政治を斬る!

こちらアイスランド(153)日本のテレビ新聞が伝えた「火山大噴火、街全滅」報道を現地で徹底検証!州兵はいない!ひとつの地熱発電所で全土の電気は賄っていない!どうなってるの?日本のマスコミ!〜小倉悠加

マスコミの報道はこれほどいい加減なものなのかと、苦笑と落胆を通り越して脱力状態になっている。

テレビは911のテロ以降見なくなって久しいし、新聞も311の大地震から数年後には購読をやめた。筋金入りのマスコミ嫌も手伝い、何を信じるかの取捨選択がさらに難しくなったことを知った。

確かに前回このコラムの書いた時は群生地震の最中だったし、それが続いて避難騒ぎまでになった。それは事実だ。

当初それを伝えたのは海外のマスコミだけで、たとえば目についたところではBBCやブルームバーグ、ロイター、AFPなどの通信社が報道した。

目にとまった範囲で淡々と事実を書いていたのがロイターだ(記事)。タイトルは「アイスランド、南西部で近日中に火山噴火の可能性 避難命令も」。一番揺れていた直後に放たれた記事で、近日中に噴火の可能性は私も揺れの中で思っていたことだった。

ロイターに関しては写真を見ただけではピンとこないかもしれない。でも私には人々が冷静に対処している感じがよく出ていて、優秀な報道写真だと思われた。

それに比べて写真のおどろおどろしさに釣られたのか、ツイッターで最も引用されていたのがブルームバーグ記事)だった。タイトルは「破壊的噴火に備えるアイスランド、漁師町壊滅の恐れ」。写真は火山灰を噴き上げる2010年に噴火したエイヤフャットラヨークトルの写真だ。

AFP記事)も淡々としていた。タイトルは「火山噴火の恐れで避難の住民、数分間の一時帰還 アイスランド」。中身を読めばその通りという事実であった。

311の余震のような群生地震が続き、それは2021年の最初の噴火体験の時や続く年の噴火時の前にも体験した。なので、群生地震直後の13-14日あたりまでは、「火山噴火の兆候、大変かも!」というニュアンスは不適切ではなかった。

ここで少しおさらいをしたい。アイスランドの火山噴火といえば、ヨーロッパ中の航空便を足止めにしたエイヤフャットラヨークトル(氷河)の下にあった火山が有名だ。その後いくつか火山噴火はあったが、2021年から3年連続で噴火した火山は、見学に行けることで人気が出た。見学の記事は私も何度かこのコラムで書いた。

 アイキャッチにしたこの写真は今年7月末日に撮影したものだ

3年連続、私の身近なところで火山は噴火している。その時は「火山見学最高!」のような記事しか出なかった。比較的安全に見学ができて、山間部での噴火であったため、人里には影響がなかったからだ。

今回は違う。マグマのトンネル(岩脈)が、グリンダビクの街の北西部をかすめている。長さは15キロで、その先端は海まで通じているとのデータが出てきた。

海で噴火しては一大事だ。そこで飛び出したのが「大惨事!街壊滅!」という大見出しだ。

確かに半日ほどそういう考えが主流だったことは認める。けれど、地震は海側に寄ったかと思うと、半日後には北の陸地側へ戻っていった。専門家も海での噴火の可能性は低いという意見で一致した。

事象は動き続ける。海での噴火の可能性はいつでも存在するが、可能性が高かったのは過去の話だ。

そんな頃に、やっと日本の報道機関の記事が登場した。

大手のマスコミで先陣を切ったのが朝日新聞だった。鮫島さんが長年勤務した新聞社だ。以下、記事タイトルは元記事にリンクしてある。

朝日「アイスランドで噴火の可能性高まる 専門家「街全体が壊滅するかも」
2023年11月13日 20時52分

この記事に対するリアクションをば。まずは火山の地質学者である早川氏のツイートから。

朝日は割合さらりと書いている。それ自体に大きな問題はないが、大きく抜けた物事がある。それは住民避難についてだ。当局が「警戒情報を発出」した後、深夜にも関わらず住民が粛々となんの混乱もなく避難したことを一言も書いていない。片手落ちではなかろうか。

写真も2010年の関西空港のもので、記事との関連がよくわからない。航空便の懸念を煽る印象操作か。

最後の専門家の意見には疑問が大きい。その話は過去のことでしたよね?!という感じだ。取材がいつだったのかは分からないので、もしかしたらまだ震源が北側に動いていなかった時のことなのか?

海で噴火の可能性が高く叫ばれていたのは、半日程度の短期間だった。私の記憶では避難を発表した翌日、アイスランド時間11月11日の夜には否定され、12日の朝(日本時間12日の夕方)には震源は完全に北側へ移った。

独自にきちんと物事を見ていないのか、単なるセンセーショナリズムなのか、続く日本のマスコミ報道のひどいこと・・・。

日経 「アイスランド「噴火の危険性高い」 航空便に影響も
2023年11月15日 2:04 (2023年11月15日 21:13更新)

日経は経済だけ見ていればいいのに。いや、火山噴火でフランス革命が起こり、日本でも飢饉が起きますからとばかりに取り上げたのか・・・。

日経は会員ではないため、無料で読めるところだけを見た。次の一文は最悪ではないだろうか?

