少しでも知ってもらえればと願っている。
結論を先に書けば、午前6時に開始した噴火は、約9時間後の午後3時頃には勢いを失い、丸一日経った現在は、すでに沈静化に向かっている、進行はやっ!
私は噴火開始50分後にツイッターの投稿を開始した。そこからは休みなく逐一その状況を、アイスランドのニュースメディアを引用して実況中継よろしく追っていった。
現地の状況の変化は、この日の私のツイートを追えばよくわかるはずだ。「こちらアイスランド」では、その主なところだけをダイジェストしてお伝えしよう。
噴火場所は12月と同じだったので、街への影響は考えにくかった。実際、民家をマグマが襲うことはなかった。けれど、問温水パイプが切断される可能性が出てきた。溶岩の流れが温水パイプの方向へ進んでいるからだ。
温水はアイスランドの重要な公共インフラだ。日本人が温水という文字を見てもピンとこないとは思うが、アイスランドの暖房は温水に頼っている。ありとあらゆる建造物の室内を温水で温めているのだ。各コミュニティに必ずある公共プールも温水で賄われる。
この寒い時期に暖房器具が使えないとどうなるのか?下手をすれば人は凍死する。そこまではいかなくても、ひどく寒い思いを強いられることになる。年少者や年長者には非情に厳しい住環境となる。いや、耐えられないかもしれない。
アイスランドでは家を長期留守にする際も、暖房はそのままつけておくのが常識だ。温度を若干下げることはあってもほんの少しだし、暖房は絶対に切ってはいけない。鉄則!
暖房を切ると室内温度だけではなく、建物自体も凍りつく可能性がある。帰宅して室内を温めようとしても数日かかるし、室内温度が下がりすぎて、機能しなくなる物事が出てくるとも限らない。一番怖いのは、暖房自体が機能しなくなることだとアイスランド人は言う。
その温水が使えなくなると、停電と同様、いやそれ以上に深刻な問題をもたらす。
そんな大切な温水パイプへと溶岩が進んでいることが判明した。上の動画は、溶岩が主要道を横断し、温水パイプへと矛先を向け始めたところだ。
当局は「タイムリミットまであと3時間」と発表した。溶岩が温水パイプを切断するまであと3時間。
もちろんアイスランド人がただただ呆然と立ち尽くす訳がない。彼らは賢く勇敢な民族なのだ。とにかくベストを尽くす、ベストを尽くせ!
マグマは容赦なくグリンダビクの街の主要道を横切り、地熱発電所やブルーラグーンへと向かい出した。とはいえ、コース的にはまずこの2施設は大丈夫だろうし、防護壁も作られている。が、やはり温水パイプの切断は避けられそうにない。
このような事態になる可能性は以前から判明していた。なので、12月の噴火後、クリスマスも返上して対策を取り始めていた。それは、地上にある温水パイプが切断された時のために、地下にパイプを埋めることだ。
温水パイプは地上にあった方が本来はいいのだ。地震で地中が動くことが多いため、地上に出しておいた方が振動の影響を受けにくくできる。けれど、今回の場合背に腹は替えられない。
ライブビデオを見ていると、目の前に溶岩が迫るそこで、重機が猛スピードで動き続けている。重機のシャベルといえば、もっさりした動きしか私は思い浮かばない。それがもう、サクサクとベルトコンベア上の機械の手のように動き続けていた。
何の作業をしているのかはわからなかったけれど、とにかく最後まで諦めないという固い決意を感じる作業ぶりだった。
噴火地近くにはスヴァルツエンギ地熱発電所があり、温水パイプがそこからレイキャネス半島の各コミュニティに配られている。ここからの温水がないと、影響を受けるのは2万4千人と言われる。
ここで作業を終えることができれば、多くの人民の生活を救う隠れたヒーローだ。作業にも熱が入ろうというものだ。ちょっとばかり目頭が熱くなるような仕事ぶりだった。
ちなみに、レイキャビクを中心とする首都圏は別の温水源を使用しているため、今回の火山で切断された温水パイプには頼っていない。
残された時間はあと1時間程度、というところで重機が動き出した。そしてある場所でずっと動かなくなってしまった。現地時間午前11時57分。作業を急いでいるのではないのか?どうした重機。燃料がなくなったか、オペラーターの交代か?あれ、いや、時間的にもしや・・・。
上記のツイートを書いていて、自分でも冗談なのか本気なのかわからなかった。半ば冗談だけど、アイスランド人なら主張しかねないとも思ったのも本当のこと。アイスランド人、結局はいい加減だから(笑)。
あのライブカムで見た作業が実際にパイプ関係だったのか、それとも防護壁の補強だったのかはわからないけれど、このニュース記事ではパイプの作業は間に合ったし(急いで間に合わせたんだろうな)、水源をそのパイプにつなぐ作業を完了すれば、再度温水を各コミュニティに配給することができるという。よかった!
ただし作業している間は温水が止まるし、各自治体や建造物の温水の備蓄は限られている。そうかといって電気を使って室内を温めようとすると、電力不足に陥ったり、最悪の場合停電になる。温水も電力も温存する必要がある。
温水ほど大きな問題ではないが、送電線も一本溶岩で切断さえざるを得ないものが出てきた。全体のオペレーションに多大な影響は出ないものの、パワーは落ちるので、これも考慮されるべき物事となった。
世界の火山を知る火山学者がそう言うのだから、世界でも珍しい物事なのだろう。これができるのも、2021年から安全な場所に3回ほど、それも長期間の噴火があったおかげだ。マグマからの防御やケーブルの耐久性など、さまざまな実験を行う機会を得たからなのだろう。
加えて、国民の理解もある。野次馬とはいえ、何度も噴火現場には私も足を運んだ。音を立てて吹き上がる溶岩の、その熱を感じながら圧倒されたり、美しく流れる溶岩もたっぷりと見た。火山のどこの何が怖くて、どこまでが大丈夫なのかを実体験を通して知ることができた。とても大きな収穫だった。
こうして温水パイプが切断されて間もなく、マグマの進行の勢いが止まった。それはもう何だか「温水パイプ切断成功。これにて任務終了!」のような速さだった。
マグマの勢いが止まったとアナウンスされたのは、噴火開始からたった9時間後のことだった。
噴火は怖いけど美しい。美しいけど怖い。容赦ないけれど慈愛に満ちている。慈愛に満ちているけれど荒々しい。
温水の復旧は希望的には翌日だったが、どうやらあと1日ほどかかりそうだ。同じ地域内にあるため、ケプラヴィク国際空港も本日は暖房無しだったそうだ。レイキャネス半島の幼稚園や小学校、図書館や公共プールは温水がないため休校した。
噴火から丸1日間が経過した現在、噴火が続いている火口は2箇所のみだ。このままいけば一週間後には終息宣言が出されるのではないだろうか。
終息宣言といっても、またきっと一ヶ月後には近隣で噴火する可能性が高いと思われる。ん?それって私がアイスランドに戻る頃?!
このコラムでは火山が噴火するたびに取り上げてきたので、読者のみなさんが飽きていないかと思ったけれど、噴火の記録としてまとめておけば後日の参考にもなるので、これからも毎回取り上げることにした。だから、これからも噴火するたびに「こちらアイスランド」は噴火モードになる。飽きたら、ごめんね!
小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。