火山は国際空港のある首都レイキャビクに近く、噴煙の拡散などから航空便に影響が出る可能性がある。同国政府は11日、非常事態を宣言した。」

これでは、「航空便に影響がでるため、政府が非常事態を宣言した」と読み取れる。空恐ろしい。その上、国際空港はレイキャビクにはないんですが〜〜!これには苦笑するしかない。

ちなみに我が家はレイキャビクのど真ん中にあり、家のバルコニーからは国内空港が見える。国際空港はここから車で40-50分の距離にあり、一番近いのはケプラヴィクという街だ。国際空港名も同じくケプラヴィク空港という。

また、日経のこの記事には「非常事態を宣言した」とあるが、在アイスランド大使館・領事館及び外務省は文言を「警戒情報を発出」に統一している。前回の私のコラムもそのように統一した。外務省のサイトを見ればわかることだ。

無料の部分の文章しか読んでいないために私が誤解しているのだろうか?いや、やはり誤解を生むような文章を、大手マスコミが、それも誰でも見える場所に書いてはいけない。

NHK 「アイスランド 噴火のおそれ高まり4000人近い住民避難
2023年11月15日 5時51分

NHKはまともだ。面白くもない記事だけれど、間違ってはいない。ただし、一点に関しては言葉が圧倒的に足りない。

2010年の噴火でヨーロッパの航空便を止めたことを言及し、「地元の専門家は、今回はそこまでの爆発的な噴火になる可能性は低いという見方も示しています。」と、航空便への影響を否定するのはいい。

それだけでは噴火の規模が爆発的ではなく小規模だとなってしまう。そうではない、これは噴火地が海なのか陸なのかの違いだ。丘の上の噴火であれば航空便への影響がないことは、過去3年間の噴火でわかっている。今回、もしも航空便に影響が出るとすれば、噴火地が海か陸かの問題で、規模は関係がないことがこの文章では見えないのだ。

アイスランドのレンタカーは地元の会社から

内外の報道機関から、「火山噴火する、危険!危険!」という印象操作の効果か、航空便を心配するSNS投稿が目立つようになった。そしてついには日本への影響まで言及する人が現われた。

日本の地震に備えてのことであれば十分に理解できる。もちろん備えあれば憂いなしとはいえ、アイスランドの火山の影響を心配してゴーグルやガスマスクまでの用意はーーー。私が能天気なだけかもしれない。トイレットペーパーの備えは、日頃から心がけておきたい。

さて、今度は真打の登場だ。テレ朝の報道が最悪だ。どの番組かは知らないが、誤報に最初は苦笑した。編集されてきた次の動画にも同じ間違いが繰り返され、私の落胆と脱力が止まらない。

テレ朝(動画)住宅地でマグマが噴き出す? アイスランドで“火山危機”住民が一斉避
2023年11月15日21:26  動画のリンク↑

これを見た私がパニックになりそうだった。

以下のツイートはこの動画を見て仰天して書いたものだ。

大まかなことは上記ツイートを見てもらえばわかるだろう。

ツッコミどころ満載で、州兵に至っては苦笑するしかなかった。アイスランドには州もなければ、兵士も存在しない。

パニックに関しては、確かに個人的にパニクった人もいたことだろう。しかし集団パニックとはほど遠く避難は粛々と行われた。午前3時までに避難完了を目指していたが、午前2時には全ての住民の避難が完了したとの報道が出た。

避難のナレーションのところで映し出されるのは昼間の風景だ。現在アイスランドの日没は16時ごろで、夜中は真っ暗である。夜中に避難したのに、昼間の動画はどう見ても変だ。

昼間の渋滞は一時帰宅の列だ。通行止めの道なので、街の入り口で住民であることを確認し、注意事項を言い渡し、場合によってはレスキュー隊員がつきそう場合もある。そんなこんなで時間がかかり、あのような列をなしていた。決して避難時の渋滞ではない。

避難は11月10日、金曜日の深夜、急にアナウンスされた。群生地震で家が揺れてばかりいる。自宅にいても落ち着くことができない。土日は学校もないため、多くの住人が街の外に出ていた。その数は半数以上だったという。なので、余計に避難はスムーズだったのだ。いかにこのテレ朝の報道がいい加減か、非常によくわかる。

「当初は海で噴火する」とは言われていなかった。これは時系列の問題で、どこの時点を出発点とするかにもよる。テレ朝のこの動画は避難前と直後のことを中心に扱っている。とすれば、海での噴火の可能性が言われる前のことだ。

海での噴火が疑われたのは11日の正午に気象庁が地震の震源をまとめて発表したあたりから夕方ごろまでの半日間だ。その後はまた地震の震源地が陸地へ戻ったため言われなくなった。同時に、火山学者が海側の硬い地殻プレートに言及し、まずあり得ないということですぐに落ち着いた。

テレ朝「アイスランドで火山性地震が頻発 道路は陥没・ひび割れ…大規模噴火の懸念も」
2023年11月16日12;24  動画のリンク↑

なんのために再度動画を掲載したのか意味がわからない。内容は少し変わっていたが、相変わらず州兵が登場していた。再度私のツイートを。

間違いを正したのかと期待したのも束の間、また州兵が登場した。トイザらスで調達するのか?

夜中直前に避難が言い渡されたのは、土地の隆起(陥没かも)が数時間で120センチに達し、これは近隣のファグラダルスフャットルが噴火する前に10日間かかった数値よりも大きかった。もちろん頻発する地震も酷かった。決してこの動画で言われるような空気中の二酸化硫黄の上昇ではない。

ただし、二酸化硫黄上昇騒ぎで一時帰宅を早めに切り上げたことはあった。理由は計器の取り扱いにあった。初めて測定計器をつけたところ、太陽光がないと正確な数値が出ないという癖がまだ飲み込めず、正しい判断ができなかったのが原因とされている。

テレ朝の報道では、前回と同じ一時帰宅での列を「避難の渋滞」としている動画を出し、そこに「二酸化硫黄上昇につき避難」という解説を加えた。避難と報道するからには避難時の物事であり、一時帰宅時の出来事ではないと解釈するのが普通だろう。ん??

時系列がバッラバラだ。

「政府の推測でマグマが住宅地に吹き出す可能性」これも非常に不正確な描写だ。気象庁や学者はマグマのトンネルが街の北西の端を通っていることは言及している。マグマの通り道であれば、どこで噴火してもおかしくない可能性はある。そんなことは素人でも言える。政府から「住宅地に噴き出すこともある」という正式な言葉は断じてない。

あれもこれも、怖いですよという印象操作だ。

ちなみに道路の蒸気は温水パイプの破損によるものだ。私も最初に見た時は一瞬ドキリとした。けれど、道の横から蒸気が出てるのはアイスランドでは時々見かける。

アイスランドは全土が温水暖房なのだ。それを知ってるので、みんな蒸気が出ていても平然と歩いている。もしもそれが噴火直前の蒸気であれば、即時逃げる必要がある。誰も逃げないし、動画を撮っている間も噴火などないので、原因は温水パイプからの蒸気だ。

ではその水蒸気が温水パイプの破損であることをなぜ言及しないのか?

アイスランドでは当たり前すぎてする必要がないから!

最後になったが、報道とはこういうものではないかという、まともな報道がやっと出てきたのでご紹介しておきたい。これも、テレ朝だ。同じテレ朝でもクオリティが違いすぎる・・・。

アイスランドで火山性地震 街の下にマグマの“通り道”(2023年11月16日)

https://www.youtube.com/watch?v=pI18LG-xMzI

ご存かと思うが私はアイスランドに在住している。日本のテレビは見ることができない。なのでネットで掲載されているもの、Youtubeなどに断片的に出ているものしか見聞きする機会がない。番組内でアナウンサーがフォローしたか等は一切わからない。

新聞やラジオ、テレビなどが唯一の情報源である時代は過ぎた。SNS等で流れてくる素人の速報の真偽を、私は信頼できるマスメディアで確認したいと思う。現在のマスメディアというのは、そういう確認作業、情報のまとめを担うのではないか。

ジャーナリストは多くの物事を扱い、時間内にそれをまとめる必要がある。諸般の「大人の事情」もあることだろう。それを差し引いても、私が見た大手の記事はジャーナリズムの精神が見えないどころか、超いい加減だ。テレ朝の動画に至っては、外交問題にならないかと心配するレベルのお粗末さだ。

そんないい加減な報道でも、誰も真偽を分からないから放置なのか。私は分かったけどね。

そう、特殊な環境にいる者しか真偽はわからない。マスコミがいかにいい加減なものなのか、当事者に近い場所に身を置き、今回はひしひしとその不条理を感じた。感じたというより、事実として目の当たりにした。

本物のジャーナリスト、ジャーナリズム精神に則った報道。迷子になってるようですね・・・。


これを書き終え、さて風呂にでも入って寝るかと思った矢先、爆弾が投下された。

産経 アイスランドで火山大噴火の兆候 地震や道路陥没 当局が非常事態宣言

「グリンダビークから約5キロ離れた場所にはアイスランド全土の電力をまかなう地熱発電所が稼働しており」

一ヶ所の地熱発電所でアイスランド全土の電気を賄っているわけがない。アイスランドの電力は100%グリーンエネルギーだ。ざっくりと水力75%地熱25%とか、水力70/地熱30あたりだ。バカも休み休み書け!

小倉悠加(おぐらゆうか):東京生まれ。上智大学外国語学部卒。メディアコーディネーター、コラムニスト、翻訳家、ツアー企画ガイド等をしている。独自企画のアイスランドツアーを10年以上催行。当地の音楽シーン、自然環境、性差別が少ないことに魅了され、子育て後に拠点を移す。好きなのは旅行、食べ歩き、編み物。

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